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「超強行旅行で得た事」

 行けなくなって1年、条件付きなら渡航可能にはなったのだが、一般的には隔離期間と費用を考えると難しい。例え行けたとしても閉鎖施設も多く自由に動けるとは考え憎い。タイは日本と違い即座に緊急事態に対応すべくルールを定め、違反者には厳しい罰則を命じる。

 2020年3月中旬、ロックダウンが迫るバンコク。押し寄せるコロナの猛威を、私はタイで直面する。

 *旅行者に対するヘイト?

 旅行の企画は正月明けに地元の観光業との懇親会で話し合い、2カ月先の3月中旬に渡航と決定した。その当時、日本(我々懇親会メンバー)におけるコロナの見方は「中国でエライ厄介なウイルスが出てるなぁ」程度で、今のような地球規模の大打撃になるとは思っていなかった。
 しかし時が経つにつれ、インバウンド産業の我々観光業に「中国からの入国禁止」や、それに伴い諸外国人の入国減のあおりを受ける。出発が近づく3月初旬にはいよいよ海外旅行は勿論、国内での県をまたぐ移動も自粛モードに陥った。とはいえ、日本国内には何ら制限などなく、行動は各々の判断で感染防止さえしていれば、今ほどの制限はなかった。
 渡航前に現地に住む知人にバンコクの現状はどうか?と連絡を時折とっていた矢先、渡航直近に良くない話が飛び込んだ。タイ人は「外国人が来てコロナをタイに蔓延させている」と言う話をしており、時にはタクシーの乗車拒否や飲食店への入店拒否の事例もあると。温厚で微笑ましいタイ人が本当にそんな事をするのだろうか?戸惑いつつ、我々は3月中旬に出発した。

 *セキュリティの差

 地元の駅前バスターミナルから福岡国際空港行き高速バスに乗るところから異変があった。乗客は私と知人の2名だけ。途中の数か所停車したが誰も乗ってこない。福岡空港国際線も同様、クネクネと人が並ぶチェックインカウンターなど何処にもなく、キョロキョロする我々にスタッフが「早くおいで」と手招きする有り様。搭乗率を聞くと「10%と少し」とのこと。片道¥一万円の切符であるにもかかわらず。

 その後の出国審査も楽々通過した。
 

 タイは違った。ドンムアン空港に到着して入国審査へ向かう前に「即席ルーム」のような一室に全員誘導され、額に検温機器を当てられ、手荷物も厳しくチェックされた。日本出国とタイ入国の差に愕然とし、コロナに対する危機意識を痛感する。我々は入国後の乗車拒否を気にしつつ、チャトチャックマーケットに向かう事にした。

 *閑古鳥

 タクシーの乗車拒否と外国人へのヘイトを恐れた我々は、恐る恐るモーチットまでバスに乗る。車内はほぼタイ人。愛想のないおばさん車掌が30バーツを徴収しにくる。何時も愛想がないのか?俺たちが気に入らないのか?入国して初めて接する一般のタイ人の態度は、この後の滞在においてとても重要で、場合によっては予定していたチャトチャックを中止してホテルへ直行しなければならない。我々はおばさん車掌を勝手に「何時も愛想がない人」だと信じて、チャトチャックへ向かった。
 


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 到着するや否や炎天下の中ビールの誘惑。「REO、chang、シンハー」の文字が我々のテンションを上げる。取り敢えずパラソルの下で乾杯!落ち着いて広大な市場を見渡すが・・・。人がいない。お店は開いていて音楽も聞こえる。普段なら観光客もファランもタイ人もゾロゾロと歩いており、屋根の下にある狭い通路も肩が当たる混雑。よく見るとタイ人だけしかいない状態だった。「観光客がいないとこんなに寂しいのか」と実感した。ここに来たのは私の友人がストーンを販売しており、ブレスレットやネックレスに使うストーンの買い付けが主な理由。ある程度の仕入れ単価も予習して来たとの事だったが、どの店も閑古鳥で値引く値引く。コロナで外国からのバイヤーや来なくなりタイ国内でも需要が下がってきていると言う。思わぬサプライズ価格に喜ぶ友人。大量に購入してサンペーンに直行する。
 BTSでも移動は可能であるが、チャトチャックには無数のタクシー、トゥクトゥクやバイタクも並んでいる。ここは乗車拒否確認だと思い、旅行者の鉄板であるトゥクトゥクに歩み寄る「サンペーンまでいくら?」。私の予想は500バーツぐらいから落ちて、良い運転手なら200バーツで決着だと推理したのだが、なんと開口一番100バーツ!あり得ない安さ。モーチットはバンコクでも北の方で、チャオプラヤ川近くのサンペーンまで距離もある。ストーンの店主もトゥクトゥクの運転手も顧客争奪に必死なのだ。

 *最高の土産話

 

パッタイ

 

 5日間滞在したが数か所のタラートや飲食店も同じで、行き交うのはタイ人オンリー。ファランが数人で日本人は全く見ない。そのさなか私と友人はホテル近くの食堂を見つけ、滞在中朝も夜もそこで晩酌する。気さくな女性店主は日ごと我々と仲良くなり、あれやこれやとお話した。ご両親が屋台で成功し、ご自身の代になり屋台から小さなテナントに店を移し24時間営業で頑張っておられる。お料理は殆ど一品50~70バーツ程度で美味い。炒め物揚げ物肉魚卵料理と何でもアリ。挙句に彼等の「まかないタイ料理」まで御馳走になった。この店主、悲壮感でうつむくバンコクの人々とは異なり、常に笑顔。客は何時もまばらで繁盛しているとは言い難い。何時もお会計の際少額のお釣りをチップに渡そうとするが受け取らないし、受け取っても翌日の朝食代として値引く。謙虚と言うか律儀なタイ人。こんなタイ人私は今まで見た事がない。
 最終日、「これから空港に」と最後の夕食時に今までのお礼の言葉を伝えた。「実は私たちもあなたと同じサービス業です。外国人を日々お迎えしております。あなたのおもてなしはとても勉強になりました。」と本心でお伝えしすると、心ある店主から有難いお言葉を頂いた。

 「私は毎日ここで変わらず働く普通の人間です。困っているから高くする。出す料理の量を減らす様な事はしたくないの。ここは何時誰が来てもカオマンガイは誰だって50バーツです。大臣が来ても50バーツ。あなたも50バーツ。同じお皿で同じスプーン。特別も普通もないの。客は客。」

 コロナで打撃を受け、これからも予想不可能の収入減が待ち構えている状況でこの言葉。彼女の謙虚さや律儀なところに強さが加わった。渡航前に聞いたネガティブな情報は、我々には関係ないの旅行となった。
 困っている人はタイにも日本にも沢山いるであろう。大切なのは腐らず焦らず、ブレない本心を持ち暮らすと言う事かも知れない。
 

 困っているから安くしたり高くしたりするのも理解したうえで、総じて言えるのは生き抜く能力や力強さにおいて、タイは日本を圧倒する。

 今回、非常識とも言われる時期に渡航して得た気持ちである。


 

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