見出し画像

亀を運んだお話

 夫と散歩中、池のある公園へ寄った。小さいが、池には鯉や亀やアメンボや、名も知れぬ小さな魚たちがたくさんいて、生き物好きの自分にとって非常にお気に入りの公園だ。


 よく晴れて、風が気持ちいい日だったため、公園には人がたくさんいた。でも、所謂「三密」にあたるほどの人混みではない、程よい賑わいだった。

 夫と2人で、テイクアウトしたサンドイッチを食べながら、新緑を目で楽しむ。贅沢な時間を過ごすことができた。

 食後、手を洗うために手洗い場に行くと、夫が大きい声を出した。
「亀がいる!」
 亀はいるのだ。寧ろ見に来たのだ。と思っていたら、夫の指差した先は、池ではなく、柵に囲まれた芝生だった。
「亀がいる!」
 私も叫んだ。亀は、池から数メートル離れた、自力では到底登れなさそうな柵の中にいた。のしのし歩いていた。

 元気そうではあったが、亀は水の生物だ。柵から出られなければ、干からびてしまうのでは‥!?
 不安に駆られ、私は柵の上から手を伸ばし、亀を持ち上げた。亀は首と手足をひゅっと甲羅に仕舞って、じっとしていた。きっと怖かっただろう。申し訳ない気持ちもあったが、命にかかわる事態と思ったため、暴れないのをいいことに、池のほとりまで急いで運んだ。

 池のほとりは石造りで、水面まで30cmほどの段差があった。
 石の上に亀を下ろすと、一瞬の間ののち、すぐに池に飛び込んだ。亀とは思えぬ素早さだった。やっぱり亀は、池に帰りたかったのだろう。

 自分の善行に満足しながら手を消毒していたら、夫が、
「竜宮城に連れて行ってもらえるね」
と言った。良い発想を持っているなあと思った。

 今更気づいたが、池と柵の中が地下で繋がっており、亀の散歩を邪魔したのでなければ良いと思う。

終わり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?