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シン・職人育成論 〜タレンティズムとイントラプレナーシップ②〜

このところ、職人育成について非常に頻繁に問い合わせを頂くことから、それに応える意味を込めて、昨日の記事では職人不足問題の根本的な解決へのパラダイムシフトの必要性と基礎的な概念を書きました。
タレンティズム(才能主義)に立脚したマネジメントがビジネスモデルの再構築を促進させ、職人不足問題の根本原因を解決させるとの持論を元に私は20年間、職人の正規雇用と育成を行い、一切の宣伝広告を排して職人達が自ら現場で信頼を勝ち取り、受注を繋げるモデルを構築して来ました。その根幹にあるのはイントラプレナーシップ(社内起業家精神の醸成)です。


職人不足は構造の問題

「職人の社会的地位の向上を叶える。」これが私が創業時に立てた志です。日雇い人夫の様な働き方を変えて、未来に希望を持ち、安心して仕事に打ち込める環境を整えなければ職人になろうとする若者が入職するはずがないからです。
しかし、実体は労働者であるにもかかわらず、社会保険も厚生年金もかけられず、全て自己責任で個人事業主として扱われるのが職人の働き方のスタンダードになってしまった現在、職人の正規雇用は、それをしていない圧倒的多数の事業所に比して大きな費用がかかり、価格に転嫁すれば競争力を下げる、若しくは社内で吸収して利益を圧迫します。業界の常識や通り値と言われるコスト構造が職人を道具の様に扱い、必要な時だけ雇用して暇になったらすぐに切り離す。そんな近視眼的なマネジメントからの脱却を許しません。これが職人不足が大きな問題だと叫ばれながらも全く解決に向かわなかった原因です。

残酷な現実

全てのコストは顧客が負担する。と言うのがマーケティング理論の基礎です。顧客に提供する価値は社員大工でも、外注の大工が作業しても品質が保てればどちらでも同じだと建築業界では認識されてきました。しかし、一生に一度の買い物と言われる、人生の拠点である家を作った大工と一生顔を合わす事なく、商品として受け取るのを全ての人が是とするか?と問えば決してそんなことはありません。職人が精魂込めて作る家は単にデザインや価格だけではない価値があると多くの日本人は答えるし、作り手の顔が見えるモノ作りは安心感が全く違うと思うのです。
それでも、コストとのバランスは残酷で、想いは分かるが現実的にはコスパで選択するのが今の風潮であり、本当に大事な事を知りながらも目を伏せられてしまうのが厳しい現実です。

職人の効果性の最大化

このジレンマを解決するには、現場で働く職人達が、自ら守られる存在になるべく、+ αの価値を創出できる様にならなければなりません。しかもそれは効率を上げることではなく、人がそこにいる硬化性を高まるしかありません。前回のnoteにも書きましたが、電動工具の普及によって職人の作業は圧倒的な効率化が進みましたが、職人の所得が倍増する様なことはありませんでした。効率は短期的な成果を上げますが、中長期的に見ると、自らの首を絞めることになることが往々にしてあります。職人不足の解決策の1つとして他の効果に取り組まれる事業所をありますが、大工工事、水道設備工事、電気工事を1人でできる効率の良い職人育成を行うのは、この陳腐化の流れに飲み込まれるのではないかと私は危惧しています。
私が長年推し進めてきたのは、職人が年老いて、体力が落ちてきた後も、しっかりと稼げる能力を身に付ける役割の多能工化です。現場で技能を身に付けながら、施工管理、技士や建築士の資格を取得し、現場監督や設計士の業務ができるようになれば、肉体労働者ではなく、知的労働者へと変われます。そして営業的な役割を担えるようになれば最強の営業マンになることも決して難しくありません。このキャリアパスを組み立てることができたら圧倒的に離職率も下がります。

離職されるのは、経営者のあり方だけ

このような説明をもう10年近く全国の建築関係の経営者に訴え続けてきました。そこでよく言われたのが、「そんな変な知恵をつけさせたら、次々に独立して辞めていくじゃないですか。」との言葉で、独立して離職されるのが怖いので、職人の成長を妨げるような経営者が多くいることに驚いたとともに、大きく落胆させられました。結局、職人を都合よく使う道具としか見ていないのです。
独立起業してもやっていけるほど自立した職人が数多く社内に言えば、これまでのトップダウン型のピラミッド構造の組織ではなく、主体性に任せてそれぞれの職人が事業を担うプロジェクト型の自立分散型組織えと変容することが可能になります。独立した方が良いか、社内に残って経営陣としてポジションを築いたほうが良いか、それは職人それぞれの判断によりますが、残るに値する企業にするのが経営者の役割と言うものです。

職人革命しかない。

このような考え方に基づき、社内で起業家精神を醸成させる教育や研修を行うことをイントレプレナーシップといいます。起業してもやって生きるほどの実力を持った社員がゴロゴロいる状態。しかもそれが、同じ目的を明確に持ち、キャリアパスによって構築されてあれば、新陳代謝を繰り返し、企業は圧倒的な持続性を手にすることができるようになります。私が職人、起業塾と言うおかしな名前の社員向け研修を行っているのは、経営者にそれぐらいの器と覚悟を持って社員教育に向き合ってもらいたいとの願いが褒められています。
現在、時代は大きな転換期を迎えており、今までと全く間逆のパラダイムと転換しつつあります。これまで道具の寄安買ってきた職人たちが、知識技能者となり、主体性と起業家精神を持って、新しい時代に適した事業を創造し、向き合うことでしか建築業界は存続し得ないのではないかと思うのです。まさに職人革命の時代の到来だと感じています。

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