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さすらいビレッジ村開き 〜古民家リノベーションの意味と価値〜

私が住まう神戸市西区から車で1時間と少し北上した山間の集落、丹波市春日町にご縁があって、地域活性化のための古民家再生事業をお手伝いするようになり2年前から足しげく丹波に通っています。その古民家が(当初の予定より1年以上も事業のスタートが遅れてしまいましたが、)この度何とか民泊&ワーケーション施設として開業にこぎつけることができました。新たなスタートに際し、プロジェクトの意味、これまで紆余曲折あったプロセスの振り返りと、ほろ苦い結果、今後の展望について書き留めておきたいと思います。

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古民家から再生プロジェクト

過疎化が進む集落、丹波市春日町で長らく空き家になっていた古民家をイノベーションして民泊、コミュニティハウスとして活用し、利用者に丹波への興味を喚起、移住者や来訪者を増やすことで地域の活性化を目指すこの事業は「古民家から再生プロジェクト」と名付けられ、単なる施設を作るだけではなく、地域に、関わる人の人生になんらかの変化をもたらすことを目指しています。計画された発端は、村内で「誰か空き家を活用してくれんかな、」と土地建物を相続された方から物件を預かっていたおじいさんからの相談でした。それを、山での遊びを子供達に教える「遊びの学校」などを精力的に行なっている大路未来会議なる、地元の若手経営者等と神戸から移住した飲食店オーナーたちが集まる地域活性化を目指す意欲的な会のメンバーの耳に入り、地域活性化のフラッグシップ的な拠点にできないかと議題に上がり、田舎暮らしに興味を持たれているメンバーの知り合いの方に相談すると、二つ返事で物件取得の資金を提供してくれる事になり、トントン拍子で話が進み、チャレンジしてみようと言うことになりました。

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DIYアドバイザー契約

この物件は、200坪ほどの広大な土地と、大きな母屋の他にも、2つの離れがあり、まだ再利用可能な建物が残っているにもかかわらず、土地代だけ程度の格安な金額で譲られました。しかし、もちろんそのままで使える訳はなく、民泊として使えるように手直しする方が取得金額の数倍は費用が掛かることは誰の目から見ても明らかで、とはいえ、その資金がある訳ではなく、どうしようかと悩んだ末にリノベーションの計画を立てる企画段階からアドバイスが欲しいと私のところに相談に来られました。私は、建築会社を経営しており、スタッフと共に大工仕事を生業としています。レッキとしたプロなので、ボランティアで工事をするようなことは出来ません。ただ、寂れゆく地域をなんとかしたいとのメンバーの想いには強く共感して、DIYイベントを組んで、でリノベーションを進めることとその技術的な指導等を含めて全体のプロジェクトへのアドバイスを買って出ました。

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建築専門家としての責務と提案

また、老朽化が進む古民家を再生するということで、安心して利用出来る様に耐震強度のチェックを行い、せめて現在の建築基準法に合致する程度までは耐震補強することを提案すると共に、丹波市からの空き家活用に対する補助金300万円に合わせて兵庫県の古民家再生事業で1000万円の助成金を申請して、その金額でDIYすれば通常の半額くらいの予算でなんとか形になるのでは無いかと計画を立てました。DIYイベントには多くの人が集まってくれましたし、技術指導にはカリスマ左官の植田親方をはじめ、多くの職人さんが関わって下さいました。そのおかげで丹波市からの助成事業分の水回り設備の工事の第1期工事は順調に滑り出しを見せました。

