小路口忍

短歌、書評など書きのつらゆき。 塔短歌会(23/1〜)

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歌集評『羽と風鈴』 嶋稟太郎 小路口忍  本のカバーを外して広げてみる。格子状の窓枠が左上から右下へ角度をつけ、その奥に枝葉の疎らな木が透けて見える。それとは別に左下から右上へと角度をつけた窓枠も多重露光のように重ねられ、パースペクティブは裏表紙の折返しまで続いていく。青色を基調としながらも、光源を感じられる左側は若草色で始まり右へ行くにつれ階調を変化させていく。書店でこの歌集を手にし、ページを捲りながら何首か読んだ後棚に戻した。いくつかの本を手にしては戻すということを繰り

    • 小さな物語に流れる大きな時間

      『百年と一日』 柴崎友香 例えば死んだ祖父のことを人に伝える時、どのように語るだろうか。どこで生まれ育ち、職業は何をしたか、そしてそれに付随するエピソードをいくつか散りばめるのではないか。人でも土地でもとにかく今この場所から遠くのことを僕たちは「要約」して誰かと共有する。当たり前なことであるが、本人にとって重要なことが語られずも、時間と場所を超え見知らぬ誰かに自分のことが簡略化され伝えられてゆく。 『百年と一日』は三十三の掌編集で、物語の冒頭それぞれに、あらすじのような、

      • 金沢クロニクル30首

        2020年、パンデミックとともに単身赴任で赴いた金沢の街。 内示出る二時間前の写真には首だけ食べたうさぎのケーキ 二回目の単身赴任は手際よく翌日家を決めてカニ丼 昨年の家族旅行で行ったとこ住んで働くことになとは 娘談「ライブあるから泊まらせて」利己的な遺伝子だけ遺伝 自撮りした同じ場所にて夏と雪コントラストを家族ラインへ そこにいるあなたの意味が分からない在宅勤務とまどいの妻 後輩はいいとこですね、いきますよ!誰も知らないその後の世界 地方都市知らずに生きて五

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