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(結局散歩)深夜の集い②

あらすじ
終電が迫る中、何故か友人のデブが、僕たちを不味いラーメン屋に連れていってくれるといいます。頭がおかしいですよね。

意気揚々と歩く背中は、さながら立派なサラリーマンです。

日本は言うまでもなくラーメン大国です。あらゆる場所にチェーンから個人経営まで、様々なラーメン屋が存在しています。たくさんあるのだから、その中に不味い店があったとしてもおかしくはありまんせんが、個人的な感覚としては、逆に競争が激しいことで、不味いラーメン屋はほとんどありません。あったらすぐに潰れます。

デブは言うわけです。「不味いラーメン屋さんって珍しくね?」「お前らに味あわせてやらないと」
もう一人の友人、ドングリもそのお店に行ったことがあるらしく、ドングリは絶えず「不味いから行きたくない」と喚き散らしています。すると意味がわからないことに、デブもまた、「俺だって行きたくないよ。何で不味いラーメンなんて食べなきゃいけないんだよ」と矛盾する発言を繰り出します。

そんなことを言われると、僕とサイコパスからしたら、これは「行きたい」という意味だな、と解釈するのも無理ないではありませんか。
なるほど確かに不味いラーメン屋さんは気になるな、という好奇心と、デブとドングリからの執拗なアプローチに押され、僕とサイコパスは仕方なくデブに従い、噂の不味いラーメン屋さんへと向かうことにしました。

あるいは、サイコパスには別の目的があったのかもしれません。終電を逃すという目的が……。

終電間近の電車が走る線路に背を向けて、僕たちはラーメン屋に向かって歩き出しました。


不味い!

僕とサイコパスは、スープをすすった瞬間に悶絶しました。

僕は水が悪いと思いました。まるで小学校のプールの水を引いてきたかのような、透明度のない科学が混じった水が、スープのふりをして目の前にそびえているのです。

サイコパスは油が悪いと思いました。腐った世界から取り出してきた秘伝の油を普通の油の如くたっぷりと使っているので、結果的に嗚咽を促進させるアクの強い油となっていました。

小学校のプールに、腐った油を浮かべたスープが、一口目から僕たちを襲ったのです。

また、チャーシューも絶品でした。噛み応えがそんじょこそいらのチャーシューではなく、過酷な養殖環境で育てられた状態の悪い魚の刺身のような噛み応えで、味ももちろん、スープに負けずとも劣らない汚水のかかった生臭いかつ薬品漬けのまろやかさでたまりませんでした。

地下二十階にあるラーメン屋ならこのクオリティでも許せますが、表世界で看板を掲げてこのクオリティは、さすがに認められません。

この日本に、まだ不味いラーメン屋さんがあるとは知りませんでした。大発見です。

僕たちはげんなりとした気分でお店を後にしました。時計を見るととっくに十二時を回っていて、つまるところ、終電は過ぎ去ったということです。

家までの距離は約八・五キロ。

サイコパスの口角が不気味に上がりました。

不味いラーメンを食べた後の、散歩の時間の始まりです。

続く。



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