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大手もベンチャーも。いがみ合わない、企業選びの考え方

転職も含めた就職活動の場において、「大手かベンチャー、就職するならどちらが良いのか?」というテーマがよく語られています。
私は2016年の大学卒業後に人材系のベンチャー企業に、直近2020年5月に大手子会社*の電力会社に転職をしました。カルチャーやルールの全く異なる2社を経験しているわけですが、冒頭上げたように、さもどちらかが就職する上での正義のように敵対させて考えることは無意味だと感じています。
勿論、積み重ねた歴史や、1つの企業で働く社員の数が異なるので違いがあるのは当然なのですが、双方を直接比べてどっちが良いかと述べているのは、将棋とチェスを並べて、良し悪しを競わせているような行為ではないでしょうか。転職が一般化して雇用の流動性が上がってきた現在、せっかくなら「大手もベンチャーも」と、敵対させずしっかり比較する企業選びを考えてみたいと思います。

*現職は社員数500名程度なので、厳密には「大企業」と括るのはいささか雑とは思いますが、それでも感じるカルチャーや見える景色の違いから考えてみたいと思います

結局のところ、何が違うのか?

私は、大手とベンチャーの違いを考えるにあたって大きく2つの目線があると感じました。
1つ目はビジネスの時間軸短期の戦いか、長期の戦いかという違いです。
2つ目は主体となるもの個人が強いか、組織が強いかという違いです。
働き方や福利厚生などといった各論から入ってしまうよりも、それぞれの企業を取り巻くこれらの環境の違いから理解することが大切だと考えています。

もう少し詳細に説明します。

1.ビジネスの時間軸の違い(短期/長期)
そもそも営利活動を行う企業が見ている目線、時間軸の違いはベンチャーと大手の違いを理解する上では欠かせないポイントの一つです。これは転じて体力(資金力・労働力)の違いにも結びつく話でもありますが、ベンチャー企業が目指すのは足元の売上やポジションの確保。対して大手企業が目指すのは5~10年後、あるいはもっと先に、会社や業界全体をどこに牽引していくのかというスケールの違いがあります。勿論、ベンチャー企業でも将来を考えたり、大企業でも日々の業務や新規事業など足元に注力することもあると思いますが、全体の割合を考えればこの違いは必然的に現れることと思います。

2.主体となるものの違い(個人/組織)
これは会社や組織のトップのあり方も結構影響してくる話だと思っています。ベンチャーは創業から日も浅く、基本的には創業社長が舵を取っていることが多いことと思います。この時点で、組織よりは個人の意思決定で回っていることが大きな特徴ではないでしょうか。対して大手企業では、その歴史の長さもありますが、創業者が現在も経営を率いていることはほぼ有りえません。そのエッセンスを抽出して組織に仕組みとして残し、その仕組みが人々を動かしていることが基本戦略となっていることと思います。経営者も定期的に変わり、コア・コンピタンス(核となるもの)は残しつつ、経営手法は抜本的に変えていくということも少なく有りません。
また、属する社員の数もポイントの一つです。社員の顔と名前が誰でも一致する規模の組織と、1万人を超える社員がいて全員と個別に話すことに数年を費やす規模の組織では、全く取れる手法や考え方に違いが出てくるのは当然のことと理解できると思います。

具体的にどんな違いがあるのか

上記2つの違いに立ってみると、多くの方が語られる働き方やカルチャーの違いがより理解しやすくなることと思います。今回は、私自身の転職前後での変化を少しまとめてみます。

働き方
こちらはコロナショックで少し例外的な面もあるかもしれませんが、やはりベンチャー勤務時のほうが自由度は高かったですし、時代や社会のあり方に即して色々と試行錯誤がしやすい環境でした。副業をしている社員も多かったですし、その働き方や、ひいては生き方自体を尊重するようなカルチャーが有りました。これは主体となるものが明確に個人に強く振れているからと思いますし、この規模感を仕組みで縛ってもあまりメリットが生まれにくいことも一つあるでしょう。
対して大手企業においては、所属する人々の数も多く、中々1人1人と向き合うことが難しくなってきます。そうなると、そもそもルールで縛らざるを得ない部分も増え、組織の優位性が増していきます。加えてグローバルに事業を展開していて、世界規模で社員の働き方を考えるとなれば、ルールを作るだけでも骨が折れることが多いです。その場合、抜本的な改革を行うよりも、過去の慣習をなぞって少しずつアップデートを重ねていかざるを得ない部分もあるので、機動力に欠けることも今ならだいぶ肌感覚として理解ができました。(あとは勿論、変えることに対する抵抗がある方々も増えたりするので)

労働条件(給与、福利厚生、教育体制など)
こちらはベンチャーよりも大手企業のほうが充実している面の一つと思います。特に福利厚生の中でも、金銭報酬に該当するもの(住宅手当やレジャー支援など)は明確に充実具合に差が出てきます。私も今回の転職を通じて、ダイレクトにもらえる給与だけでなく、額面として現れにくい手当や教育支援などを通じて可処分所得が向上しました。なぜこの違いが出てくるかで考えてみると、単純な企業の資金力の違いも勿論ありますが、どのくらいの時間軸で組織に属してほしいかという目線の違いも一つのポイントでしょう。

