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食育オペレーターつき宅配ピザ :-)

かつて、
「美味しいものにかぎって体に悪い」
という時代がありました。
ハンバーガーやラーメンなど。
今でこそ材料や調味料が工夫され、ヘルシーなハンバーガーやヘルシーなラーメンも出てきていますが、一般にはこうした食べ物は
「体に悪いけど美味しい」
部類に認識されています。

ピザもそうです。
アメリカではピザは学校給食に出てきますが、子どもの健康に良くないということでピザを学校給食から排除しようと国会で審議されたこともありました(結局、その法案は否決されてしまいましたが)。

何だかんだ取り沙汰されても、こうした食べ物が世の中から消えてなくならないのは、1つにはやはり人々の口に合うから。
もう1つには、手軽で便利だからでしょう。
便利さは、忙しい現代人の生活に欠かせない要素です。

だったら、逆転の発想で、そこを食育に活かすという方法があるかもしれません。
たとえばこんな感じで…。

食育オペレーターつき宅配ピザ

「お電話ありがとうございます。食育ピザ、目黒店でございます。まずお電話番号からいただけますか?」
「電話番号ですか。えっと、03-XXXX-XXX です」
「松宮様ですね」
「はい、そうです」

「ご本人確認をさせていただきます。正確な BMI(ボディマス指数)を小数点以下6桁までおっしゃってください」
「は?」
「BMI でございます。入会いただいたときに、私どもからお送りした『食育ノート』は、お持ちですよね」
「あ、あるけど…」
「以前に測定したときの、松宮様の身長と体重が載っているはずです。そこから BMI を算出していただき、その数字を教えてください」
「そんなこと言われても…」
「電卓はお持ちですよね? BMI の計算のしかたはお持ちの食育ノートに書いてあります」
「いやですよ、そんな面倒なの」
「BMI 確認はご本人さま確認のためです。ご理解ください」
「そんなものが本人確認になるんですか。しかたないなあ…えっと、23.908121。これでいいわけ?」

「ありがとうございます。ご本人さま確認ができました。ではご注文をどうぞ」
「43番の、チーズカルテットの B サイズをお願いします」
「松宮様、そのご注文はお勧めできません。お客様の健康に良くないですから」
「は?」
「入会時に入力していただいた松宮様の食生活のデータにもとづき、私どもの食事指導システムにチーズカルテットを入力しましたら、画面に警告が出ました」
「なんですかそれ。どうでもいいじゃないですか。僕はチーズカルテットを食べたいんです」
「警告が出た場合、その注文をあきらめてもらうように説得するのが、私ども食育オペレーターの仕事です」
「何を食べようと、勝手でしょう?」
「チーズカルテットは松宮様の食生活を改善するメニューには該当していないのです」
「そんなこと、誰が決めたんですか。ただの注文拒否じゃないですか」

「松宮様、お体のことを考えて、ご注文を変えていただくわけにはいきませんか?」
「分かったよ。しかたないな…。じゃあ10番の大豆ピザにします。大豆なら健康的だから、いいんでしょ? サイズは B でお願いします」
「賢明な選択です。すばらしい。こうした日常のちょっとした選択で、松宮様の未来が変わるのです」
「そうですか。それはどうも。ドリンクも注文したいんですが」
「ご注文をどうぞ」
「コーラを」
「松宮様、画面に警告が出ました。音楽が鳴っているのは聞こえますか? これは警告ミュージックです」
「警告ミュージックって…。ダース・ベイダーのテーマソングですよ、これ」
「松宮様、飲みものも、もう少しヘルシーなものに変えることをお勧めします」
「じゃあコーラはやめときます。コーヒーならいいですか?」
「コーラよりはいいですね。砂糖とミルクはおつけしますか?」
「砂糖をください」
「松宮様、申しわけありません。砂糖を入力しましたら警告が出ました。この音楽、聞こえますか? ショパンの葬送行進曲です」

「…砂糖はあきらめます。というか、砂糖も入力するんだ」
「砂糖をあきらめていただけるんですね。賢明な選択です。すばらしい。これで松宮様のランチメニューはとてもヘルシーになりました。では出来上がりまで45分ほどお時間をください。お越しをお待ちしております」
「えっ、僕がそっちに行くんですか? 宅配じゃなかったんですか?」
「通常は宅配ですが、松宮様の場合、宅配ではなく来店していただくよう、画面に指導が出ております。松宮様に来店していただくよう説得することが、私ども食育オペレーターの仕事です」

「要するに、歩けということですか」
「45分間しっかり歩いていただきたいので、ご来店の場所はここ目黒店ではなく、少し離れた品川店とさせていただきます」
「えっ品川? 品川まで歩くんですか? それって遠すぎますよ」
「タクシーを使ってはだめです。ちゃんと歩いていただいたことを確認するために、松宮様の万歩計をチェックさせていただきます。入会時にお送りした万歩計はお持ちですね? チェックが済みましたら、商品をお渡しいたします」
「そんな…」
「お会計ですが、大豆ピザの B サイズにホットコーヒーを砂糖なし・ミルクなしでおつけして、全部で8,570円いだだきます」
「えっ? 8,570円。それって、高すぎませんか?」
「松宮様は私どもの食育アドバイスを受けて注文が変わりましたね? 計算によると、松宮様の健康寿命はこれで2日、伸びました。この価格は食事指導料込みのお得な価格となっております」

~完~




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