もし「食育原理主義人民共和国」みたいな国があったら。【その3】 :-)
前回(その2)の続きです。
田中さん、つかまる
前回登場した田中さん。
シンドフジ共和国に入国したあと、どうなったかというと…。
しばらくシンドフジ共和国で観光をしていたのですが、途中で何かやらかしたのか、ある日、食育警察に連行されました。
どこかのヤバイ施設に収容されてしまったようです。
そんなシンドフジ共和国はマゴワヤサシ大統領の協力な独裁のもと、
食育軍隊
食育警察
食育原理主義による教育制度
が整えられ、食育大国としての地位を着々と築きつつありました。
田中さん、倒れる
田中さんが収容されている教育施設の、ある秘密の部屋。
制服・制帽の女性と、作業着の田中さんが、なにかプレイをしています。
「ミスター田中。答えなさい。アマニ油、エゴマ油、青魚。共通点は何?」
「う…」
「夏が旬の魚の名前、5つ言ってごらん」
「ぐぐ…」
よろける田中さん。
壁にしがみつき、倒れそうな体を支えます。
「ミスター田中。あなたは有機野菜は慣行野菜より美味しいと心から言えますか」
追い討ちをかけるような質問に、田中さんはついに倒れこんでしまいた。
「なにやってんの」女は言いました。「立ちなさい」
「た、立てません」
「そんなことでどうすんの」
しかし田中さんの目はさっきからぐるぐる回っていました。
どうなる、シンドフジ?
話は数か月前にさかのぼります。
シンドフジ共和国が食育大国になってゆくにしたがい、国民のあいだでストレスが蔓延してきました。
朝ごはんをしっかりと食べる
「いただきます」「ごちそうさま」を心をこめて言う
食についての勉強を怠らない
地産地消を守る
料理は手作りが基本
家族団らんを欠かさない
この「掟」はシンドフジ共和国の法律となりました。
背いた者は矯正施設に送られました。
しかし、こんな法律を押しつけられ、幸せに感じる国民は、多くありませんでした。
ほとんどは、
「なんだかなあ」
と思いながら、しぶしぶ政府の指導に従っていたのでした。
そのストレスが徐々にたまり、だいぶ疲れてきたのでしょう。
ちょっとしたことで、人々は心身喪失するようになりました。
「食育ハラスメント(ショクハラ)」も横行しました。
上手に食育できていない人を言葉でいじめるのです。
朝ごはんを食べない人をからかう
「いただきます」「ごちそうさま」をよく忘れる人を怒鳴る
食の知識が足らない人をハブる
地産地消のできない人を見下す
料理の下手な人に嫌がらせをする
家族団らんのできない家族を警察に通報する
こんな感じ。
からかわれた人は、大人も子供もすぐに心身喪失し、その場で気を失ったりしました。
試しにあたなもシンドフジ共和国に行き、そのへんを歩いている人にこう言ってごらんなさい。
「おまえさん、食品を買うときは、しっかりラベル読んでるんだろうな?」
その人はショックのあまり、その場で倒れこむことでしょう。
観光目的でこの国に長期滞在していた田中さんも、だんだんとメンタルをやられてしまいました。
ストレスがたまって食育警察の警官に暴言を吐いたために、連行されてしまったのでした。
街では「食育ハラスメント」による死亡事件も多発するようになりました。
心身喪失が高じて、人々は心臓発作を起こすようになったのです。
どうなる、シンドフジ共和国?
田中さん、ぶっ倒れる
話はプレイの場面に戻ります。
やっとのことで起きあがった田中さん。
その田中さんに対し、制服女性の攻撃は続きます。
「あなた、こないだまでアボカドのことを、『カ』に点をつけてアボガドって言ってたでしょ」
「うぐぐ」田中さんは両手と膝をつき、口から泡を吹きました。
女は肩をすくめました。
「今日のレッスンはここまでにしましょう。これ以上はちょっと無理みたいだし」
田中さんは大きく息をしながら再び立ちあがりました。
「まだまだ」と、田中さん。「教官あんた、バターじゃなくてマーガリン派だったんだってな。トランス脂肪酸のことを聞いて腰を抜かしたらしいじゃないか」
今度は女性のほうがよろけました。
「やった」ガッツポーズの田中さん。「今のは入ったか」
しかし教官はよろけはしたものの、踏みとどまりました。
微笑むと、こう返しました。
「いいパンチね。でもあなたは、箸のマナーがなってないわね」
これは効きました。
田中さんの体は勢いがなくなったコマのように不格好に回転し、ばったり倒れてしまいた。
ここは食育警察の訓練施設。
殺し屋にスカウトされた田中さんの、厳しいトレーニングが続きます。
~完~
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