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第5の経営資源の作り方と使い方 @共感資本社会へのシフト

神戸の西の果てで大工集団のような小さな工務店を営んでいた私が自立循環型ビジネスモデルの構築を標榜して社内改革に取り組んだのは15年ほど前のことです。その当時、外部環境に大きく影響される建築事業で持続可能な営業形態を目指すと、その当時主流になっていたチラシによる宣伝広告やイベントでのプロモーションで新規顧客を次々と集めては刈り取るような新規集客重視の事業形態、組織運営からの脱却を口にしても、同業の経営者からはほとんど共感を得る事はありませんでした。「ノーチラシ、ノーイベントで売り上げを作れるようになる」と熱く語る私に対して、おかしなことを言っとるわ、と冷ややかな目を向けられていました。負けん気の強い私としては余計に奮起したものです。(笑)

本質への回帰

それから15年の歳月が過ぎて、正規雇用した大工達と共に、現場での確実な顧客満足と工事終わった後の手厚いメンテナンスサービスで信頼関係を継続する仕組みを作り続け、当初目指していた販促に頼らずに紹介とリピートだけで毎年売り上げが作れるようになって10年が経ちます。今振り返って考えれば、自立循環型ビジネスモデルの基礎を作ってきた10年間だったと思います。この数年は、現場人材の教育と育成の重要さに気づかれた私と同じ志を持つ現場主義を掲げる経営者が増え始め、そのような事業者向けに一般社団法人職人起業塾を立ち上げて私も職人の採用と育成、意識改革とそれらを包括した仕組みづくりのの手伝いをしている次第です。ずいぶんと時間がかかりましたが近年になってようやく本質に目を向ける人たちが増えてきており、時代の大きな転換期を迎えていることを強く感じています。

サスティナブルモデルがスタンダートになってきた

この5年位前から私が勉強に参加させてもらっているコミュニティー界隈(UXデザイン、自然経営、経営実践研究会等々)では大きな時代の転換期であると言う認識が共通しており、これまでの資本主義社会では解決できなかった社会課題に取り組むには、社会システムの根幹の部分の変革が必要であり、一部の富裕層に世界中の富が集まり、格差と分断が加速している世の中を良くしていくには人への思いやりや優しさと経済を整合させる共感型資本社会への移行が必要不可欠だとよく取り沙汰されます。SDGsが国連で採択されたのもその流れの一環であり、誰も取り残されない持続可能な世界へ転換すべきだと言うのは世界中の国々でも共通認識になりつつあります。おのずと企業単位のビジネスモデルやサービスも同じパラダイムで語られるようになりました。私たちが長年取り組んできた自立循環型のモデルがようやく認知されだしたと感じていますが、変化に鈍い建築業界ではなかなかその意識の浸透がされていないように感じてなりません。

第5番目の資源

日本中の小学校の授業でもSDGsが取り上げられ、子供たちが社会に出てくるあと数年、もう少しすると持続可能な循環型モデルの企業が人気を集め、そのような取り組みをすること自体が一般常識になることを考えれば、あらゆる業種業態の企業も共感型社会システムへの適応が迫られることになるのは想像に難くありません。以前このnoteで事業経営に必要な経営資源として、これまで認知されてきた人、金、モノ、情報と合わせて「共感」が必要になると書いた通り、早晩に実際のビジネスモデルやサービスに共感される力を経営資源として取り入れるべきだと思います。第5番目の経営資源についての記事はこちら→

