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『百姓』東北公開を前に

【東北公開を前に】

明日から東北3館(フォーラム山形、仙台チネ・ラヴィータ、フォーラム福島)での『百姓の百の声』の上映が、1週間行われる。

 各館でトークショーを行うが、そのゲストを少しずつ紹介したい。

【福島・大河原伸&多津子さん】

 僕がNHKを退職する直前の1992年 —— もう30年前のこと ―— 28歳のとき、NHK『新日本探訪』という番組で取材させてもらった家族だ。当時、僕自身がどう生きるか迷いに迷っていた時期で、大河原一家を取材して腹が決まり、NHKに退職願を出した。

 船引町で「ばっちゃんの時代の知恵にもとづく農業をやろう」と決断して、タバコ栽培から有機栽培へ転換して間もない頃の大河原伸&多津子さん、当時30代だった。農の知恵の奥深さに気づき、ばっちゃんから学びながら、試行錯誤を続けていた。また農のもつ楽しさを子どもたちに伝えたいと、劇団「赤いトマト」として、冬の農閑期にふたりで各地をまわっていた。

 先人の知恵に学びつつ、未来の世代につないでいくという姿勢に共感して取材を申し込んが、最初は断られた。「今までテレビの取材でとりあげられて、あまり良い思いをしたことがなかった、中途半端な感じなものばかりだった」と言われたと思う。とぼとぼと船引駅まで戻りながら、「でも、どうしても取材したい、大河原さんたちから学びたい」と思った僕は、駅から大河原さんの住む集落へと引き返し、再度お願いをした。しぶしぶだったけど、取材を受け入れてもらった。

 1~2週間後、カメラマンたちとともに船引町に戻り、およそ10日間ほど撮影させてもらう。構成台本などは何も準備せず(当時のテレビ番組では珍しいこと)、丹念に日々を見つめ、丁寧にインタビューをすることを心がけた。インタビューを延々と何時間も行ったので、スタッフから「ふつうディレクターは質問項目を紙に書いて要領よくやるものだ」と言われたが、「質問をする中でさらに疑問がわいてくるものなので、事前に決めた項目だけをインタビューするものではない」と、このスタイルを受け入れてもらった。やさしいスタッフに恵まれた。

 できあがった番組そのものは、いま観ると拙いし、今なら絶対にやらない構成もしている。でも大河原家で過ごした10日間は、僕にとってはのびのび過ごせた貴重な時間だった。

 そして番組完成後にすぐNHKに退職願を出し、その足で、民族文化映像研究所の姫田忠義さんのもとに向かい、「ここで働かせてください」とお願いをした。小泉修吉事務局長から「NHKにいた方がいいよ」と諭されたが「辞表を出してきました」と伝えたら、「仕方ないな、じゃ、見習いということで」と受け入れてもらった。

 民映研(民族文化映像研究所)と当時のNHK番組の最大の違いは:

 NHKでは、視聴者に受け入れられるわかりやすい構成(ストーリーテリング)に落とし込むのに対し、民映研では、対象そのものが持っている意味(広義の物語)をひたすら浮かび上がらせようと記録する。

 NHKでは撮影前に構成の吟味をプロデューサーとともに行うが、民映研ではひたすら現場で考える。

 どうしてこうなるかというと、NHKの場合は制作日数が限られているので、効率的に番組制作をするためには撮影前にある程度の出来高のメドを立てておく必要があるからだ。

 一方、民映研は、効率性は重視しない。「飯を食う金をけずってフィルム代にまわせ、宿泊はタダでできるように取材先にお願いをしろ」、つまり撮影日数を確保するために、他を徹底的に切り詰める。さらに「観てもらう」ということもあまり重視していなかった。もちろん、観てもらいたいのだが、上映にエネルギーを使うよりは、次の記録撮影にエネルギーを割く選択をしたいた。

 僕自身は、子供が産まれたことを契機に独立してフリーランスになり、その後、小さな映像制作会社を作った。今は、NHK、民映研、さらには海外の映像制作プロダクションなど、それぞれで学んだ良いところを生かしながら、細々と映像制作の営みを続けている。

 ところで、NHK退職後はほとんど連絡を取らなかった大河原さん一家。大河原夫妻と再会したのは、土井敏邦監督『福島は語る』がきっかけだった。伸さん多津子さんが『福島は語る』に出演していた。「あっ」と思った僕は、すぐに大河原さんのもとを訪ねた。30年ぶりの再会だった。「あのとき、できのわるい弟のように思っていた柴田君が!」という多津子さん(笑)。伸さんと、つもる話を何時間も続けた。

 伸さんはまだ『百姓の百の声』を観ていないが、僕がNHKラジオ深夜便で話をしたのを聴いて、こんな期待のメッセージを寄せてくれた。

 「有機か慣行農業か・・・私も昔は有機農業であるべきと考え、耕してきました。しかし今はそんなことで言い争っている場合ではなく、今続けている人をいくらかでも長く、新しく農業を始める人を一人でも多く増やす努力をしなければならないと思います。

 それは、農民の努力だけではどうにもなりません。消費者の理解や協力が必要です。」

 フォーラム福島では、伸さんのこの言葉の意味をもっと深めていきたい。

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東北3館の上映情報

◆2月3日(金)~9日(木)まで
 上映時間詳細は

 https://www.100sho.info/#theater

 1週間毎日上映しています!

【トークショー情報】

◇仙台、チネ・ラヴィータ 
 2月5日(日)10時からの上映回の後
 ゲスト:堀米薫さん、三浦隆弘さん(プラス僕)

◇フォーラム山形
 2月4日(土)14時からの上映回の後
 ゲスト:高橋博さん、古田晋さん、渡辺裕太さん(プラス僕)

◇フォーラム福島
 2月4日(土)10時からの上映回の後
 ゲスト:薄井勝利さん&勝史さん、大河原伸さん&多津子さん(プラス僕)


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