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小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.21

 次のステージは8日後、市民会館で開催される「3年生を送る会」だった。
 全校生徒合わせると1,300人以上、受験や病気等で欠席する生徒がいたとしても1,200人以上の観客はいるだろう。しかも市民会館の大ホール。この会のためだけに演奏するモッズの曲を中心に、気合いを入れて練習した。
 2年8組の仲間も「3年生を送る会」でうちのバンドを盛り上げるために準備をしてくれていた。
「オマエらが出てきたら、みんなでノイズコールをして盛り上げるけん。…で、演奏が始まった瞬間に、クラッカーと紙テープの嵐やね…」
「おう、でも危ないけん、ちゃんと紙テープの芯は抜いとけよ」
 教室の用具入れに準備された大量の紙テープをボクらに見せて、当日の段取りを得意げな様子で説明してくれたタクヤに、ショウイチが注意した。
「まかせとかんね。みんなで最前列に行って盛り上げるばい!」

 …でもどこからかその情報が先生に漏れたらしい。
「“3年生を送る会”で舞台に紙テープが1本でも投げ込まれたら、途中でもバンドの演奏は中止させます!」
 ホームルームの時間に担任の先生から言われた。
 何か事件が起こるたびに「またあの2の8か!」と言われていた。しかも大騒動になった焚き火事件は記憶に新しい。その主犯がいるバンドである。先生に目をつけられるのは当然いえば当然だった。
「先生! クラスの友だちが、がんばって演奏をするのに、みんなで応援したら何でいけんとですか? がんばる友だちを応援するのが悪いち言うんですか?」
 クラス委員のヤナギくんが殊勝な面持ちで先生に訴えた。
「そうやん! アイツら3年生のためにすごい練習しよるのに…」
「だいたいアイツらが人のためにがんばるとか初めてなんやないん?」
「いつも不真面目なヤツらが、珍しくマジメにがんばりよるのに…」
「先生、一生懸命にがんばりよる友だちを応援したらいけんと?」
「アイツら、バンドしか褒められることがないのに…」
「何でも禁止すればいいんですか? 事なかれ主義やないですか?」
 他のクラスメイトも追従し、大騒ぎになった。ヤナギくんたちの応援はうれしかったけど、「オレらの評価はこんなに低かったのか…」と少々複雑だった。
「いや、応援するなとは言わん。友だちを応援するのは良いことや。でも紙テープはいかんち言いよると」
「じゃあ、紙テープを投げんかったら応援してもイイんですね」
「そうやの…。とにかく紙テープはいかん! 紙テープが目に当たってケガをしたとか事件があったやろうが」
「じゃあ、紙テープは投げません。でも卒業する3年生のためにも、コイツらのためにも、クラス一丸となって前に行って盛り上げますけど、それはイイですよね! 先生!」
 ヤナギくんの交渉で、紙テープはダメだけど、ステージの前まで行って応援することだけは渋々ながら先生が認めてくれた。

「ギター弾きになるなら、学校をやめろ!」
 1年生の時に、エレキギターを学校に持って行っただけで、この担任の先生からいきなり殴られたことがある。先生は、“エレキギターを弾く人は不良”といったイメージを持っている世代の人だった。
 それを考えれば、ずいぶんと妥協してくれたと思う。

「3年生を送る会」の前日に、提出するように言われていたセットリスト(演奏する曲順表)を持って職員室へ行った。
「“3年生を見送る会”なんだから、気持ち良く先輩たちを送り出せるように、くれぐれも問題を起こすなよ! よく考えた行動をしろよ!」
セットリストを手渡すと、先生から念を押された。
(くれぐれも問題を起こさない…、よく考えた行動…?) 
「ハイ! よく分かっています! みんなにも言っときます!」
 よく分からなかったけど、そう返事をした。
 セットリストの前半は、この会のために練習したモッズ・メドレーで「イントロダクション 〜 オール・ウェイ・ザ・パンクス」「がまんするんだ」「うるさい!」「ノー・リアクション」「ワン・モア・トライ」………。
「“がまんするんだ”とか“うるさい!”とか、それが曲名ね? 最近の若いもんの歌はわからんね…」
 先生はセットリストを見てため息をついた。


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