見出し画像

podcast みみ騒ぎに恋してる Season2 Ep,5 [二時間だけのバカンスfeat.椎名林檎 / 宇多田ヒカル]

この番組はSpotifyで視聴できるようになりました!

文字コンテンツとしてもお楽しみいただけるよう、上村翔平作の短編小説としてnoteに投稿していきます。
テーマとなる曲を聴きながら、お楽しみください。

引き続き、皆様に楽しんでいただけるように、色々と取り組んでいきたいと思います。ご意見ご感想、そして妄想リクエストは#ミミコイを付けてTwitterにPostしてください。



リツコは11月に迎える30歳の誕生日を目前に、人生の意義を考えていた。

幸せの定義とは?何か。

夫が仕事を一生懸命頑張って建てたマイホーム。
夫が仕事を一生懸命頑張って買った外車。

6歳を迎えた息子は来年私立の小学校への入学が決まっていた。

正午過ぎ、洗濯と掃除がひと段落し遅めの朝食を取る。

朝から流れっぱなしのワイドショー消し、パンを片手にFacebookを遡る。

そこには世間が認める幸せのカタチがいっぱいだった。

リツコも夫も息子も張り裂けそうなほどの笑顔。

なのに何故だろう。

笑顔の奥には生命を感じない。

そういえば、最近出かけてない。

誰よりも早く起き、朝食を作り、夫を見送り、息子を見送る。

夕方4時には帰ってくる息子を迎え、夕食を作り、夫を笑顔で迎える。

毎日が丁寧に制作された単調なビート。

こんなんじゃ心は踊らない。


クローゼットの奥で眠るドレス
履かれる日を待つハイヒール
物語の脇役になって大分月日が経つ


遡りすぎたFacebookには消し忘れた大学時代の元カレとの写真が1枚だけ残されていた。

思わず、タグ付けされた彼のアカウントに手が伸びる。

近況を眺める。

そこにはリツコが手にした幸せと鏡写のように同じような情景が映し出されていた。

『ふぅーん。よかったじゃん。』

誰目線かも分からない効果音が口から滑り出た。

無音の部屋に携帯のキーボードを押す音だけがポチポチと響いた。

『久しぶり!元気してる?みんなでまた集まりたいなー』

ほぼ一瞬の出来事で記憶もないままにリツコの指はメッセージ送信ボタンを押していた。

『ふぅーっ』

ため息と共にリツコの魂は上の空へと出かけた。

雲の上に点在するという妄想の扉が開く。

すぐに返事が来た。

『みんなじゃなくて2人っきりで会おうよ。久しぶりに。』

リツコはすぐに返事をした。

『いいよ。迎えに来て。』


忙しいからこそ たまに
息抜きしましょうよ いっそ派手に

朝昼晩とがんばる 私たちのエスケープ
思い立ったが吉日 今すぐに連れて行って
二時間だけのバカンス 渚の手前でランデブー
足りないくらいでいいんです
楽しみは少しずつ

妄想が行き過ぎたようだ。


お伽話の続きなんて誰も聞きたくない
優しい日常愛してるけれど
スリルが私を求める

返事は来ない。

そっとため息とありったけの安堵。

時計の針は午後1時を指していた。

彼のFacebookを遡る。

もしかして、という期待が浮上した。

しかし裏腹に、そこにリツコの姿はかけらもなかった。

当たり前だ。

それで良かったのだ。

ソファーに横になるリツコ。

開けっ放しの窓からは秋の風が心地いい。

今日は一年で一番気候のよき日だ。

リツコにとってこの時間だけが、しばし無音の自由時間だった。

すっぴんのまま、うたたね。

子供に還ったような寝顔でいびきをかいている。

家族の為にがんばる 君を盗んでドライヴ
全ては僕のせいです わがままにつき合って

夢の中で君と2人逃避行。

誰に迷惑をかけるわけじゃない。

果たしてこれは妄想か夢か。

現実と虚実の狭間を遊覧した。


二時間だけのバカンス いつもいいとこで終わる
欲張りは身を滅ぼす
教えてよ、次はいつ?

夢の中、思い出が少しずつ蘇る。
駄目だと分かっていても、今ここにある幸せを飲み干したかった。


ほら車飛ばして 一度きりの人生ですもの
砂の上で頭の奥が痺れるようなキスして
今日は授業サボって 二人きりで公園歩こう
もしかしたら一生忘れられない笑顔僕に向けて

ピンポーン!お母さんただいまー!

時計の針は午後四時。
よだれを垂らして眠っていた。
玄関に駆け出し、息子を迎え抱きしめた。

幸せ。

過去も今もぜーんぶ私の幸せ。

ゆっくりと日常へ帰るリツコ。


朝昼晩とがんばる 私たちのエスケープ
思い立ったが吉日 今すぐに参ります
二時間だけのバカンス 渚の手前でランデブー
足りないくらいでいいんです
楽しみは少しずつ

二時間だけのバカンスfeat.椎名林檎 / 宇多田ヒカル


いつもサポートありがとうございます。本作がお気に召しましたらサポートよろしくお願いいたします!次作も乞うご期待。