星の王子様の至言

共感を経営資源に取り入れると言うのは言葉にすると簡単ですが、実際の商品やサービスに実装するのは決して簡単なことではありません。その理由としてまず挙げられるのは、これまでのビジネスモデルはマーケットインにしてもプロダクトアウトにしても目に見えるユーザにとって分りやすいバリューに重きを置いており、共感といったぼんやりとして目に見えないものに重きを置いてこなかったからです。
「本当に大切なのは目に見えないもんなんだよ」とは世界で最も読まれている小説と称される「星の王子様」の一節です。私が長年学び続けてきた古典的マーケティング理論では、事業において何より重要なのは信頼であり、顧客はもちろんのことあらゆるステークホルダーやひいては従業員までを包括して、固い信頼関係を築くことがあらゆるビジネスのスピードを高めて、持続可能性を手に入れる唯一無二のタスクだと学んできましたし、その一点に意識を集中してビジネスモデルの構築を行ってきました。結局その原理原則は、言葉を変えると多くの人から共感を得られるあり方を見い出し実践することだと考えます。そのような視点で見ると、共感資本社会へのシフトは、原理原則への回帰だと言っても過言ではないと思うと共に実はそんなに難しいことでは無いのではないかと思うのです。

共感を経営資源にする必要なこと

企業が提供する商品やサービスに対してユーザー、もしくはマーケットから共感されるためにまず必要なのは「良き意図」であり、私は自分たちだけが良ければ良いといった利己的な考え方を捨て去り、社会課題の解決や、より多くの人に貢献したい、この世界をもっと良くして次世代に引き継ぎたいとの「志」だと考えています。何のための事業なのか、何のために仕事をしているのかとの問いに対する答えが大きな志を掲げていればいるほど共感も大きくなると思います。ただ、共感とは共に生きたい、応援したい、協力したいと感じる強い想いであり、そこに必要なのは、能書きやお題目だけの机上の空論ではなく圧倒的なリアリティーです。共感力を経営資源に取り込むには、志を立てて、それを愚直に実践し、継続することで本気度を示すことが必要であり、それが真実味を備えさせ、本気度を伝えることにつながるのだと思うのです。

実際に共感ビジネスに取り組んでみた

ちなみに共感ビジネスとして立ち上げたつない堂では、毎月2名以上、地域でよき意図を持って頑張っておられる人へのインタビューを行い、テキストを起こして紹介記事を書き、動画編集してYouTubeにアップし続けています。立ち上げから1年半が経ち、その積み重ね、担当者の本気の取り組みの蓄積がホームページで見れるようになって、ようやく私たちのサービスが概念だけではなく実践で裏打ちしている事を理解いただけるようになり、ここ最近になって月額会費制の有料会員の新規加入が増加し始めています。良い人同士を繋げ、紹介し、インターネット検索が必要なくなる安心安全な地域ネットワークを作りたいとの私たちの想いがそこに形になって現れているからこそ共感いただいた方に月会費を支払うメンバーとして加入いただけているのだと実感している次第です。より多くの人に共感してもらえるようにするには、志に根ざした活動の質と量の両方にこだわって継続して行くしかありません。つない堂のサービスが経営資源として実装し持続可能な収益モデルになるにはまだまだ時間がかかりますが、明確な意図に従ってブレずに地道に継続することで徐々に状態が整い、必ず成果となって現れると信じてスタッフと共に突き進んでいく所存です。

まとめ

これからの新しい世界に必要不可欠となる第5番目の経営資源である共感は、理論上は決して難しいものではなく、2500年もの古代に論語に書かれているような人としてのあり方を見直し、正しいところを起点とする誰もが知っている原理原則に基づいており、それはごく当たり前のことの蓄積です。しかし、事業経営に資するレベルまでその価値を高めるには、リアリティーを感じられる実績となる行動が必要で、残念ながら一朝一夕で作り上げられるものではありません。志を掲げ、明確な方向性を持って時間をかけて丁寧に、愚直に実践することしか手に入れることができないと思うのです。吉田松陰先生が言われた通り、「志を以って万事の源と為す」そして、誠実に自分との約束を守り続ける習慣の力が必要です。ただ、理屈がシンプルな分、(やれば)誰にでも手に入るし、まだ一般的に認知されていない今の段階でさっさと取り組んだ者がこれからの荒れ狂う時代に生き残る力を備えるのだと思うのです。

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四方良しの世界の実現を目指す

喜びが循環する地域コミュニティー創造事業

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