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小さな工務店が取り組む理想の組織への挑戦⑤ 〜マネジメント型から自立循環型へのシフト〜

令和3年4月24日 晴れ

神戸もとうとう、明日の日曜日から三度目の緊急事態宣言が発出されることが決定しました。オリンピックの開催が近づく中、今回は人流を止めることで早期に感染拡大を押さえたい政府の意図が強く反映されて、飲食店以外にも百貨店などの大型施設にも休業要請が出されるとのこと、非常に厳しい状況となりましたが、1日も早く感染者の増加が止まり、緊急事態宣言が解除されることを祈ります。私自身も5月は数多くのイベント事を企画しておりましたが、全て順延する覚悟を決めました。ただ、今日はギリギリ、緊急事態宣言の前日ということで、感染対策を施しながらオープンエアーの畑での収穫と夏野菜の作付けイベントを開催しました。いつになく、未就学児が多かったのは、遊びに行くところが制限されているからだと思いますが、子供たちの楽しそうな姿を見て中止にしなくて良かったと感じた次第です。

組織論、5つの条件

さて、先日からこのnoteのマガジンにコツコツと書き進めている、私がリアルに取り組んでいる組織論の5つの条件の最後の項目について記したいと思います。この記事は半分は自分自身の中で6年後と決めた事業継承を進める上での方向性やロジックの整理であり、半分は私から事業を引き継いでくれるスタッフに対して全体像を示すために書いています。同時に、私と同世代の経営者で50代半ばに差し掛かってきて、そろそろ事業継承を考えなければならないフェーズだと感じられておられる方に少しでも参考にして頂ければ嬉しく思うのと、私が代表を勤める一般社団法人職人起業塾で開催している人事制度改革、組織改革に参画頂いている企業の経営者には、現場主義からの事業継承の一つの形として参考にして頂ければ幸いです。ここまで書いてきた7本の記事をまとめたマガジンはこちら、興味を持っていただいた方には総論からの方向性をご確認頂ければ、理解も深まると思いますのでご参照ください。

理想の組織5つの条件
①組織の存在価値が認められ、自社独自の市場(マーケット)を持ち外部環境に左右されずに経営が持続できる。
②組織に在籍しているメンバーがやりがいと満足を感じそこで働くことが自己実現の場になっている。
③組織の存在目的がメンバー間で共有され、その実現のために全員一丸となって事業を行っている。
④管理命令型の属人的なリーダーシップで組織が成り立つのではなく、メンバー間での合意形成で組織が運営されていく。
⑤メンバーの成長と新陳代謝が滞りなく起こり世代を超えて事業が継続されていく。

自律循環型組織への移行

今回は5つの条件の最後の項目「メンバーの成長と新陳代謝が滞りなく起こり世代を超えて事業が継続されていく。」についての意味合いと実装のための実務について整理します。これまでの4つの項目を簡単な言葉で言い表すと、マーケットの構築、ES(従業員満足度:Employee Satisfaction)、カンパニーミッション、メンバー間のコミュニケーションについてと、それぞれの在り方について書き連ねてきました。どれも、取り立てて斬新な理論を展開しているわけではなくて、手垢のつきまくった古典的な概念を元にロジックを組み立てておりまして、言ってしまうと当たり前の事ばかりです。時代と共に組織の在り方は変化して然るべきではありますが、その組織は人の幸せを実現するために存在すると考えれば、人が幸せだと感じる感情は古代からあまり変わっていない訳で、昔ながらの古典的な概念が実は真理に近かったりするのではないかと思うのです。いまだに、シェクスピアの悲劇を観て人は涙を流しますし、美味しいものを腹一杯食べて、幸せだと感じたりするものです。個人的な幸福論はさておき、組織が担う役割としては、そこに所属する人の不安を解消し、安全な場を提供することに尽きるのではないかと思っています。それを叶えるには、未来に向けて持続可能な仕組みを構築することが大前提で、私が組織論として抽出した5つの条件は全て自立循環型への移行に立脚しています。世界は無限の成長拡大を続けられる訳ではないと思っていますが、幸せに暮らす循環を作ることは出来ると信じています。

