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八宝菜(イカと豚肉)

八宝菜を作ります。

味のイメージは、塩味ベースの透明〜やや白濁のスープで、白胡椒の旨味と香りが効いたもの。甘みも含んだ旨味を目指したいところです。
口に入れた時の歯ごたえのバリエーションも大切。
今回はイカをメインに使うと決めていたので、クニクニした感触を中心に、他の具材を考えます。

歯ごたえ担当は人参とブロッコリー。どちらも、上手く火を通せば、歯に当たった瞬間の硬さと同時に、噛み切った時には、柔らかさも含んだほどよい手応えと甘みを感じさせてくれます。人参は角ばった形であくまで硬派、ブロッコリーは花蕾部分のモショモショした感じも楽しいですね。形がおのずと違ってきますので、歯ごたえ担当といえども、それぞれ違うリズムを奏でてくれそう。
緑と濃いオレンジ。色も申し分ありません。

他の具材には、木耳もいいですね。イカの「クニクニ」と、人参ブロッコリーの「コリコリ」をつなぐ役割を果たしてくれそうです。味の主張がないところもいい。小休止を挟むことで、他の具材の主張もより華やぐというものです。
木耳は、水で戻して、食べやすそうな大きさにカットします。硬いところがあったら取り除いてください。

さて、主だった具材が決まったところで、主役であるイカを引き立てる、パートナーの人参とブロッコリーを、理想どおりの歯ごたえに仕上げるため、ここで「湯油どおし」します。まずは、人参は皮を剥いて5ミリ×3,4センチ、ブロッコリーは一口大にカットしておきましょう。

湯油どおしとは。
中華料理のテクニックの一つに「油どおし」というのがあります。具材を予めさっと高温の油に通して、火を通しておくというものです。下茹でにも通ずるテクニックですが、短時間高温なので、色鮮やかに、歯ごたえよく仕上がります。
が、これを家庭でやるのはハードルが高いですね。そのためにわざわざ鍋に、それなりの量の油を注がなくてはいけません。面倒くさい。
かといって、湯どおしや下茹でだと、温度が上がりにくい。野菜がぐんにゃりしたら、台無しです。
そこで、湯を沸かしたところに、塩と、油を小さじ1〜大さじ1ほどたらしたもので短時間火を入れる。それが湯油どおしです。湯だけよりも温度が上がり、また、具材の表面が油でコーティングされますから、短時間で色鮮やかに、歯ごたえよく香りよくできます。人参の場合、油によって独特の臭みも消えますから、ぜひやってみてください。
今回は、人参30秒、ブロッコリー1分少々、火を入れました。予熱でも火が入りますし、最後に再度炒め合わせますから、少し生っぽい感じで構いません。鍋から上げたら即ざるに上げて、水分を切っておきます。(水にさらしたりしないこと!)

イカは、胴体を開いて縦1/4にし、2センチ~幅くらいにカット。今回は小さめのスルメだったので、エンペラははずしてそのままですが、大きければ適当な大きさにキリましょう。量が多かったので、ゲソは今回は使いませんでしたが、もちろん入れても良いです。カットし終えたら、酒少々を振って揉み込んでおきましょう。

豚肉(生姜焼き用)も、2〜3センチ幅に切っておきます。酒と油と塩少々、それから、片栗粉を少しだけ揉み込んでおきます。
片栗粉を揉み込むのは、柔らかさを出すため。中華圏のレシピでよく見かけるテクニックです。なぜ片栗粉で柔らかくなるのかは、今のところよくわからないのですが、おまじないみたいにやってます。唐揚げじゃないんだから、白くなるほど入れちゃだめですよ。おまじない程度です。

全ての具材は「食べやすそうな大きさ」に、そして見た目にもバランスよく仕上がるように大きさを揃えてください。但し、イカや豚肉は火を通すと縮みますので、その分大きめにするのもポイントです。

口に入れた時のイメージを、もう一度思い浮かべてみましょう。
イカは、もちろん火を通しますが、あくまで柔らかさは失っていないこと。
今回は脇役の豚肉は、見た目には主張がなくとも、その旨味をしっかり全体に響かせること。
野菜類はぎりぎり火が通ったくらいの硬さ。
甘みのある塩味ベースではありますが、どこかピシッと引き締まった華やかさも欲しいですから、生姜も多めに使いましょう。皮を剥いて千切りにします。
ニンニクは薄皮を剥き、包丁で潰しておいてください。気になるようなら、芽は取り除いておきます。

忘れてはいけないのがスープ。鶏がらスープの素でもいいですが、本物の鶏から取ったスープの美味しさは、他には替えられません。鶏ハムや茹で鶏の汁でも構いませんから、余裕があったらぜひ準備してください。
他のやり方としては、材料の中にある豚肉を、しゃぶしゃぶの要領で湯がいて、その茹で汁をスープ代わりにする、というのもいいです。但し、その場合は、浮かんできた灰汁を、しっかり取り除いてくださいね。
それから、仕上がった時のタレにはとろみが欲しいので、水溶き片栗粉も良いしておきましょう。片栗粉1に水2の割合で混ぜておきます。

