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理学療法教育では高いレベルにしていくべきか?多様性を求めるべきか?


抄読文献

Hogan AJ.
Accessibility in health professions education: The Flexner Report and barriers to diversity in American physical therapy.
Soc Sci Med. 2024 Jan;341:116519.
PMID: 38141381. PubMed. DOI: 10.1016/j.socscimed.2023.116519.
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ー健康専門職教育におけるアクセシビリティ:フレクスナー報告書とアメリカの理学療法における多様性の障壁ー

要旨

健康専門家は、アメリカ合衆国の広範な人種/民族的多様性を反映していません。
健康職業教育へのアクセス障壁の歴史が、これらの不均衡を開始し、永続させる主要な役割を果たしてきました。
職業の社会学者は、職業のステータス向上の努力における教育改革の役割を強調していますが、これらの戦略を容易にするか妨げるかの政府機関の中心的役割を見落としています。
フレクスナー報告書(1910年)は医学の地位を向上させましたが、州の医学委員会がその推奨事項を採用した後にのみ、全国の医学校の半分が閉鎖され、周縁化された人口が医療職に入る機会を制限しました。
理学療法のリーダーたちは、自分たちの専門職の専門化を進めるためにフレクスナーの教義を唱えてきました。
そうすることで、彼らは一貫して、学生と実践者の多様性に対するフレクスナー式アプローチのより陰湿な影響を見落としています。
本記事は、理学療法のフレクスナー式野心が、その分野の人種/民族的多様性を増加させる並行努力をどのように妨げたかを検討します。
私は、理学療法リーダーが彼らの専門職のステータスを向上させることに焦点を当て、教育へのアクセスと移動性を容易にすることに対して無関心であることが、その分野の人種/民族的均一性に大きな役割を果たしたと主張します。
将来的に実践者の多様性を増加させるためには、特に2023年の米国最高裁判所の判決(600 U.S. 181)が人種意識的アクションを制限した後、健康職業は学生へのアクセス障壁に対処するためにさらに多くのことを行う必要があります。
これは、フレクスナー式モデルから離れ、看護のようなより多様で包括的な健康職業が、より大きな教育機会と移動性を達成するのに役立ったアプローチを追求することを含みます。

要点

理学療法(Physical Therapy, PT)は、患者の機能改善と生活の質の向上を目指す重要な健康職業である。しかし、アメリカにおける理学療法教育が直面している大きな課題の一つに、多様性とアクセシビリティの欠如がある。この問題は、1910年に発表されたFlexner報告書の影響を受けた医療教育の改革と密接に関連している。この報告書は、高い基準の導入を通じて医療教育を改善することを目指しましたが、同時に多様性に対する重要な障壁を設けた。

Flexner報告書の影響は、理学療法教育にも波及した。プロフェッショナリズムと教育の質の向上を目指す中で、教育へのアクセスが制限され、特定の社会経済的背景を持つ学生の参加機会が減少した。これは、教育の機会が均等でないことを意味し、特に少数派や経済的に不利な立場にある個人にとって大きな障壁となっている。

他の健康職業、例えば看護では、より包括的でアクセスしやすい教育モデルが採用されている。これらの分野では、教育へのアクセスを拡大し、多様な学生が健康職業に参加できるよう努めている。理学療法教育でも、同様のアプローチを取り入れることで、多様性と包括性を高めることが可能となる。

このような背景を踏まえると、理学療法教育における改革の必要性が浮き彫りになる。教育プログラムは、社会経済的背景、人種、民族、性別など、多様な学生が参加できるよう設計されるべきである。これには、奨学金や資金援助の提供、柔軟な学習スケジュールの導入、オンライン学習オプションの拡充など、様々な取り組みが考えられる。

また、理学療法教育機関は、多様性と包括性を高めるための具体的な目標と戦略を策定し、これらを達成するために必要なリソースを確保することが重要となる。このプロセスには、教育カリキュラムの見直しや教員の多様性を促進する取り組みも含まれる。

