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〈詩〉ボールキャッチ

ボールが、放られる。
僕はそのボールを取ろうとして、わざと転ぶ。
公園の芝生の匂いがする。
眩しい日差しが差している。
ボールを放ったおばあちゃんが、笑っている。
わざと転ぶと、おばあちゃんは喜んで笑ってくれる。
それを知った僕は、多分3才か4才で、
おばあちゃんが放ったボールを取るふりをしては、笑いながら、何度もわざと転ぶ。
おばあちゃんは、その度に笑う。
この僕の最古の記憶は、
おばあちゃんの遺影を見るたびに、立ち現れる。

病に倒れると人間はすっかり子供のようになってしまうことを教えてくれたのは、おばあちゃんだった。
息を引き取った人間の姿を最初に教えてくれたのも、おばあちゃんだった。

放られたボールは、ミスなくキャッチする。
大人になってしまった僕は、いつも、そう努めている。
でもまた、おばあちゃんに会う時が来たら、
そしておばあちゃんが、ボールを放ってくれたなら、
僕は久々に、笑いながらゴロリと転ぶ。
そう決めている。

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