スープが準備できたら、仕上げの「タレ」を先に作ってしまいます。
鍋に油を少し敷いて、冷たいうちに、生姜とニンニクを入れて火にかけます。ここでは弱火〜中火。目的は生姜ニンニクの香りを引き出すことなので、焦がさないように。
香りが立ってきたら、火を強めてスープを注ぎます、スープは充分に温まっていることが理想です。冷たいと、せっかくの鍋が冷えてしまいます。1人前お玉1杯くらい。あと、酒も少し加えましょう。ここからは強めの火で構いません。スープが煮立ったら、塩、白胡椒、砂糖で調味。タレになりますから、味は強めにしてください。塩味ベースではありますが、白胡椒と砂糖はとっても大切です。ちょっと多いのでは?というくらい入れます。
最後に薄口醤油を少しだけ。醤油の色がつくほど入れてはいけません。あくまで、イメージは透明のスープです。醤油の役割は、旨味と香りで味の方向性をまとめること。
ここでイメージした味がほぼ完成(但し濃いめ)していることが大切。焦らずゆっくり確認してみてください。ベースに来る旨味と甘み、澄んだ塩味、白胡椒独特の、鼻に抜ける香り。いい感じのタレができましたか?

次に仕上げの手順です。
完成のイメージから逆算してみましょう。
イカはすぐに火が通ります。歯ごたえ命の野菜類は油湯通しで準備OK。逆に、しっかり火を通すことで旨味を引き出したいのは豚肉です。ですので、フライパンに油を敷いたら、まず豚肉、その後に、生のイカ、木耳、最後に野菜類を加えるという順番でいきます。ここからはスピード勝負です。

フライパンを火にかけ、充分に温まったら、胡麻油を敷きます。豚肉を投入して広げ、しっかり色が変わるまで火を通します。かき混ぜすぎるとお肉がボロボロになりますから、じっくり観察して、頃合いをみて裏返しましょう。焦げ目はつけずに火はしっかり通った状態を目指します。とはいえ、火の通りが甘いくらいなら、少々の焦げ目が付いているほうがまだ良いです。今回の豚肉の役割は、全体を包み込むしっかりした旨味。そのためには、熱を加えて旨味を引き出すと共に、余計な豚肉臭さは取り除きたいのです。

豚肉に火が通ったら、火力を最大限にして、イカを加えてさっと混ぜ合わせ、続いて木耳を加えます。イカ、木耳はこの段階では火が通りきってなくても構いません。
※ちなみに、スープのために豚肉を茹でてしまったよという場合は、豚肉→すぐにイカ、木耳の順で入れてください。豚肉にじっくり火を入れるステップは早送りです。
続いてさらに、人参、ブロッコリー。
そのまま「タレ」を加えます。この時のタレも、できたら温まっている方がいいですね。火力は強火のまま、タレを煮立てると同時に煮詰めます。少し味見してみましょう。もし、塩辛すぎたらお湯を足して調整してください。ぼんやりしてるなぁと思ったら、タレを足すか、白胡椒、あるいは薄口醤油を考えてみてください。塩味ばかりでコクが無い時は、砂糖か白胡椒です。いずれにしても、どんどん煮詰まっていきますから、スピーディに。
充分な沸騰状態になったら、スープの部分に水溶き片栗粉を加え、全体を大きくかき混ぜながら引き続き沸騰させ続けます。
鍋の縁全体に小さな泡がぶくぶく立って、全体のとろみが強くなってきましたか?とろみの付いたタレは、鍋に焦げ付きそうになりますが、これは美味しさの元です。本当に焦げてしまってはいけませんが、水溶き片栗粉を入れた後に充分沸騰させることを怖がらないでください。餡状態のタレは、しっかり沸騰させてこそ、なめらかな口触りになります。

火を止めたらすぐさま器によそい、全体がバランス良く美味しそうに見えるよう、箸で具材の配置を整えて、完成!

食べてみて、いかがでしょうか。
短時間で仕上げているので、具材そのものにまでは味は染み込んでいません。そのおかげで、野菜の歯ごたえや甘さが引き立ちますね。少し濃い目と感じたタレも、全体のバランスでいい感じにまとまってませんか?イカはクニクニしつつも柔らか。豚肉は、目立たずとも、裏でいい仕事しているでしょうか。口の中で合いの手を打つ木耳も、入れてよかったでしょう?

リズム、バランス、スピードとメリハリ。「八宝」菜というだけあって、ポイントもたくさんありますが、野菜が沢山取れる上にボリュームもあって、白いご飯にも合う、上手に作れると嬉しいおかずだと思います。
一番大切なのは「イメージ」。しっかり頭に描いて、味を想像してみて、そこに向かって、迷いなく手と頭を動かしてみてください。
あなたの「美味しい」に、出会えますように!




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