小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.11
週2回のスタジオ練習とその後の反省会は休みなく続けた。
11月の第2週にはセットリストを決め、それを通しで練習し始めた。
ダムドの「ラヴ・ソング〜マシンガン・エチケット」、クラッシュの「反アメリカ」、モッズの「うるさい!」。
ここでブレイク。MCは一切しないことにした。ライヴで軽快なトークなんかできないし、やらない。拍手は来るかどうかは分からないけど、客にはこびないし、頭も下げない。ついでにメンバー紹介もしない。なぜならボクらはパンクロックバンドだからだ。4人で話し合ってそう決めた。
後半は「プリティ・ヴェイカント」「ホワイト・ライオット」「カモン・エヴリバディ」「サブステチュード」「ロック・アラウンド・ザ・クロック」「ジョニー・B ・グッド」、そして最後に唯一のオリジナル曲「クラッシュ!」で最後まで突っ走る。
全11曲、時間を計ってみたら、だいたいこれで時間は20分弱。当日の持ち時間は、セッティング込みで30分以内と言われていた。
スタジオ練習の時間は1回1時間だったので、スタジオに入る前にチューニング等は済ませて、すぐに音を出せるようにした。時間になると急いでセッティングして、休憩なしで3セットの通し練習をした。楽器の片付けはロビーでやり、そのまま反省会に移行。
本番のライヴまであと1か月を切ってしまっていたけど、バンド名はまだ決めていなかった。ライヴハウスからバンド名を連絡するようにショウイチが言われたので、その話し合いを学校の昼休みにしていた。
「RCハウンド・ロッカーズはどうね?」
その様子を見ていた同級生のハタくんが提案してくれた。
「なかなかおもしろいやん…」と思ってメンバーの顔を見たところ、ゲンちゃんとショウイチは笑っていたが、セイジくんは顔をしかめていた。
「ふざけたらいけんよ! オレらはコミックバンドやないんよ! シリアスなんよ!」
セイジくんから一蹴されてしまった。
その後、4人でシリアスに健闘した結果、結局「シンプルなのが一番イイよね…」と言うことになりバンド名は「ノイズ」になった。ショウイチが最初に提案してきたバンド名だった。
「このバンド名でライヴハウスに連絡しとくばい」
自分の案で決まったのでショウイチは満足そうだった。
次の日、ライブハウスにバンド名を連絡したショウイチから博多に同じノイズというバンドがあるらしいと聞かされた。
「さすがに全く同じはマズいけん、スペルを“N・o・i・Z”に変えたばい。Zは大文字ね。なんかモッズみたいやろ? スペルが違ったら別のバンドちゃ。カッコ良かろ? それにオレらは北九やもん。博多んバンドは関係ないばい」
ショウイチは得意そうに笑った。
モッズ(The Mods)は結成された当初“The Mozz”と表記していたらしい。バンド名で単語のスペルを変えるのはよくあるし、ビートルズ(beetle→beatles)だってそうだ。「ノイズなんてバンドは日本全国だけでもたくさんあるだろうし、ライヴハウスがそれでイイと言うならイイや…」と納得した。
バンド名がノイズ(NoiZ)に決まった。
「ノルマは30枚やけん! 一人8枚売るのが目標やね」
バンド名を決めた翌日にショウイチが亜無亜危異のチケットを持ってきた。
「何なん? ノルマって?」
セイジくんが不審そうに尋ねた。
ショウイチの説明では、前座をやらせてもらうかわりに、ライヴハウスの店長とチケットを30枚売る約束していたとのことだった。チケットは1枚1,300円、30枚分で39,000円。
「売れんかったらどうなるん? 俺らが払わないけんと?」
「心配せんでもぜんぜん大丈夫ばい! 30枚くらいうちの学校のヤツらに売りつければよかろうもん! すぐに売れるっちゃ」
「全く…、ショウイチはそげな約束してきてから…」
セイジくんはあきれていた。
「最初にこんなん言ったら、セイジくんが一緒に演ってくれんと思ったんよ」
とショウイチが頭を掻いた。
まぁ、考えてみれば、初めてバンドを演る高校生を、無料でプロのステージに上げてくれるようなウマイ話があるはずはない。
早速、次の日からチケットを売り始めた。
「ロックが好きち言いよる2年生で、気の弱そうな順に声をかけていくばい。次は1年で、その次が3年…」
ショウイチが考えた販売戦略はシンプルだった。
「東京から小倉に伝説のバンドが来るばい!」
「お前、ロックが好きち言いよったよね。サインをもらっちゃるけん!」
ショウイチはサイン色紙をえさにチケットをさばこうとした。
「サインは欲しいけど、そんなたくさんサインしてもらえるかどうか分からんやん」
セイジくんがショウイチにささやく。
「セイジくんは心配性やね。一緒に演るやるんやけ、どうにかなるやろ」
声をかけた連中は確かにロックを聴いていると言っていた。でも彼らのロックは日本のバンドだとチューリップ、甲斐バンド矢沢永吉…、洋楽だとイーグルスやTOTO、あとはヴァン・ヘイレン、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン…、かなり無理があった。
それでもクラスメイトは協力的で「亜無亜危異は絶対に聴かんやろなぁ~?」と思うようなヤツでも買ってくれ、10枚くらいはさばけた。
1年生でロックが好きそうなヤツを見つけると、よく知らなくてもメンバーで取り囲んで声をかけた。
地元の友だちにも声をかけたし、スタジオに遊びに来ている女子高生にはゲンちゃんとボクでお願いをした。チケットが売れ残ると、借金を背負うことになるから必死だった。
チケットが20枚くらい売れて少し安心した頃、事件が起きた。
※亜無亜危異のライヴまであと22日
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