映画「ONODA 一万夜を超えて」感想

本当にすごい映画でした。すごすぎて疲れた。単純に3時間あったせいもあるでしょうが。以下ネタバレを含みます。

アラリ監督の自己解釈なのでしょうが、この映画の小野田は29年ずっと終戦を知らなかった訳ではなく、途中から気付いていた。本当に知らなかったのは最初の5年くらいだけで、あとの24年間は薄々本当に戦争は終わったんだと気付きながらも信じたくなかった。優秀ゆえに思い付く最もらしい妄想で信じたくない情報から自分を守り、また最後に残った部下が純朴でバカで騙されてくれるから一緒に妄想の世界に浸った。妄想の熱に自分からのぼせて真実から目を逸した。
最後の部下が死んでからは、その熱も冷め完全に気付いてしまった。それでも今更引き返せなかった。説得力ある描写だと思います。

そういう30年の感情に上手い演出で共感させられ、視聴者も隔世の中で30年を過ごしたような感覚にさせられる。
凄まじい映像体験でした。

小野田は優秀な人なんだと思います。部下を騙し続けられるくらいにはカリスマで。そんな優秀な人が、30年戦争が続いていると思い込んで籠城し続けるという凄くもあり同時に無駄でしかないことに時間を費やし、老いてしまう。本来別のことに使えたかもしれないその才能は空虚な30年に消える。その悲哀もすごく感じられました。

また、30年の間に日本はすごく経済発展し、1974年に小野田を発見した冒険家の青年はとても綺麗な服を着て、鮮やかな色の機能的なリュックを身に着け、プラスチックのスプーンで小豆の缶詰を食べる。30年前の装備で暮らし続けた小野田の前で。その瞬間の、小野田に感情移入させられた視聴者への傷付けのようなものと言うか、凄まじい悲しみの感情に共感させられる。これも本当にすごい体験でした。

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