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在外公館派遣員:紙がふやけて、芸術的センスが発揮された筆記試験(前編)

4年前の秋の日、会社帰りの京王線に揺られながら、携帯の画面の在外公館派遣員の募集要項を眺めていた。

募集は年に2回。
派遣員の任期が2年なので、入れ替わりのタイミングで各公館が一斉に募集をかける。

募集は言語ごとに分かれていて、公館(国・都市)の希望は一応出せるが、最終的にどこに派遣されるかは、内定が出るまでわからない。

英語で受験すれば英語圏の国の中のどれか。アメリカ行くぜ!と意気込んで受験しても、蓋を開けたらサモア共和国だった、なんてこともザラにある。

私はフランス語で受験した。
募集公館はヨーロッパとアフリカの仏語圏の国がそれぞれあった。てか半分以上はアフリカだった。

ブランクの空いたフランス語には全く自信がなかったけれど、受験するのは無料だし、今回は受けるだけ受けて、レベルを見た上で、またフランス語の勉強のモチベーションに繋げればいいかな~という気持ちだった。

何事も計画的に進めるのがニガテな私なので、願書を出したのは締切り日ジャスト。消印有効って言葉大好き!

筆記試験当日

時間に余裕をもって、会場に向かった。最寄り駅に到着して近くのコンビニでコーヒーとメロンパンを買って食べた。

携帯のGPSの案内に従って、30分前には会場となるオフィスビルに到着した。
ビルは正面玄関から入ってもなぜか薄暗く、人気がなかった。
ちょっと早く着きすぎたかな~なんて思いながら、会場の案内板を探したが、何もない。誰もいない。
普段はサラリーマンの出入りで賑わうであろうエントランスも、週末だからか静寂に包まれている。

この時点で15分前。

まさか。会場間違えた?
冷や汗がじっとりと肌をまとう。

誰か人に聞こうにも誰もいない。
急いでグーグルマップを確認するが、現在位置を示す青い丸は確かに目的地の会場にいる。

まさかの事態に心臓がドキドキした。これはもう今回は受験するな、という神のお告げなのかも。
大切な休日の朝から一体何してるのさ、月曜からの仕事に備えて、さっさと家帰って寝よう、という悪魔のささやきが聞こえた。

「あの、すみません、もしかして派遣員受験の方ですか?」

ふいに声をかけられて、後ろを振り返ると、私より少し若い20代前半くらいの女の子が不安そうな顔でこちらを見つめていた。

「会場を探してるんですけど、見つからなくて‥」

どうやら彼女も私と全く同じ状況のようだった。ふたりで困って顔を見合せた。

そこにビルに入ってくる警備員さんが目に入った。ふたりで駆け寄り、受験票に記載されている会場名を見せた。

「あーこれ、たぶんあっちの建物ですね」

警備員さんは道路の反対側の方向を指し示した。
改めて受験票をよく見てみると、私がグーグルマップで調べていたビル名と同じだが、なんと最後に数字がくっついてた。
完全なる!凡ミス!!

この時点で開始5分前を切っていた。

私たちは走った。ひたすら走った。
教えてもらったビルに到着すると、ちゃんと試験会場の部屋を示す案内板があった。

エレベーターに急いで乗り込んだ。ドアが閉まるのが遅くてイライラする。

「完全に遅刻ですね‥。何語受験ですか?」

はぁはぁと息を切らせながら、女の子に聞いた。

「英語です。まさか会場間違えるなんて。偶然お会いできてよかったです。」

同じく息を切らせながら彼女は答えた。
受験会場の部屋は英語とその他言語で分かれているようだった。

「お互いがんばりましょうね!」

初めて出会った、名前も知らない、きっとこの先もう会うことはないであろう私たちだが、ふんわり心の中で連帯感を抱きながら、別れを告げた。

***

試験の様子を思い出しながら、書いていたら、思いの外、長くなってしまったので、次回に続きます!笑







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