「保育園こども食堂」事業への挑戦(事例2)──写真で知ろう!小規模保育【チャレンジ編】
保育施設がこども食堂の拠点となったり、宅食やフードパントリーを行ったりすることで、孤独や困難を抱える家庭と保育者がつながり、さまざまな相談や支援に結びつくことが期待される『保育園×食支援』事業。こども家庭庁の助成のもと、2023年7月から2024年1月まで、全国で試験的な取り組みが行われました。
【保育園事業者向け】保育園こども食堂等を起点とした食支援事業実施団体向け助成事業ご説明資料
今回は、認可小規模保育施設アクシアキッズ園(愛知県名古屋市)を運営する、一般社団法人アップビートインターナショナルスクールが行った、地域の医療機関と連携したチャレンジをご紹介します。
「テイクアウト&パントリー」型支援
アップビートインターナショナルスクールでは、2023年10月から翌年1月まで、4回に渡ってお弁当の配布(テイクアウト型こども食堂)とフードパントリーを実施しました。
テイクアウトは喫食可能時間を考慮し、地域の飲食店に毎回110食を依頼。助成の範囲内である1食500円の予算で、玄米を使ったやさしい味のおにぎりのセットに、可愛らしいお麩も入った味噌玉(お湯をかけるだけで味噌汁になるもの)など、見た目にも華やかなお弁当を用意してもらいました。
料金は子どもはすべて無料、大人はお代として100円だけいただく設定に。集まったお金をユニセフに寄付する仕組みにしました。
一方のフードパントリーは、毎回50世帯を対象に、食料品や生活必需品を紙袋いっぱいに詰めて配布。特に食料品では、手軽に食べられるレトルトのごはん、スープなどを中心に、子どもたちが喜びそうなお菓子もセレクトしました。こちらは世帯あたり一律300円をいただき、同じく寄付として使わせていただきました。
今回の取り組みで特徴的だったのは、地域の総合病院や小児病院と連携したことです。それぞれの社会福祉部門と連携し、支援の必要な入院児童、通院児童のいる世帯をメインに配布しながら、同時に育児と仕事の両立に苦労されている病院関係者にも対象を広げていきました。結果、「医療」をキーワードに、幅広い子ども世帯への支援につながりました。
医療機関とチームを組んでのアプローチ
病院との連携のきっかけは、初回、自園の関係者を中心にこども食堂事業の案内をするなかで、スタッフから「身内に医療者がいて、その病院内でも支援活動をしてもらえないか」と声が上がったことです。こども家庭庁の助成対象は保育事業者だったので、私たちから複数の医療機関に制度内容、連携方法、具体的な支援のノウハウなどをご説明したところ、「子どものためなら!」とご快諾いただけました。その後の活動では、一緒にチームを組んで広報や配布を進めていきました。
とはいえ、連携を快諾してくださった施設の中には、民間病院もあれば県が運営する医療センターもあり、それぞれ患者さんやご家族との関わり方が異なっています。病院ごとの方針にあわせ、一つひとつオーダーメイドで私たちの関わり方も調整しながら、対面した保護者から実際に育児相談を受けた場合など、具体的な応対方法の打ち合わせを進めました。
配布当日、医療機関のスタッフさんと私たちが一緒になって、事前にフォームから申し込みいただいていた方々にお弁当や食料品をお渡ししました。お子さんの入院や通院で多忙な保護者に「手軽に食べられるものがあると、家事の負担が減るからうれしい」と喜んでいただいたり、病気や障害のある子ども自身が「やった!お菓子だ!」と喜ぶ姿も見られたりと、貴重な声をたくさん受け取ることができました。
一方、準備を進めるなかでは、子育てをしながらフルタイムで忙しく働くドクターやナース、ケースワーカーなどその病院で働く医療関係者にも、支援の手が必要であることに気づきました。「私たちも対象になるのでしょうか?」と率直に声をいただいたことから、患者さんのご家庭だけでなく、ケアスタッフの世帯にもお声がけをするようにし、多くのお申し込みと感謝もいただきました。
他領域に踏み出して、より多くの子育て家庭の手助けを
アップビートインターナショナルスクールは、小規模保育園のほか、国際的な教育プログラム「国際バカロレア教育(IB PYP)」を実践するスクール4校(企業主導型の枠組みでのプリスクールを含む)を運営しており、国際色豊かな環境で子どもたちが日々過ごしています。県内に3つしかない初等教育のプログラムに、魅力を感じる家庭の子どもたちが通う場所になっていました。
今回のテイクアウト&パントリーでは、日々の保育の中で見えづらかった家庭状況の方と出会う貴重な機会になりました。医療的ケアの必要な子どもたちや、生活にさまざまな困難を抱える保護者がいて、その方々にもできることがある。こうした視点を、組織として一つ持つことができたように捉えています。
また医療現場においては、保育的な観点から、私たちにできることがまだまだありそうだと感じました。
医療に従事する方々は、「幼い患者をどう治療するか」に特化した専門家ですが、そこから続いていく、「子どもが主体的に育つ環境」や「遊び」の工夫についてまでは専門ではありません。子ども目線でのお菓子選びや、受け渡しの場面の親子への声かけから、私たちの視点に発見を持ってくださる医療者も多く、異なる方向から“こどもまんなか”視点で手を差し伸べあう意義を改めて感じる機会になりました。
あるケースワーカーの責任者の方が「他の業界と連携することで、支援のメニューを広げるやり方もあるんですね」とおっしゃられていたのも印象的でした。今回のスキームを足がかりにして、業種を超えてより広く連携し、私たち保育者が子どもに寄り添える場を増やしていけたらと考えるようになりました。
余白のある制度を利用しながら、多様な形での支援を
こども家庭庁の『保育園×食支援』事業の助成では、それぞれの園での具体的な支援方法を、かなり自由に設定できるようになっています。助成の適用範囲を慎重に確認しながら、本当に支援が必要な世帯へ業界を超えてリーチしていく、これまでにないチャレンジができました。
もちろん、前例がないプロジェクトに対し、一から段取りしていく負担は少なくありませんでした。今回学んだことを生かしながら、より効率的な仕組みをつくりつつ、世の中で本当に困っている方々への支援を継続していきたいと考えています。
すでにいくつかの総合病院からもお声がけをいただいています。連携させていただいた医療施設からさらにその先の連携先の機関へと、よりネットワークを広げながら、多様な形で社会に貢献できる保育園になれたらと考えています。
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