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旅の記録②興味が開花期

オランダは、どこもかしこもパン祭りです。カフェやレストランでもスープ、サラダ、そしてパンが必須メニューです。下手するとランチ時ではパンしかないところも。メニューの種類は少なくてもパンのチョイスはとりどりでboterham(サンドイッチ)、パニーニ、トスティ(オープンサンド)、白パン、全粒粉。とにかくスーパーもパン、ランチでもパン、外食でもパンとパンがやたら目につくので、オランダに来たての頃はそのバラエティに歓喜し、やがて食傷気味になり、さらにパン恐怖症に陥る人もいます。

今は懐かしい林望さんの『イギリスはおいしい』に確かパンについてのお話があった。イギリスの薄ーいトーストに直面したリンボウ先生、おいしいと思ったのか、ちょっとねーと思ったのかは記憶に定かではないけれど、日本の分厚いトーストとの考察が面白かったのを覚えている。リンボウ先生曰く、日本人はお茶碗によそったホカホカのお米のごとくパンをとらえているのではないか、だからフワフワにこだわるのではないか、という記述だった。確かにこちらのパンに厚切りはない。そして単体では食べない。ぜったい何か乗せる。ついでにオランダ人は、家で食べる際はサンドイッチしない。つまりパンとパンの間に具を挟まない。カフェでも、例えばフムスと野菜のパンを頼んだとしましょう。すると、パンの上に色々乗っかったインスタ映えしそうなヤツがやってきます。そう、パンは土台でしかないのです。

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そうだチョコパンを作ってみよう

幸いにも自分は日本にいた頃からパン>お米だったので恐怖症に陥ることはなかった。むしろ茶色いパンは全粒粉なのに酸っぱくなく、しかも雑穀入りとか、油分なしとか、スペルト小麦とか色々な茶色パンがあることに感激して、今日はこれ、明日はあれと食べ比べを楽しんでいた。唯一の不満がチョコ生地のパンがなかったこと。パン・オ・ショコラはあるんだけどね。挟まっているんじゃなくて、生地にチョコ味が欲しいのです。

というわけで、仕入れた小麦とドライイーストで初めてパン作りに挑戦することにした。ロックダウンが始まって約1か月たち、感染者数は横ばい、街には人っ子ひとりおらず静まり返り、そんな異様な雰囲気をものともせず空は青く、チューリップが咲き乱れていた頃だ。未知のウイルスに外に出るのも勇気を出さなくちゃいけない日々に、無心でパンをこねる時間は慰めになった。

ココアパウダーを入れ過ぎて生地が硬くなったり、成形のときにきつく巻きすぎてずっしりした生地になったりしたけれど、コツがつかめるようになったら安定して作れるようになってきた。

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あんなに食べたかったチョコ生地パンなのに、いつでも作ることができることがわかった途端に急激に関心が薄れていった。あれですね、食いしん坊さんならいざ知らず「食べたいな―」ってのは、妄想過程が醍醐味なんであって、実際に食べることじゃないのかもしれない。それでも続けたのは、食べるよりも、こねたかったからだ。

このコロナ禍によく眠れるし、食欲もあるし、仕事も適度にあるしで、ストレスはあまりないと思っていたのだけれど、パン生地を無心にこねる時間は爽やかな開放感があった。最初はぼっそぼそだった生地がこねているうちにやわらかくなって、びよーんと伸びてきて、つるっつるになる。その変化を手で感じられるほんの20分くらいはメディテーションタイムになっていた。

ココア生地食パンからはじまってココアメロンパン、食パンなどをせっせと作っていたのだけれど、次第に気になるようになってきた。それはインスタントドライイーストの匂い。封を開けた時、パン生地に入れた時に、むっと匂いが鼻につく。パン職人よろしく焼きたての生地に鼻をつけてくんくん嗅ぐと、イーストの匂いがする。どうにかならんかな。生イーストに変えればいいのかな。

あ、そうだ。天然酵母。パン関連のウェブサイトを巡るとよく目にするじゃない。ってか、前に干しブドウの天然酵母のパン職人を取材したことあったじゃない。時間がかかりそうだけど、いっちょやってみるか。

インスタントドライイーストに別れを告げ、天然酵母に挑戦しよう、と思い立ちました。


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