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「一時預かり」の活用で、障害のある子もない子も“共に育つ”園に──写真で知ろう!小規模保育【園運営】

障害のあるIちゃんが園に来られるように、と考えた「一時預かり」制度の活用。子ども同士の育ち合い、Iちゃん自身の変化などを通じて、「障害のあるなしを超えて園に通える」ことの重要性を改めて感じています。

<おうち保育園こうとう台/宮城県仙台市>

【園児数】12人(週3回の一時預かりを利用するIちゃんを含む)
【保育者数】7人
(2023年1月時点)

■ ねらいと配慮

1歳児のIちゃんには障害があり、てんかん発作を起こしやすかったり、発達が緩やかだったりする特性があります。当園ではその事情も踏まえて、Iちゃんをお預かりできるよう準備を進めていましたが、制度上の問題などから、なかなか入園許可が降りない状態が続いていました。

しかし、園に入れなければ、Iちゃんの家庭以外の世界も広がりませんし、保護者も働きに行くことができません。そこで、正式入園ではないものの「一時預かり」の制度(障害児加算あり)で対応することを立案し、自治体と保護者とも相談のうえ、Iちゃんを週3日間お預かりできることになりました。

受け入れに当たっては、障害のある子どもの保育が初めてだったこともあり、保護者へのヒアリングを入念に行いました。家庭で日々気をつけていることを聞いたり、移動のときに必要なもの(安全ヘルメットなど)を準備したり、発作の見分け方(動画)と起こったときの対応を学んだり。一方で、保育園だけですべてを支えることはできないため、当初から地域の医療機関、療育の専門家、栄養士さんなど、それぞれの分野のスペシャリストとも積極的に情報交換を進めていきました

■ 振り返り

Iちゃんが通い始めたのは、ちょうど2歳になる5月。当初は仰向けに寝たままの体勢でいることも多くありましたが、Iちゃんの好きな音の鳴るおもちゃなどを通じたやり取りを繰り返し、少しずつ関係を築いていきました。保育士の姿が見えなくなると泣き声を出すなど、最初少なかった感情の表出がだんだん増え、腹ばいになって遊べる時間も増えていくと、呼びかけに応じて部屋の中をずり這いして来てくれたりするようになります。

すると、子どもたちは週3日しか来ないIちゃんを見るたび、「きょうはIちゃんがいる!」と喜んで駆け寄ってくるように。そして、保育士が何も言わなくても、Iちゃんと目線を合わせるようにどの子も腹ばいになって遊びはじめました。「仲良くなるすべを子どもはちゃんと知っていること」「一緒に過ごすなかで自然に“育ち合う”こと」を改めて教えられる出来事でした。

また、友達が周りに集まってくるようになると、Iちゃん自身に新しい変化も見られました。最初は「自分のところに来る子がいるな」程度の認識だったと思うのですが、その子たちが毎回顔をすごく近づけたり、頭をなでたりと関わってくれるうちに、友達の存在をはっきり意識しはじめます。

ついには、友達の体に自ら手を伸ばすようになったIちゃん。「あー」「うー」と声を出しながら関わろうとする姿に、友達と一緒に遊びたいIちゃんの気持ちの表れを感じました。集団での学びは集団でこそ生まれる、ということを再確認できた瞬間でした。

Iちゃんと過ごすなかで、職員にもさまざまな変化が生まれています。当初は不安も大きかったのですが、Iちゃんとの関係性が深まるにつれ、「より良い発達のためにできることはないか」と皆が積極的に学ぶようになりました。

触れ合い遊びなど、これまで日々行ってきた保育が「障害のある子どもの感覚統合療法にそのままつながっているんだ」と気づく機会も多く、園として確かな手応えを感じています。

■ 「小規模保育」としての視点

少人数の0〜2歳児が通う小規模保育園は、もともと多様な発達を示す子どもたちが一緒に生活をする場でもあります。「発達の度合いは全員違う」が前提なので、Iちゃんのような特性のある子が1人増えても、保育そのものを特に変える必要はありませんでした。いくつかの配慮を行いながらも、障害のある子どもとない子どもが当たり前のように過ごせる土壌があったことを感じています。

そもそも、保育園は障害と無縁でいられる場所ではありません。子どもがどんな発達をしていくのか、まだ見えづらい年齢から通うため、半年、1年と経つなかで「もしかしたらこういう特性があるかも」と気づくこともあるでしょう。そのとき、仮に障害があったからといって、「うちではやっぱり見られません」とは言いたくない。実際悩みながらも、どの保育士さんも目の前の子どものために、一生懸命関わろうとされるのではないでしょうか。

むしろそうした事態に備えて、日頃から地域の関係機関としっかり連携をし、障害のある子どもも通える園にしていくことが大切だと、今回Iちゃんの事例を通じて感じました。手厚い保育ができる小規模保育からこうした事例が増え、あらゆる家庭の子育てを皆で支え合える社会がつくれたら、と考えています。

【園情報】
おうち保育園こうとう台(特定非営利活動法人フローレンス)
https://mirai.florence.or.jp/ouchi/koutoudai/
宮城県仙台市青葉区上杉1-4-10 庄建上杉ビル1F
定員12名
小規模保育事業A型・管理者設置あり


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