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目を閉じると聴こえてくるもの。(企画メシ4)

 阿部広太郎さんが主宰する「企画でメシを食っていく(企画メシ)2021」第4回のテーマは「対話の企画」。
 今回の講師は、ダイアログ・イン・ザ・ダークでアテンドを務める 檜山晃(愛称ひやまっち)さん。講義を前に「盲点からのアプローチ」での阿部さんと檜山さんの対談を視聴した。檜山さんが、「『みんな』という言葉には、自分を含む『みんな』と、含まない『みんな』があると思う」と言われたことにハッとした。今回の講義は、こんな「ハッとする」ことの連続だった。

音のミルフィーユ

 講義を前に取り組んだ課題は、「目を閉じてパラリンピックを『音』で観戦してきてください。そこで発見したことを『40秒』で話してください。」というもの。
 テレビをつけて目を閉じてみる。すると、それまで気にならなかった扇風機の音が耳に入ってくる。テレビの音に耳をすます。たとえば車いすラグビーだったら、車椅子のぶつかる音、コーチやチームメイトの声援、ホイッスル、いろんな音が聞こえてくる。目を開いている時には聞き流していた音が立ち上がってくる。

 これはラジオを聞いてみるといいのでは、と思って、陸上競技をラジオで聞いてみた。目を閉じる。すると、いろんな音が押し寄せてきて、戸惑った。競技場内に流れるアナウンス、歓声、選手やコーチやいろんな人の声、アナウンサーや解説者の声が聞き取りづらい。
 普段、視覚で情報を補っていることもあれば、遮っていることもあったんだ、と気づいた。視点ではなく、”聴点”を意識すると、そこにあるのに聞いていなかった音が聞こえてくる。
 通勤時のバスでも耳に意識を向けると、それまで聞こえなかったバスの揺れる音、ドアの開くプシュッという音、いろんな音が聞こえてきた。

 私はこの「発見」を、「音のミルフィーユ」と表現した。

 パイ生地とクリームを交互に重ねて作る「ミルフィーユ」というお菓子のように、いくつもの音が重なっている。わたしはその中から、無意識のうちにピントを合わせるように、聴きたい音を選び取っていたみたいだ。わたしを取り巻く世界には、たくさんの音があふれている。わたしの声の後ろにも、きっといろんな音が隠れているはずだ。

 この「発見」を伝えたくて、私の声の後ろにも音が聞こえるといいな、と思った。出勤前にベランダでスマホを握り締めて録音した。朝は鳥たちの鳴く声がするのだ。残念ながら私の録音技術では、うまく鳥の声まで取り込めなかったけれど、うーんと耳をすますと、かすかに「チチチ」と鳴く声が聞こえてくるかもしれない。

対話って何だろう?

 ところで、課題を課題のまま捉えるのではなく、取り組む前に「なぜこの課題が出されたのだろう?」と考える。この過程がすっぽり抜け落ちている状態で課題に取り組んでしまった。
 今回の課題は「対話の企画」。企画生(受講生のことをこう呼ぶ)のそれぞれの課題への答えを聞いた後で、心動かされた「対話したい相手」を選んだ。

 「対話」について調べてみた。向かい合って話し合うこと、お互いを理解し合うこと、思考の交流。私は、自分にはない視点にはっとしたり、その人の新たな一面が見えて興味を持ったり、もっと話を聞いてみたくなったり。そんな人を選んだ。

 檜山さんにとっての「対話」は、自分の目の前の土俵に乗っかるし、相手も同じ土俵に乗っかるという感覚。用意されたところに乗っかるのではなく、どう土俵を用意するかだと話してくれた。対話のための「場づくり」も大切、対話って双方向なんだ、と改めて気づいた。

 檜山さんは、初めて会った人に、相槌を打ったり、「聞いている」とサインを伝えるよう心がけているとのこと。聞いてほしいなら、語りかける。「伝えると伝わるは違う」という阿部さんの言葉にも通じると思った。

その言葉に、ハッとした。

 檜山さんの言葉には、何度もハッとさせられた。

知っていることが増えるんじゃなくて、知らないことが増える方が広がっていく感じがする。
どんな小さな発見でも一緒に感動できる心の準備が大事。

 目の見えない檜山さんは、色の感覚の共有はできないという。でも、言葉を使っての共有はできる。「トマトは赤い」「空は青い」というように、頭の中に色辞典みたいなものがあって、言葉と色が紐づいている。辞書は常に更新中だ。

 企画生のななみんが、課題への答えで呼びかけていた言葉を聞いて、思い出したことがある。

あなたの世界は、どんな色をしていますか?

 私の好きなアーティストが、五月の青い空の美しさについて歌った曲がある。ずいぶん昔の曲なのでうろ覚えなのだけれど、目の見えない方たちがパラグライダーを体験して、「空がこんなに青いとは知りませんでした」と語ったというエピソードを聞いて作ったものだという。
 彼らも頭の中に色の辞典を持っていて、体で空の青さを感じたのだろうか。まさに、「体感」。まだ行ったことがないけれど、真の暗闇を体験できるという「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に行ったら、私はどんなことを体感できるだろう。

 この課題以来、時々、耳に集中してみるようになった。夏が終わり、暗くなるのが早くなった。仕事帰りに、暗がりの中から、たくさんの虫の声が響いてくる。朝、いつの間にか、降るように鳴いていた蝉の声が消えて、鳥の声が届く。

 企画メシでの講義を重ねる度、視界が広がるような感覚を覚える。次は、どんな世界が待っているのだろう。

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