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小説感想『池袋ウエストゲートパーク』


ドラマ版を観て、小説も一冊だけ読んでみました。なんだかすごい長いシリーズだそうですね。

1 視点

主人公誠の一人称で語られます。そのため、騒々しい池袋に目がいくドラマに比べ、複雑だけれども芯はしっかりとある誠の性格が際立ち、全体の印象としては、誠実な物語だと感じました。

池袋の中で生き、池袋のどこか好きで、池袋で起きる事件の何が許せないのか。

誠の考え方が正解だとは思いませんが、周りに流されず、自分でひたすらに考えて考えて意思を固めるプロセスは、とにかくかっこよかったです。

2 エピソード

今回読んだシリーズ一作目は、ドラマでも存在したエピソードで構成されていました。

ストラングラー事件、Gボーイズとの全面戦争、ヤクザの娘捜索、ヤクの売人の始末。

ドラマと違い、それぞれほとんど独立しており、短編集のように読むことができます。
また、ドラマだとワンクールを通してずっと出ていたキャラが1話で退場なんてこともありますから、拍子抜けした反面、そっちの方が池袋らしいなとも思い、簡単に受け入れることができました。

ネタバレを気にせずに言いますと、まさかのヒカルが1話で一発退場ですからね。

あっという間に過ぎていく一日一日、変わり続ける人間と人間の絡みが、誠の性格も相まって、切なさを生んでいたように感じます。

3 切なさ

そうです。この小説には切なさが宿っています。僕の青春は池袋のような破天荒な世界とは無縁でしたが、読んでいると、なんだかノスタルジーにかられ、胸が痛くなることもありました。

誠のどこか達観した文章のせいなのか、エピソードのどこか納得のできない終わり方のせいなのか、わかりません。

後味は必ずしもいいとは思えません。けれどそれに不満は感じていません。非日常の熱狂が湧き上がるも、熱狂のまま終わらず、予想外の場所で萎んでいく....まるで一つのエピソードが人間の人生をかたどっているようです。

わかりますかね....人生はうまくはいかないものなのは当たり前だとして、それだけではなく、悪くもいかないことだってあるんです。
そんな感じです。

4 今も読める

かれこれ20年以上前の作品ですが、今も生き生きと文章が世代を超えています。確かにPHSとはなんぞやとは思いますが、作者が容赦なく斬り込んでいる社会の闇の部分は、今読んでいても考えさせられます。また、混沌の中で、混沌に飲み込まれることなく思考を続け、自分だけの結論を求め続ける誠の姿は、なんなら昔より今の僕たちに響く生き様かもしれません。

Gボーイズとレッドエンジェルズの間に立ち、どっちの味方にもつかずに、争いを止める彼の姿は、心底かっこよかったです。

5  どう生きようか


再三言っているのでわかるかもしれませんが、誠の自分で考える能力がかなり好きです。かなり憧れます。
SNSのせいで、常に誰かの意見が目に入り、誰かの意見が自分の意見になっていることがしょっちゅうです。
でもそんなことを続けていたら、いつの間にか大きな勢力の端っこに所属していて、やりたくないことをやってしまう操り人形と同じ人生を歩いてしまうかもしれません。
それは嫌ですよね。

誠の生き方がヒントをくれるかもしれません。
大きな勢力、数多の意見に押し流されない強さのヒントを。

答えはくれないでしょうけどね。


ただ面白いだけでなく、その陰に隠れて、熱いメッセージがあるように感じた小説でした。


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