見出し画像

社会の変え方

私は神戸市の西の果てに住んでいます。最寄りの駅はJR明石駅です。とよく説明しますが、明石市が本当にすぐ隣のエリアに住んでいます。なので、明石市民ではないのですが、全国的に大きな話題になった明石市長 泉房穂氏の活躍というか、快進撃を興味深く見てきました。
泉市長は年齢も近いこともあり、何度か拝聴した講演でもそのエネルギーと前例主義、事勿れ主義の施政を許さないチャレンジ精神には深く感銘し、リスペクトしてきました。先日、2度目の暴言騒動の責任を取って政界を引退すると宣言されたのを耳にして残念だと感じていた矢先、泉市長の著書が出版されているのを見つけて早速購入し、読んで見ました。

政治家の著書を読む際の注意点

以前、橋下徹氏の大阪都構想や細川護煕氏の回顧録などの著書を拝読した時に感じたのは、政治の世界に身を投じて、それなりに名を売った人が語る言葉には力があるし、出来たこと、うまく行ったことは鼻高々に自分自身の実績として強く語るし、出来なかったこと、批判に晒されたことについてはその理由を述べることで、妙に納得させられる部分があるということです。政治家の方はそれなりにロジックを組み立てて自分の信念、信条に沿った行動をしておられるだけに、反対派の意見が全くない、一方だけの理論を詳しく説かれる著書を読むとつい納得してしまうところがどうしてもあります。当然、反対の意見を信条とされている方も居られるのですから、その意見にも耳を傾けなければならないと思いますが、著書を読んでいる時は確かにその通りかも、と著者につい共感してしまいがちです。

自分たちだけ良ければ良いんじゃない。

政治家が出版する書籍を読むことの危うさを知った上で、今回、泉房穂氏の著書「社会の変え方」を手にとって読みましたが、控えめに言って、殆どの部分について共感したし、これからも応援したいと思いました。実際は私は明石市民ではないので応援すると言っても泉会派の議員に選挙で一票を投じることさえできないのですが、それでもできる事があればしたいと心から思いました。それくらい良い本でした。
泉氏は私より4つ年上でまだ戦後の影が残っている時代、昭和30年台の明石の漁村で漁師の長男として生まれて、決して裕福ではない家庭環境でしかも障害者の弟の面倒を見る立場で少年時代を過ごされています。裕福な二世議員が多い中、苦学して東大を卒業、民間のマスコミから社会人生活をスタートさせられますが、自分達だけ良ければ良いのではないと政治の世界に飛び込み、師匠と慕った政治家が刺殺された後に弁護士や福祉士の専門資格を取得して市長になった異例の経歴を重ねられています。ご自身が少数派の苦しみを書かれていましたがこの時点で共感しかありません。

怒りと復讐心

そんな社会の底辺を経験した泉氏の著書「社会の変え方」の中に繰り返し、叩きつけるかの様に書かれているのは「冷たい社会への復讐」との言葉です。弱い者に光が当たらない、お金や力を持たない者に対してあまりに冷酷な社会に対する憤りが政治家を志した根本であり、議会と真っ向から対立しながら次々と革新的な政策を実現してきた原動力だとそこには書かれてありました。「火をつけてでも立ち退きさせんかい!」という音声が流出した他、繰り返し大きな批判に晒されてきた暴言を吐いた事件も、根底に怒りがあるからこそ、そこまで激しい言葉になったのだと妙に納得させられました。著書の中では社会を変えるには市民に向き合って市民の為の施策を立案、実行する。そのための予算の配分を見直す等のもっともな理論が書かれていましたが、私は怒りと復讐心という一見マイナスのエネルギーと思われがちな「憤の力」が不可欠なのだと受け取りました。私自身も先行きが見えない、道具の様に扱われる職人として働いていた頃の社会への憤りが「職人の地位向上を叶える」との志になって起業しており、深く共感した次第です。

コミュニティーを形成するのは圧倒的なリーチ

著書には泉市長が3期12年かけて行ってきた様々な革新的な政策とその実績が書かれていました。一つひとつの施策やその効果も大したものだと思いましたが、何より市民の為に政治家になったとのポジショニングと決断し実行する強い信念、それらを包括した在り方を感じさせられました。
Yahoo!ニュースにもしばしば取り上げられる程、全国的にも特筆すべき施策を次々に実行し続けたその政治手腕も去ることながら、私がこの著書を読んで初めて知って、なるほど、明石市民から絶大な支持を得た理由として理解したのは、泉市長の市民へのリーチです。今回、マスコミに叩かれて政界を引退することになった皮肉ですが、元マスコミにおられただけあって、メディアの力を知り尽くし、それを最大限に生かすことで市民の理解と支持を得て、敵だらけの市議会の運営を乗り越えてきたのだと気付かされました。

情報共有に欠かせない発信力

泉市長の市民へのリーチとは、月に2回市民に配布している「広報あかし」という紙媒体です。市長自らが編集長を務め、市民の生活に直接関係する政策をテーマごとに特集して配布するのに力を注いできたと書かれていました。一般的に市が配布する広報誌は市長の顔写真が載って、ありきたりのメッセージが書かれており、誰も興味を示したりしない代物ですが、明石市独自の5つの無料化政策などを次々に広報誌で発表し、その意図を説明すると多くの市民が興味を持ち、読むようになるのは創造に難くありません。
私は神戸市民なのでその広報誌を手にしたことはありませんが、明石市民がやたら泉市長に対して親近感を持って好意的な理由を垣間見た気がしました。市民に向き合って市民と共に政治をするとはまずは情報共有、事を成すにはまず意図や目的を詳らかにすることの重要性を改めて感じさせられました。

リーダー必読の書

泉市長が行われた政策や改革、その功績についてはさておき、社会を変える方法論やリーダーとしての在り方、強い意思を醸成する強烈な原体験、そしてダメなものはダメ、変えるべきものは変えるとの決して諦めない信念や信条の重要性を学ぶには非常に素晴らしい書籍だと感じました。泉市長は明石市という町を強烈なリーダーシップで変えました。それは結局、組織を変革した結果であり、自治体の運営でなくとも、事業の経営でも同じだと思います。私達のような経営者や何かしらのリーダーの役割を担っている人にとって、重なる部分が多々ある同じ命題を持っており、泉市長の書籍はリーダーシップを学ぶ者として非常に参考になりました。是非とも手に取られることを強くお勧めします。リーダー必読の良書でした。

__________________

本来の民主主義を目指して教育事業と建築×地域事業に取り組んでいます。
繋がってください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?