最終的に、理学療法教育における多様性とアクセシビリティの向上は、より公平で包括的な健康ケアサービスの提供につながる。多様な背景を持つ理学療法士が増えることで、患者の多様なニーズに対応し、より良い患者ケアを実現することができる。これは、理学療療法の未来において重要な役割を果たす。

我々は、理学療法教育の現状をただ受け入れるのではなく、改革に向けて積極的に行動を起こす必要がある。Flexner報告書による影響から学び、その限界を超えて進まなければならない。理学療法教育が直面する多様性とアクセシビリティの課題は、単に教育の問題ではなく、社会全体の公平性と正義に関わる問題となっている。包括的でアクセスしやすい教育は、すべての人にとってより良い未来を創造する鍵となる。

多様性とアクセシビリティを理学療法教育の核心に据えることで、我々はより公平で健康的な社会への道を切り開くことができる。これは単なる願望ではなく、実現可能な目標である。各教育機関、教員、学生が共に努力し、社会全体がこの重要性を認識し支援することで、理学療法の分野は真の意味での進化を遂げることができる。

理学療法教育における多様性とアクセシビリティの向上は、ただ単に教育プログラムの改革にとどまるものではない。それは、患者と社会全体に対するケアの質を高め、より公平な健康ケアアクセスを実現するための基盤を築くことである。理学療法士として、我々は患者一人ひとりのニーズに応え、その生活の質を向上させることを目指すべきである。この責任を果たすためには、教育から始まる包括的なアプローチが不可欠となっている。

理学療法教育の未来を再考することは、挑戦的かもしれませんが、これは健康職業におけるリーダーシップを示し、より良いケアと社会正義を実現するための重要なステップとなる。我々は、多様性と包括性を促進し、すべての人に平等な教育機会を提供することによって、理学療法の分野を強化し、患者ケアを改善することができる。

この記事が、理学療法教育における多様性とアクセシビリティの向上の必要性についての議論を促進し、実際の変化を生み出す一助となることを願っている。理学療法教育の未来は、我々の手にかかっている。今こそ、包括的で公平な教育を実現するために、一歩を踏み出す時だ。

どのように受け取るか

このレポートはアメリカでの理学療法士教育の問題を提起したものになる。

本邦ではアメリカを追従しているようで、異なる文化を持つため、一様に参考にするということはできないが、アメリカで生じていた問題と同意義のものがかなり遅れて本邦でも生じていることが考えられる。

本レポートでは、多様性に関して、人種と経済格差の点を重点におき、その障壁により、理学療法教育に参入できない人材が多くあることを提起している。

本邦では、人種の問題はほぼないと考えられるし、経済格差で入学できないということもあまり大きな要因ではないであろう。

しかし、大学全入時代という名のもと、理学療法教育のレベルを上げていくことの困難さがある。

アメリカは、本レポートでもあるように、時代背景として理学療法を大学院教育まで必須の体系にしてきたこと、理学療法アシスタントという役割があり、そこから理学療法士になっていくためにはさらなる学術教育を受ける必要があるということを定めてきた。

その点においては、本邦では大学教育、大学院教育は増えてきてきているものの、基本体系としては、理学療法士の養成の基盤は大きく変わってはいない。
今後、6年制教育に移行していくのかどうかわからないが、その道を作っていくことも教育者として必要な要素かもしれない。

学生のレベルが下がっているという言葉もよく聞かれるが、決してレベルが下がっているわけではないと思う。
いわば多様性が広がっているということになり、理学療法士としての資質、役割、能力というのは、決して基礎学力では測れないものがある。
その多様な人材を受け入れ、大きく成長に結びつけること、それが教育者として必要な要素なのかもしれない。

ただ、アメリカが作ってきた道、歴史というのは大きなものであり、本邦においても参考にすべき点ではあると思う。保険制度など本邦独自のもの、文化もあると思うが、そこに適応しながら未来を進めていく必要があるのではないか。

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