見出し画像

第五章「変化」 小説『サークルアンドエコー』

 私はことあるごとに三組に顔を出すようになった。冬音に借り物をするフリをしてエリーの表情を伺ったり、冬音に借り物を返すフリをしてエリーの行動を脳で記録したり。
「結局借りるの借りないの?」
「なんにも貸してないのに何か返しにくるのやめてよ!」
 冬音はカンカンだったが、そんなことどうでもいい。私はただ少しでもエリーを見ていたかった。皆がおしゃべりする放課に彼女は一体何をしているのか、どんなお昼ご飯を食べているのか。
 一応私にも理性はあって(驚いた?)、皆が嫌って孤立させているエリーに、堂々とスキンシップを取ることは私の学校での立場を危うくさせることだと承知していた。だから私は部活前の僅かな時間や、彼女が一人でトイレにいく、なるべく人目につかないであろう瞬間を見計らってほんの短時間の間にちょっかいをかけにいった。
 声をかけても返事はない。目の前で手を振っても無視される。肩を叩いてみたり、変顔をしながら視界をウロチョロしてみたり、丁寧に敬語を使って話しかけてみたり、逆に英語で喋りかけてみたり……全然ダメ。でも失敗すれば失敗する度に、彼女が私のことをどう思っているかがもっともっと知りたくなった。蔑んだ瞳だけでは物足りない。言葉が欲しい。あなたが嫌い、でも何でもいいから彼女の唇が私の為に動いてくれることを切に願った。……自分で言うのもなんだけれど、ちょっと気持ち悪いくらいの情熱ね。その後も後ろから突然膝カックンをしてみたり、目の前で荷物を落として情を引いてみたりしたけれど、エリーは私のことなんか眼中になかったり、見たとしてもいつもと同じ見下した色を浮かべるだけだった。
 自問自答をしなかったわけじゃない。どうしてエリーに対して興味が湧くのか何度も真剣に考えた。でも答えなんか出ない。無視されるのも蔑まれるのも私にとってはプライドが傷つく嫌なことだから、私がドMということでもないだろうし。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?