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コンプレックスと憤の力とマイノリティの時代 #おれは無関心なあなたを傷つけたい

少し前にウーマンラッシュアワーの村本さんの独演会に行って時代の潮目を感じたとの記事をこのnoteに書きました。その中で彼が上梓した書籍「おれは無関心なあなたを傷つけたい」を紹介しましたが、その内容について殆ど言及しませんでした。その理由は、新しく出版された書籍って出版記念の講演会や独演会で話すネタがそのまま載っていることが多く、見聞きした内容を書けば大まか書籍の内容もカヴァー出来るからです。しかし、村本さんの本は、2時間の予定を大幅にオーバーした独演会で語り尽くせていない内容が結構なボリュームで書かれており、読み進める中で不覚にも涙を浮かべてしまうくだりもありました。良い悪いではなく、とても深く共感した彼の新刊のご紹介を改めてしておきたいと思います。(購入されるなら是非書店で、オンラインならAmazonではなく、hontoでお願いします。)

学歴コンプレックスと憤の力

村本さんがTV番組から干されるくらい、センシティブなネタを繰って笑いに変える挑発的でチャレンジングな姿勢の根底にあるのは、怒りのパワーとの事です。本の中でしつこい位に繰り返し書かれている、自分は福井県の片田舎の水産高校中退の中卒だとのコンプレックスのニオイが漂う自己開示で、
THE MANZAIで優勝し、日本人なら誰しも名前くらいは知っている有名人になった今でも、心の奥の方にコンプレックスが染み付いており、世間でノーマルとされている学歴社会からドロップアウトして、長年、陽の目を見る事なくアルバイトしながらお笑いスターを目指していた頃のキツく、自己肯定感を失う経験が今も彼を突き動かす力になっているとの事でした。そして、閉塞感とコンプレックスから生み出される「憤の力」を解放して、怒りをぶつけた漫才をやったおかげで人気を博したとも書かれていました。
彼らの出世作となったバイトリーダーに対する怒りの漫才はこちら、

中卒の強み

コンプレックスを逆に力に変えて、成功体験を手に入れたとの村本さんの話は同じ中卒の私にとってもまるまる当てはまると言っても良い位、共感するところ大でした。今でこそ起業して経営者になり、本業と別に一般社団法人を立ち上げて社会人向けの教育を事業として行っていることもあり、胸を張って「私は中卒です。」と自己開示を行いますが、研修や塾に参加する若者で高校も卒業してない学歴の者はほとんどおらず、正直、未だに中卒と言う言葉に少しコンプレックスのようなものを感じてしまいます。ただ、教育する立場からすればその場にいる人の中で間違いなく私が最も低学歴で、彼らと同じ年齢の時を考えれば塾生の方がずっと優秀なのは明らかで、モチベーションを手渡す「君達なら必ずできる」との私の言葉にリアリティを感じてもらえるのは大きな強みになっています。

社会のクズの自覚

実際、17歳で社会に飛び出して就職しようと思った時に、働く先は非常に限られており、私には職業選択の自由は無いと思いました。その当時の私が持っていた選択肢は、建築土木や運送業等の肉体労働、夜中遅くまで低賃金で働く飲食業、後は人間としての尊厳を失いかけるほど精神的にキツカった深夜の交通整理員や、反社スレスレのいかがわしい営業の仕事しかありませんでした。しかし、自分のことを社会的な価値が全くない人間だと気づかされたことで、なんとかどん底の生活からはい上がろうと人一倍一生懸命働いたり、資格取得や様々な勉強を長年に渡って継続したりと必死になって足掻き続けた結果、今の私があると思っています。その根底には、村本さんと同じように学歴マイノリティーに冷たい社会に対する憤りがあったと思います。そもそも、高校生活を途中で投げ出したのは自分で、誰のせいでもありません。自分のわがままを省みず、社会に対して怒るなんて筋違いも甚だしいですが、やり場のない怒りが原動力になったのは悪くなかったと思っています。

幼稚な大人がつくる幼稚な社会

村本さんがTVの世界だけでなく、日本から飛び出しこれからアメリカでチャレンジすると言っているStand Upコメディーなるピン芸はバーや小規模な劇場に設置されたマイクを通して、世間に対して一言物申したい人が、個人的な問題や社会についての憤りを解放、発散することで共感を呼び笑いに変えるエンターテイメントだそうで、子供向けの幼稚な笑いではなく、様々な経験を積んだ大人にこそ理解され、笑ってもらえる非常に社会性の高いお笑いを彼は目指されるとの事です。奇しくも、昨夜ゴールデンタイムに深夜のシュールさが売りだったお笑い番組「あらびき団」が初めて乗り込んできておりました。相変わらずくだらないけど面白い、確かに笑えはしましたが、村本さんの本を読んだ直後だったこともあり、幼稚すぎるお笑いを繰り返す芸人達を見ながら、彼らの仕事についての意義を考えてしまったり、ビールを飲みながらバカ笑いする自分に対しての自嘲を感じたりと、少し寂しい気持ちになってしまいました。日本国民全員がこの調子なら、確実にこの国は滅びるしかないと思ったのです。

逆転の時代の預言の書

学歴だけに限らず、分断や差別を受ける様々なジャンルのマイノリティーの人たちは、社会の片隅に追いやられ、風景と化してしまって誰にも取り上げられずに苦しんだり、憤りを感じたりしていると村本さんは言います。そんな人たちの声を聞き、思いを汲み取ってその悲しみや怒りをネタにして笑いに転換することでその人たちを少しでも救えたらと精力的な活動を続けておられます。そんな社会の一隅を照らし笑いにかえる村本さんはこれから、決してメジャーになる事はないと思いますが、限られた1部の人から圧倒的な人気を誇り、大きな影響力を持つようになるのではないかと思いました。それは、多様性とかダイバーシティーとか言葉だけが先行して社会がついてこなかった変革が起こりつつある、世界中が本格的な価値観の転換を迫られている事と符号します。コロナによって顕在化することになった価値観の逆転は、弱いものこそ強くなり、強き者は弱いものにひざまずく世界です。憤りを力にするマイノリティーに時代が追いついてきたのだと思うのです。そしてそれは、経営効率化の名の下で、ほぼ全国的に非正規雇用へと転換され絶滅寸前まで虐げられて追いやられてきた職人の世界にも当てはまると思うのです。村本さんの「おれは無関心なあなたを傷つけたい」はマイノリティーが憤の力を発揮してイニシアチブをとる時代がもうそこまでやって来ているのを感じさせられる、そんな本でした。強くお勧めします。

おまけ、私が上梓した書籍にも「憤の力」のくだり、書いてます。

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