属人的経営が迎える結末

持続可能な組織を考える際に、絶対的に目を逸らすことが出来ない真理として、3つの事実があります。それは、人は必ず死ぬ、それはいつかは分からない、そして、日々死に近づいている。との誰しも免れようのない事実で、属人的な組織は持続不可能であるとの認識を持たざるをえません。少し前にとあるサッシの販売・施工会社の社長(私より若い!)が急逝した際に、3名いた社員と経理を担当されていた奥さんでその社長の後を引き継いで会社を存続させようと頑張っておられた会社がありました。サッシの施工店は得意先の工務店から定期的に仕事が入り、大した営業努力をしなくても半ば自動的に売り上げることが出来ます。これまで通り、受注した材を仕入れて組み立て、搬送する仕事を続ければ事業は成り立つはずでしたが、その会社の社員さんは社長に指示された作業のみを行ってきて、自分たちで得意先から注文を取ることも、メーカーに発注することも出来ずに一月程で自分たちには社長の代わりは務まらないと挫けてしまい、会社を廃業してしまいました。その話を聞いて非常に残念だと思うと共に、技術面、細分化した作業ばかりを教え込んで効率的な事業を行っていた社長の社員に対する教育がもう少し違っていればこの様なことにはならなかったのではととても残念に感じました。しかし、この例は建築業界の中小零細の施工会社では珍しくないというよりむしろスタンダードと言っても過言ではないのが現実で、職人に対する技術面以外の教育、研修の機会を増やすことが求められていると感じています。技術系のものづくり企業は技術以外の研修教育に目を向けるべきだと思うのです。

成長と新陳代謝

私が組織論の中でメンバーの成長として示しているのは職能としてのスキルはもちろんですが、その先のマネジメント能力までを含めています。このノートのタイトルは職人進化論としておりますが、現場実務者はキャリアを積んで成長していく過程で作業だけではなく、現場全体のマネジメント、そして事業所の運営まで寄与することが出来るようになると思っています。キャリアを積むにつれて責任と役割が増えていき、それと同時に生み出す付加価値が増加することで企業全体も力をつけることになります。「企業は人なり」とは手垢がついた使い古された言い回しではありますが、メンバーの成長こそが企業全体の力を担うのは間違いなく、それが組織の仕組みとして機能することが非常に重要だと思うのです。持続可能な組織を作るためには、キャリアパスの策定とそれに沿ったメンバー個々のの目標設定、進捗確認が不可欠で、この運用が進むことでマネジメント層のメンバーが増えて次世代を担う人材が育ち続けるようになると考えています。当然、新陳代謝も活発に起こるようになります。

マネジメント型から自立循環型へ

このメンバーの成長を促す等級制度とも呼ばれるキャリアプランを運用するのに欠かせないのが評価制度です。人が人を評価するのは決して簡単なことではなく、事業所全体のマネジメントを考えた時、スタッフの成長を評価、そしてそれに応じた報酬を決定するのは非常に重要かつ難易度の高いタスクです。この難しい役割を一握りのトップが行う時点で、いくらスタッフが成長し、新陳代謝を起こせる組織の仕組みを構築したところで、属人的経営から抜け出すことができません。実は私自身、以前に一度、社内に360度評価(全員が全員を評価する制度)を導入してうまく機能せずに挫折した苦い思い出があります。今思い起こせば、キャリアプランも技術以外の人間的側面に対する教育制度もきちんと整備できていないまま、見切り発車で導入したのがそもそもの間違いで、組織全体が成熟に向かうような制度整備を行ってから、良識ある公平なメンバーがお互いを尊重し、評価しあえるような場づくりが全くできておりませんでした。全体的な組織の向かう先、あるべき姿をまず明確にして、その上で段階を踏んで相互評価の制度に取り組めば、単に人が人を評価するだけではなく、足らずを補いながら切磋琢磨する組織になるのではないかと思っています。ここまでが私が目指してきたマネジメント型組織の1つのゴールで、この先にそれぞれが主体性を持ってやりたい仕事を自由に、かつやりがいを持ってできる本当の自立循環型組織への入り口が見えるのではないかと思っています。私の次の世代に期待したいと思います。

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