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140字小説 秋の星々③

秋の星々(140字小説コンテスト)の落選作品その③です。

家族で山に登った。山頂にて僕は深く息を吸って、深く息を吸って、深く息を吸って、何も言えなかった。父は笑った。「吸い過ぎて窒息するぞ」窒息するのは嫌だったから、吐き出してみた。「お父さんは、不倫、してる!」口に出すって大事だ。前方の景色がより壮大に瞳に映ったから。後ろは見てない。

山に登って、叫ぶ。これはいいストレス解消になりますよね。富士山レベルの大きい山に登ったことはありませんが、たいしたことないそこらの山でも、頂上にて叫ぶと、心が不思議とすっきりするものです。

この小説の主人公は相当悩んでいたようですね。山頂に昇ったのにも関わらず、深く、深く、深く息を吸っても、言いたいことが言えないのです。それもそのはず、彼には言いたいことがあるのに、言ったならば今の家族の崩壊が起きてしまう恐れがあるからです。
彼は父の不倫を知っていました。
大いなる選択の問題です。彼は、自分、を優先しました。これから先、どんな楽しい旅行やショッピングを家族としても、彼は心に鬱憤を抱えたまま、どんどん自分の殻に閉じこもって、苦しんでいくと無意識的に考えているのでしょう。なので、山頂の効果を利用して、叫ぶことを決断しました。
しかし、彼が自分を優先できたのは、皮肉にも自分を悩ませている父のおかげでした。
父としてあるまじき行為をしながら、彼にとってはやはり父なのです。

現状では気持ちがすっきりとした彼ですが、果たして今後はどうなることやら……後ろを見なければならないタイミングが近づいています。

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