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小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.18

  1月1日(金)、5日(火)、22日(金)にライヴハウスの出演が決まった。
 正月のライヴは年越しイヴェントなので、何もしなくてもそれなりに人が集まるはずだが、5日と22日は自分たちを含めた3バンドのみが出演。どのバンドと一緒に演るかはまだ決まっていないけど、たぶん新しいバンドと組まされるとショウイチが言っていたので、自分たちでがんばってチケットをさばかない限り誰もやって来ない事態が想定された。
 幸いノルマはないらしいが、チケットは売らなければならない。チケット代は600円。これがライヴハウスでは最安値らしいが、高校生が友だちと集まってやるライヴ・イヴェントの相場は200円〜300円だったから、それと比べるとかなり高い。しかも平日で開演時間は午後7時。
 レコードを何枚も出している亜無亜危異ですら前売券が1,300円(当日券1,500円)だったことを考えると、バンドを始めてまだ4か月にもならないうちのバンドにそんな価値があるとは到底思えなかった。
 どうすればチケットを買ってもらえるだろうか?
 練習後のミーティングで、5日と22日のチケットはショウイチからメンバーに5枚ずつ手渡された。
(600円もするチケットをうちのバンドが20枚も売りきらんやろうな…)
「もう2の8のヤツらに買ってもらうのは無理やろうね…」
「そうやの…、一応訊いてみるけど、難しいやろうね…」
 ショウイチに訊くと、ショウイチはみんなの顔を見てこう答えた。うちの高校は黒崎や若松方面から通っている人が多くて、小倉の街まで来るのは大変だった。しかも平日で開演時間は午後7時。
「でもチケットを売らんと誰も来んのやけ、どうにか売らねいかんよね」
 セイジくんがボソっと言った。
「600円もするけね。やっぱお金を持っとるお嬢様系を狙わなけんのやないん?」「やっぱり西北と大正か?」
 ゲンちゃんの意見にショウイチが反応した。
「まずはイズミちゃんたちとかにお願いしてみようか?」
「オレも大正女学館のグループにもお願いしてみるばい」
 ボクが話すとゲンちゃんも続いた。
「じゃあ、マコトが西北女学院で、ゲンが大正女学館に営業をかけちゃり! セイジくんつながりで3年生に売ろうとしても受験で無理やろうし…、オレが2年と1年には訊いてみるばい。あとは地道に売るしかないやろ」

 友だちが来てくれるのも少しうれしいけど、やっぱり女の子に来て欲しかった。女の子が来るなら、それを目当てに友だちも来るようになると思った。
 スタジオで会えば話をするようになっていた女子グループには最初に声をかけて、チケットのお願いをした。
 ほぼ毎週末、スタジオ主催のイヴェントが行われていたので、スタッフのふりをして会場に潜りこみ、ライヴを来ていた女の子たちにも声をかけた。
「誰のファン? 柴田さん? うちの高校の先輩なんよ?」
「冷牟田さんもカッコ良いよね。今弾いてるベースは冷牟田さんから譲ってもらったんよ…」
「クラッシュ、好きなん? オレたちクラッシュの曲も演りよるよ…」
「この前、魚街のライヴハウスで亜無亜危異と一緒に演ったんやけど…」
「亜無亜危異のとき、来とった? どうやった? あんときは、モニターの返りが悪いでから、演りづらかったけん…」
「オレらもライヴを演るんやけど、今度来てくれん?」
「ぜんぜん怖くないけん! オレら明るいパンクバンドなんよ…」
 高額なチケットを買ってもらうためには、なりふり構っていられなかった。先輩バンドには申し訳ないが利用できるものは利用させてもらった。
 西北女学院のグループがファンだと教えてくれたバンドは、ヴォーカルが同学年だったで、客層や演っている曲が被っていたので効率が良かった。
 買ってくれた女の子がいるグループをスタジオやライヴ会場で見かけると、必ず声をかけるようにした。
 そんなことをしてもチケットはみんな合わせて10枚くらいしか売れなかった。



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