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屋久島の森を歩くべき理由 〜2023屋久島行②〜

私が運営に参加している地域材利活用の啓蒙団体ひょうご木づかい学校で共同宣言に調印している「屋久島 森と共に生きる協議会」の総会出席に合わせて毎年7月に屋久島を訪れる様になりもう4年。アミニズムを信仰する私としては当然、毎回屋久島の山に入り森を歩きます。今年も山岳信仰のメッカとも言われる九州最高峰の宮之浦岳の山頂を目指して岳参りをして来ました。残念ながら登頂計画に失敗して山頂アタックは断念する残念な結果になりましたが、4回目にして私が屋久島に魅せられている理由をはっきりと認知する事ができました。

エコシステムとは循環

私が経営者として20年来目指して来たのは持続可能な自律循環型ビジネスモデルを構築することです。それは同時に次世代に循環型の社会を継ぐことでもあり、地域社会に循環経済を作れないかとの模索と同時に取り組んできました。その一つが地元の山で育った木を使った建築であり、ひょうご木づかい王国学校のコミュニティーでの活動です。
持続性を担保する循環型モデルとは要するにエコシステム(生態系)の構築であり、それは長く存在を許される価値創出と同時に新陳代謝の機能が欠かせません。それは、売上の源になるクライアントからの新規のオファーが紹介で継続するための工事品質やアフターフォローもですし、人材の採用、育成もその生態系を構築するための取り組みです。
世界で最も長寿な木(樹齢7200年には諸説あり)、少なくとも日本という国が成り立つ前から生きている縄文杉が現在も生き続けている屋久島はエコシステムを体感できる唯一無二の場所であり、だからこそ何度でも訪れたいと思うのだと今回、山を歩きながら気がつきました。

三代杉に学ぶ

屋久島には永遠の命を育む独特のエコシステムが機能しています。三代杉が有名ですが、屋久島では倒木更新・伐採更新と呼ばれる伐採した木の切り株に種が着生し、そこから芽が生えて大きく育つ樹木が数多くあります。鬱蒼と木々が生い茂る森では地面までなかなか陽が届きません。しかし、巨木が倒れた後には陽が差すスペースが確保されるわけでそのエネルギーを引き受けて次の世代の屋久杉が育っています。
ちなみにその三代杉は初代が樹齢およそ2,000年で倒れ、その上に育った二代目は樹齢およそ1,000年で伐採。その切り株の上に今の三代目“三代杉”が生まれ育って数100年経過しているとのことで、荒川登山口から山に入っていくトロッコ道の傍らにあり、今も若々しい姿を見ることができます。
3000年以上前の初代は次世代が大きく育つために自分自身が倒れた後も養分を与え続け、二代目は伐採されながらも今も大地にしっかりと根を張り、若木を支え続けています。この更新が成り立つならば文字通り、永遠に持続し、命を育み続ける究極のエコシステムと言えると思います。次世代に身を捧げる貢献が循環のもとであり、それが森全体の価値を生み出しています。

構造を守り内を捨てる

屋久杉に限らずですが、巨大になった樹木はその巨体を維持するエネルギー量を抑えるために一定のラインまで育つと幹の内部から朽ち始めます。その代わりに倒れにくくなるように幹の径を太くして構造を強化します。また、屋久杉は数千年生き続けても高さはそんなに高くなるわけではなく、上部で太い枝を大きく横に張り出して日光を得ようとします。どこまでも高く成長するのではなく、倒れにくい構造へと成長の方針を切り替えているようにさえ見えます。以前からずっと、樹木が自ら朽ちる選択をするのは不思議だと思っていましたが、内に資源を溜め込んだところで次世代に引き継げるわけもなく、強い構造を整えることに注力するのは自然に理にかなっているのだと改めて感じました。その様は自立し続ける構造に必要な自然の在り方を示唆してくれている様でもあるし、エコシステムを機能させるための成長の方向性を示してくれている様にも感じました。

来るものを拒まない多様性との共生

屋久島の森でもう一つ特徴的なのが巨木に驚くほど多くの樹木が着生し枝を伸ばしていることです。ふんだんに雨が降り豊かな水に恵まれている環境が大きく寄与していると思いますが、樹木の表面に苔が生え、そこに様々な木の種子が飛んできて根を広げ育っています。大きく育つ屋久杉ばかりになると地面に日光が届かなくなり下草や低木が育たなくなります。それは地表の保水力や維持する力を損なうことになるので森には植物の多様性が欠かせないのですが、その多様性を維持するために巨木が自分の幹に数多くの樹木を向かい入れ、共生する姿はまさにエコシステムそのものを体現している様です。人間社会でもダイバーシティの重要性が語られる様になり随分となりますが、なかなか浸透していかないどころか、最近の世界の情勢を見ているとまるで逆行している様にさえ感じます。持続可能な社会を作りあげるには多様性を受け入れること、排他ではなく共生を旨とすべしなのを多くの人は頭では分かっていても真に理解出来ていない、感覚として持てないのかも知れません。屋久島の森を歩き、それを五感で感じるべきだと思うのです。
世界が持続可能な循環型社会への移行をコミットしている今、屋久島の存在は特別です。多くの人にその価値を感じてもらいたいと心から思います。

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建築業界での自律循環型のビジネスモデル構築の支援をしています。

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