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The future of business ビジネスの未来 山口周

昨日のnoteにそこはかとない違和感を覚えたと批判めいた感じで紹介をしてしまった山口周さんの最新刊「ビジネスの未来」ですが、実のところ、非常に私が現在感じている世界観や、これまで大事にしてきた価値観とリンクする部分が多くあり、強く背中を押してもらい応援してもらっているような気持ちになるとても良い本でした。残念ながら私が所属する建設業界は山口さんの言われる物質に対する欲求をほぼ満たされた幸せな高原社会とは少し住んでいる世界が違う感があり、若干の違和感は否めないにしても、総体的にはほぼ全面的に納得できると言っても過言でないくらい、とても良い本でした。改めて紹介しておきたいと思います。

高原社会

山口さんが集められたデータを読み解くと、今の日本は総じて幸せだと答える人が大多数を占める、150年前の明治維新から昭和初期の頃から考えれば、ユートピアと言っても過言でない位恵まれた社会になっているというのがこの未来を読み解く本の大前提になっています。明るく開けた高原社会と言う表現を用いられておりますが、確かに私が生まれ育った終戦後の影が未だ残る灰色の時代から鑑みれば、確かに違う世界になったと思える位、世の中は変化しましたし、その文明の恩恵を十二分に受けているとも思います。ある程度理想の世界に近づいた我々は、人類が初めて経験する人口減少局面に入ったこともあり、今後成長する見込みがなくなったと言うのも、いわば従前の事実であり、10年以上前から成長拡大路線に背を向けて、自社で設計施工が出来て自己完結を可能とする職人の内製化に取り組み、自律循環型ビジネスモデルにシフトしてきた私にとってはまさに我が意を得たり思える内容でした。

マーケティングとイノベーションの終焉

私がなりわいの中心にしている建築業界は今後の人口減少のあおりを受けて年を追うごとに衰退していく産業だと自覚しております。この書籍では世界に目を向けても成長率は確実に鈍化しており、無限の成長を目指す資本主義の終焉を繰り返し丁寧に、しつこい位に念押しされておられます。特に印象に残ったのは、マーケティングは需要(問題)を作り出し、資本主義の破綻を先延ばしする所業であり、イノベーションは問題解決を行うことで富の格差を広げ続ける活動であると定義されていた部分です。その上で、需要の大きさと、課題解決の難易度の高さのマトリックスから、ビジネスとして成り立つ領域を需要が大きく、難易度が低いものだとセグメントして、その収益性合成の外にある、需要が少なく、解決困難な問題は自由競争で強いものが生き残る弱肉強食の資本主義社会では絶対に解決されないまま残っていくと示唆されていた部分です。

市場原理と経済合理性の限界

経済合理性限界曲線と言う名称で市場原理の経済的整合性の範囲を定め、その外にある問題が置き去りにされることへの問題提起をされるのを見て、私が長年取り組んできた職人育成こそが長年その領域の問題だったのだと感じました。技術を身に付けていない若年層の見習い大工は経済合理性だけを考えると誰も雇用したいと思いませんし、社会保障がなされずに日当だけで保険や年金から工事車両、道具までを全て賄う実質、低賃金の業種に職種として定着し、それが業界スタンダードの単価になってしまった大工になりたいと思う若者はいなくなり、また、よしんば職人になってみたいと若者が言っても親が泣いて止めるような業種にも若者を呼び寄せるのは非常に難易度が高い取り組みで、他業種並みの保証をつけて今まで通りの単価を維持しようとすると経済合理性はなくなってしまいます。私が行ってきたのは一般的には経済合理性が取れない、限界曲線の外の取り組みだったんだと改めて気付かされました。

衝動が世界を救う

若い職人がいなくなれば、モノづくりの現場は止まり、それが進めば業界全体が廃れてしまいます。若者の職人不足は以前から予測されていたことで、本来もっと以前に解決しなければならない重要な社会課題でしたが、山口さんの経済合理性限界曲線の外の課題は放置されたままになると言う理論を読んで、今の現状を迎えている事に非常にしっくりと納得することができました。その上で、その問題を解決するには損得感情だけではない人としての衝動が必要で、それこそが経済成長が止まる高原社会で必要なスキームであり、市場原理の限界を突破する人間的な衝動にかられた取り組みにこそビジネスの未来があるべきだとの言説には甚く心を打たれました。

クソ仕事からの解放

山口さんの理論構築では世界の成長は止まり、循環型社会、関係性を重要視する共感型資本主義社会に移行する、市場原理で解決出来ない問題に対しては、最終的に税制を改革し、ベーシックインカムを導入することが必要で、意味もやりがいもない、面白くもないクソ仕事から人類を解放し、誰もがクリエイティブな才能を発揮してヒューマニズムに立脚した善なる意図を持った衝動で社会課題を解決していける。と帰結されておりました。この部分については、決して悪い結論ではありませんが、私はもう少し問題は複雑だと思っていて、ベーシックインカムを整備する前に、知恵と勇気と覚悟を持って経済整合性の限界曲線を突破する努力を粘り強く行うべきではないかと感じました。私が職人不足の根本的解決に歩を進めているのと同じ様に、一見、経済合理性限界曲線の外にある問題も業界ごとに細分化して実業から生み出される知見を集めれば専門解決の糸口を見つける事が出来ると思いますし、そこでこそタレンティズムを発揮すべきだと思うのです。とにかく、今のままでは解決出来てない問題が多くありすぎると思うのです。

結論:今、すぐに読むべき一冊。

タレンティズムと言われる人間誰しもが持っている才能を発揮して、誰もが生きがいを感じられる豊かな暮らしを実現しつつ、自律循環型の成熟した世界にソフトランディングする事はまさに理想だと思いますが、実際の経営の現場で、血の汗を流しながら実証実験を繰り返す私の立場としては、その理想を手にするためには、もう少し粘り強く今の市場原理の中で解決できる範囲を広げるべきだと思うのです。最後を少しきれいにまとめ過ぎられた感は否めないとしても、本質的な視点に立って世界を俯瞰しつつ、今の日本の課題を抽出する、素晴らしい問題提起とデータ分析に基づいた、今読むべき一冊だと感じました。強くご一読をお勧めします。(^ ^)

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