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ブックレビュー:人間は料理をする ㊤ 火と水/㊦ 空気と土

「絵を描きたい」とか「何か作りたい」とか思っていたのに、料理をしたら満たされてしまった。そんな経験はないでしょうか?私はあります。料理への欲求と創作への欲求は、同じところから湧いてくるのではないか。そんな気さえします。
というのは個人の印象に過ぎないとはいえ、料理が、極めて「生産的」な営みであることは間違いありません。本書は、あるジャーナリストが、そんな料理の根源に迫ろうとする試みの記録。筆者が、各分野の料理人に教えを請いながら、肉を焼き、出汁を取り、パンを焼き、発酵食品を作る過程で、料理とは「自然界と社会の両方に対峙する」行為であると身をもって知っていくさまが描かれます。
 いま読み直すと、特に印象深いのは発酵をめぐる章。いうまでもなく、発酵食品は人と菌類の分かちがたい関係を示すものですが、本書では、近代的な公衆衛生の理念と伝統的な発酵食品の相克について詳しく語られています。
 喫茶店やスーパーで、手にアルコールを吹きかける私たち。今日の衛生観念と、これからの私たちの食と身体について、思いを馳せるのに良い一冊です。

『人間は料理をする ㊤ 火と水/㊦ 空気と土』
マイケル・ポーラン著、野方香方子訳(NTT出版、2014年)

https://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002297.html

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