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思わぬトラブルでの挫折

第二期工事は母屋の耐震補強工事を含めたリノベーションで古民家再生のスペシャリストに限界耐力計算を行ってもらい、基礎も無い茅葺き、石場建ての伝統工法の古民家を昔ながらの風情を残しながら安心で快適な建物へと生まれ変わらせる計画で、現行の建築法に適合させる事で兵庫県からの補助金も受けられて、予算が無い中でも来訪者に安心して使って貰える建物へと生まれ変われるはずでした。しかし、全く予期していなかったトラブルでこの計画は頓挫してしまいます。
そのトラブルとは丹波市の助成金の不正事件がキッカケでした。本来、補助金等は金銭の流れが適正に処理されているのが分かる様に銀行口座への入金が大原則ですが、丹波市から出された補助金が現金で支出されていたのを市議会の議員が指摘して大問題になりました。全国紙の新聞にも記事が載った程で、役人と住人の癒着が起こりやすい片田舎の村社会の緩さが強く指摘されました。私達が手がけていた古民家もそのとばっちりを受けて、あらぬ嫌疑をかけられた上に、県への補助金申請の同意書に丹波市長のハンコは押さないと手の平を返され梯子を外される事になってしまったのです。この事件で私達の計画は完全に狂い、工事中の中途半端な状態から考え直さねばならなくなりました。

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コロナによる追い討ち

補助金頼みの事業計画の脆弱さと頼りなさを痛感する情けないことになってしまいましたが、資金が無いのはいくら考えたところでどうにもならず、自力でなんとかするしか無いと気持ちを入れ替え、原点に戻ってDIYイベントでコツコツ進めるしかないと計画を立て直したのが去年の初めです。しかし、そこに追い討ちを掛けるように次は新型コロナによるパンデミックが襲いかかってきました。専門業者に施工を依頼するには資金がない、多くの人に集まってもらって工事を進めるにもイベント事はできないの八方塞がりの中、結局、地元のコアメンバーが自分の仕事の合間を縫って集まり、コツコツと工事を進めてきました。私も完全ボランティアの職人として彼らが施工できない難易度の高い部分を片付けに通うことになりました。

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大盛況の田舎暮らし体感イベント

そんな紆余曲折がありながら、当初の計画を大幅に変更して、結局耐震補強もできないままではありますが、この度何とか民泊施設としてのオープンを迎えることになりました。村開きと称されたキックオフイベントには、緊急事態宣言が延長されたにもかかわらず、多くの人が参加してくださり、畑を耕して黒豆の種を蒔いたり、ツリーハウスのある森を見に行ったり、猪や鹿のジビエバーベキューを楽しんだ後は蛍が乱舞する川に夜の散策に行ったりと、丹波での暮らしを体験し、とても楽しみながら田舎暮らしへの興味を持ってくださったようでした。参加者の中には丹波への移住を考えたいと言われる人も複数人おり、当初の目的に一歩近づけた、そんな実感を得て感慨深い1日になりました。今後、継続して様々なイベントを企画していくことで、丹波を身近な存在として感じて頂けるようになればと思っています。

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ムラと外の世界が交わる場づくり

私が、神戸から離れた丹波で古民家再生のお手伝いをしようと思ったのは、日本中どこにでもある空き家問題の深刻な現状に何らかの解決の道を探りたいと思ったのが大きな理由です。過疎化が進み、空き家は毎年のように増え続けているのですが、実際、田舎に移住を考えている人がその家を借りたり購入したりするのは非常に難しいのが現実です。それは地元の人がどこの馬の骨ともわからない人に先祖代々の土地家屋を貸したり売ったりするのを好まないからです。今回のプロジェクトのように、村内で誰か有効活用してもらいたいと言う話は少なくなく、要は外部の人が地元のコミュニティーに交わらる場がなければ、空き家になった建物は老朽化していくばかりで、せっかく田舎暮らしをしたいと移住を考える人がいても住める場所が見つかりません。実際、私も30年ほど前に古民家での田舎暮らしに憧れて、住める家を探していた頃がありましたが、全く誰にも相手にされず、田舎の閉鎖的な体質に大いに失望した経験があります。日本の地方都市の全てが抱える過疎化、空き家の問題解決には閉鎖されたムラ社会と外の世界をつなぐ場が必要だと考えたのです。その意味では私的にはほろ苦い結果と再スタートとなった丹波での古民家から再生プロジェクトは問題解決への一石を投じる可能性があると思うのです。引き続き、積極的に関わって当初の目的を目指したいと思いますし、是非、丹波に遊びに来てください。(笑)

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