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研究者の本棚: 時間を忘れて、一気読みできる本

「読書に夢中になっていて、気づいたら数時間たっていた」という経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。このときに得られる多幸感は、他の娯楽では代替できないと思うことがある。
今回は、まさにそんな ”読み始めたら止まらない本” を、北里大学の野島先生に3冊お薦めしていただいた。

■ 野島 高彦 (のじま たかひこ)
北里大学 一般教育部 准教授。専門は生体高分子。
北里大学では、医療系向けの「化学」の講義を担当している。
ブログやXを活用し、講義情報の発信や、教育教材の提供を行っている。

著書に『はじめて学ぶ化学』『誰も教えてくれなかった実験ノートの書き方』(以上、化学同人)、『医療・看護系のための やさしく学べる化学』(裳華房)がある。

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1.ジェームス・D・ワトソン著『二重らせん』(講談社)

 DNAの分子構造の発見によりノーベル賞を受賞した、ワトソン博士による回想録。原著は1968年に出版され、ベストセラーとなった。当時のケンブリッジ大学の人間関係や、研究競争の様子が赤裸々に描かれる。

ジェームス・D・ワトソン『二重らせん』(講談社)

──この本はいつ読まれましたか? 読んだきっかけはありますか?

野島 大学2年か、3年のときに読みました。ワトソンの『二重らせん』という本があるんだよ、というのをどこかで聞いて、それがずーっと頭に残っていて。たまたま立ち寄った本屋で発見して、「あるじゃないか」と思って購入した記憶があります。

──先生は生体高分子を専門としていますが、本書が生化学の分野に進むきかっけに?

野島 きっかけはいろいろありましたが、その中の1つだったかもしれません。もともとDNAには興味があって、それもあって本書を読んだので。ただ、本書はとても強く印象に残りました。「将来、サイエンスをやるのも面白そうだ」と思った1つのきっかけではあったと思います。

──研究のノンフィクションは、臨場感があって面白いですよね。

野島 はい。当時、一気に読んでしまった記憶があります。学生にもお薦めしている一冊です。しかし年々、学生の文字数に対する障壁は高くなっているように感じます。今の学生が読み通すには、少し覚悟がいるかもしれません。

 本書は2012年にブルーバックスに入り、以前の本よりも文字が大きく、読みやすくなっている。巻末には、ワトソン博士が訪日した際に、訳者である中村桂子氏が聞いた貴重な内容も収録されているので、学生の方も是非。

2.佐藤健太郎著『世界史を変えた薬』(講談社現代新書)

 元 製薬企業研究者で、現在はサイエンスライターである佐藤健太郎氏の手になる一冊。化学を正確かつ分かり易く伝える佐藤氏の著書は、一般読者だけでなく研究者にもファンが多い。本書は、人類の歴史と切っても切り離せない「薬」に焦点を当て、薬が世界史を変えてきた様を紹介する。

佐藤健太郎『世界史を変えた薬』(講談社)

──佐藤さんの本は色々ありますが、先生の中ではこれが一番ですか?

野島 本当は、2010年に刊行されている『医薬品クライシス』が一番好きで、おすすめするならこちらなのですが、10年以上前の本なので、中身が少し古くなっているんですよね。

佐藤健太郎『医薬品クライシス』(新潮新書刊)

──『医薬品クライシス』はどんな内容ですか?

野島 医薬品の開発についての話です。どこがおすすめなのかというと、まず読んでいて文章のスピード感が良い。最後まであっという間に辿り着く。途中に図が一つしかなくて、だけれども読んでいる方は説明図なしで、イメージしながら読み進めることができる。
 その中で、医薬品を開発するのはどのくらい大変なのかという、具体的な数値が出てくる。開発できる国はこの国とこの国しかないとか──。

──それは面白そうですね。

野島 はい。それで学生にも紹介していたのですが、あるとき著者の佐藤さんに「当時と状況が変わってきていますか?」と伺ったら、やはり変わっているところがあるらしく、学生にお薦めするなら『世界史を変えた薬』の方が良いとのことで。『医薬品クライシス』は第2版が出ることはないそうで、2015年に刊行された『世界史を変えた薬』は、この改訂版の意味合いもあるようです。

──なるほど。『世界史を変えた薬』も、図はほとんど出てこないですよね。

野島 そうなんです。この本はこの本で、出てくるのは構造式のみ。その構造式もなくても読めちゃう。むしろ、化学系の人が「どんな分子なの?」と思った時のためだけに載せているという感じ。文系・理系を問わず読めるので、お薦めしやすいんですよね。こちらも文章のスピード感は健在で、製薬企業の研究者であった佐藤さんならではの本だと思います。

3.外山滋比古著『思考の整理学』(ちくま文庫)

 累計発行部数200万部を超えるベストセラー。“全国の大学生に1番読まれた本” というキャッチフレーズを見たことがある方も多いのではないだろうか。思考を整理するアイディアを伝授してくれる一冊。

外山滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫)

野島 この本は北里大学に赴任する直前に買ったので、そういう意味で思い入れがあります。

──北里大学で担当する講義のために読んだ感じですか?

野島 担当している科目の構成に役立っているのですが、たまたまネットで話題になっている本を書店で見つけたので買った、というのが本当のところです。
 現在は、スタディスキルやラーニングスキルを扱う授業の中で、この本のアイディアや言葉を紹介しています。たとえば、

「テーマはひとつでは多すぎる。すくなくとも、二つ、できれば、三つもって、スタートしてほしい」。

『思考の整理学』p.43

全体は部分の総和にあらず、ということばを思い出す。

『思考の整理学』p.49

とか。

──「テーマは一つなのに、多すぎるの?」ってなっちゃうやつですね。
この本の内容を実践していたりするのですか?

野島 本に書かれているそのままのスタイルでは実践していません。ノートの取り方なんかは、一時期似たやり方をしていた時期もあるのですが、やはりデジタル化前の時代の本なので。
 でも、古くはなっていないです。ノートの取り方とか情報の処理の仕方の、こういうタイプの本は色々出ているのですが、この本には考え方が出ている。それがなかなかないんですよね。

──それがロングセラーの理由でしょうね。先生は『誰も教えてくれなかった実験ノートの書き方』(化学同人)を書かれていますが、執筆中に『思考の整理学』を参考にしたりとかは?

野島 『思考の整理学』の影響は受けていると思います。執筆中にこの本をめくる、ということは全然なかったんですけど。
 この本の考え方が基礎となっていて、日常生活や自分の仕事に活かしているところはあると思います。

──先生はブログで講義情報を発信していたりと、SNSの活用が上手なイメージがあります。これも本書と関係していますか?

野島 あ~、あるかもしれませんね。書くことによって整理されるものがあるので。あとブログは自分のために記録しているという面があります。わりと繰り返しの物事も多いので。去年どんな感じだったとか、見返すためというのもあります。

──ありがとうございました!

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野島先生の『医療・看護系のための やさしく学べる化学』は、裳華房から好評発売中!











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