これは年功序列の給与体系や、退職金制度に一番現れるところではありますが、日系大手の企業では基本、長期的に企業に所属することにインセンティブ生まれるような人事制度になっています。給与に限らず、住居や教育、趣味の支援など、生活に近いところを支えられると中々それを捨てての意思決定が難しくなるため、インセンティブだけでなく絡みつくような制度設計もあったりします。裏を返せば、組織に属することによるメリットはかなり享受できるようになっているということです。

なぜこのような設計をするかで言えば、ビジネスにおける時間軸の違いが大きく影響してくるからです。その組織に長く属して、中長期での貢献を期待しているからこそ、その人にとっても長い投資になる福利厚生や教育の充実を測ることができるわけです。
対して、ベンチャー企業においては勿論社員に長期勤続してほしいという思いは有りつつも、3年先に強固なポジションを確立するほうがよほど優先度の高い事柄になるでしょう。社員への還元も勿論ですが、ビジネスへの投資を充実させることが結果的に長期的に社員への還元につながることを見据えた資源配分ということもあり得るわけです。

いがみ合わない企業選びを

なんとなく書き出したものの、壮大なテーマで、とても1記事で語るには難しい内容でした‥ 要するに、性質の全く異なるゲームに臨んでいるのだから、単純比較ではなく良いとこ取りをしてキャリアを考える参考にできれば良いということが伝われば幸いです。
私はベンチャーから大手というキャリアを選択しましたが、大卒時に入社するときにはだいぶ大きな不安がありました。入社後も「企業に属していれば将来安泰だ」とはとても思えなかったので、とにかくがむしゃらに行動しましたし、結果として成長することができたと感じています。その中で、興味の関心が変わって違うゲームを見てみたいと言うことから今回の転職を決意しました。(ちなみにベンチャーに就職すれば成長できる、も誤りでしょうね。ただ、成長しないとやばいという危機感は常に隣りにあるので、お尻を叩かれたほうが伸びる方は成長しやすいのかもしれません)

ですから、入り口が逆であれば全く違うキャリアになったのだと思います。現に転職をしたことで、会社を動かしている・率いているのだという感覚はだいぶ薄れました。仕事をするにしても、私じゃなくても次の誰かも成果を出せるような進め方は常に期待をされていることになるので、「とりあえずやってみるか〜」という今までの進め方は中々できなくなりましたし、そもそも新しい物事を始めるのに経営の承認が(相対的にたくさん)必要となりました。はじめからこちらが当たり前の環境であれば、物事をnoteにまとめて発信しよう!なんて発想にそもそも至ってなかったかもと思います。
とはいえ、私は結果としてこれで良いなと思いますが、大手から始まるキャリアもとても魅力的だと感じています。やはり扱える予算や事業のスケールが大きいので、できる手段の多さにとても驚きますし、日々自分の視野が広がっていくことを感じています。また、組織の動かし方や仕事の仕方も全然違うので、学びなおしていることもたくさん有りますし、諸先輩方の仕事の進め方にも常に感心してばかりです。

やはり大切なのは自分がどんな仕事やキャリアをしたいのか、これに尽きるのだと思います。将棋とチェスを単純比較することはできませんが、両者のルールや思考法の違いを、それぞれのゲームに応用することはできるわけです。なんなら、羽生善治さんはどっちもすごく強いわけで、両方に共通するエッセンスを磨くという考え方もあるわけです。いがみ合わず、その盤上を行ったり来たりできるキャリアのあり方を考えてもらう一助になっていたらうれしいです。

余談:ベンチャー→大手の転職はできるのか?

結論から言えば可能だと思っています。ただし、ベンチャー→大手に比べて総じてポジション数は少なく、希望者が増えるので難易度は若干高いと感じています。

特に私はTwitterを中心に情報収集をしているため、そもそものインプットが偏っているとは思うのですが、「大手→ベンチャー」の転職エピソードのほうが「ベンチャー→大手」よりも圧倒的に高い割合で語られているように思います。また、私が学生だったときも「大手→ベンチャーの転職はできるけれど逆は難しい。だから、ファーストキャリアは大手を選ぶほうが無難」という話も聞いたりしました。

ただ、今回転職活動をしたとき、普通に大手企業の求人をたくさん目にすることができました。私は人事職でしたが、担当職〜課長クラスの求人は結構あるもんだなと考えを改めることができました。
しかし一方で、第二新卒(未経験歓迎)系の求人はほとんどないですし、上記のポジションについても相応に高いレベルが求められていると感じました。おそらく、未経験で人がほしいなら、定期的に入社する新卒や若手をローテーションさせたほうが話が早いからです。社内では充足しにくいポジションやスキルをタイムリーに調達できるのが中途採用の大きな目的ですので、求められる要件が厳しくなることは必然とも言えます。(加えてネームバリューがあって応募が殺到するのでそもそも競争率高いです)


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