「恩田陸Spring」 モノを作る人は全員読んだ方いい。一日一楽【3月23日】
chatGPTの登場でもはや人間だけが出来ることは少なくなった。もはや人間に出来ることは「楽しむ」ことだけだ。だから一日一楽。一日であった楽しいことを書いていく。
恩田陸との出会いは中学生の頃。当時、深夜ラジオにどっぷりハマっていた。今もなお続いている「爆笑問題カウボーイ」。読書家で知られる太田さんが読んだ本を紹介する「太田はこれを読んだ」という企画があった。
鬱屈した中学時代を過ごしていた私にとってラジオは救いだったし、太田さんの知性に触れられる格好のチャンスだ。そこで一番初めに紹介されたのが「ドミノ」だった。
ドミノ (角川文庫) https://amzn.asia/d/b20h4AW
夜のピクニック、六番目の小夜子、ユージニア…そして近年では本屋大賞も受賞した蜜蜂と遠雷など。単行本化された本はほぼ読んでいるんじゃないかな。
余談だが、少年時代から齢40歳までずっとファンで居続けたのは恩田陸と宇多田ヒカル、ヤクルトスワローズくらいだ。
恩田陸さんの新著「Spring」
今回の題材はバレエ。
ある1人の天才ダンサーであり振り付け士(今作の主人公である萬春)と彼を取り巻く人々の物語。1章ずつ語り手が分かれ、萬春について語りながら物語が進んでいく。
あらすじを最初見た感想は「蜜蜂と遠雷」とバレエ版かな?と思った。
恩田さんの作品には主に2つの系統がある。(個人的な意見だが)
「蜜蜂と遠雷」や「夜のピクニック」などの青春群像劇系
「ユージニア」や「蛇行する川のほとり」などのミステリー系
今作は青春群像劇系に分類される。
が、その実は群像劇ではなく、
「モノを作る」ということはどういうことかを真正面から描く、ある種の哲学書のようだ。
「舞台の上で役者やダンサーは、観客の代わりに『生きてくれている』」
これは物語の一文である。
今作はバレエダンサーの物語だが、モノを作る人間の葛藤と迷い。ぶつかりが生なましく描かれている。私も曲がりなりにも文章を書いたりモノを作って生計を立てている時期があった。初めはただ楽しいだけだったが、そのうち強く考えさせられることがあった。顧客と自分の関係性である。
マーケッター的にいえばペルソナというのだろうか。YouTuberなら登録者かな?小説なら読者。
誰に、どのような意図、なぜこの作品・商品を届けたいのか。
上記の抜粋文は作中である人物が放った言葉である。舞台で華麗に舞う。自分の代わりに。これがこの人物にとっての「作品」と「受け手」の関係性なんだろう。
作品は受け手にとっての代理である。物語の設定上で「もし自分がいたら」。誰でも漫画やアニメの主人公になり変わった自分を妄想したことがあるだろう。それと同じだ。作品との関係を「代理」として定義し直す。
この類の話で、
「自分は何を作りたいのか。何ができるのか」
と
「ターゲットは誰か。どんな層なのか」
が議論される。
しかし、問題はそこにはなく。両者の関係性なんだ。
※ちなみに、上記は主人公の言葉ではない。主人公やその他人物が作品とどう向き合っているかはぜひ本書をお読みいただきたい。
もう一発、余談だが作品と受け手の関係を「代理」と定義するとAIの創作物への見方も変わる。AIは過去の作品をコピーし模倣する。あくまで、作品しか見ないのだ。また、市場調査をしてターゲットを炙り出すこともできる。しかし、関係性までは学ぶことはできない。「なんか読んだら気持ちよくなる言葉」を吐くことはできても、関係を構築する作品を紡ぐことは、少なくても当面の間は、難しいんじゃないかな。
もちろん青春群像系的な要素も多分に含まれているが、「蜜蜂と遠雷」に比べて登場人物たちが自問自答をするシーンが非常に多い。
自分にとってバレエとは何か。踊りとは何か。
趣味でも仕事でも。ただ単にnoteを趣味で書いているというでも良い。何か少しでもモノを作って発信している人には読んでほしい。
ただ、一応。
バレエの固有名詞が多く出てきたり、上記したように分かりやすい青春群像劇ではないため、読みやすい作品かというとそうでもない。難解な小説では決してないが本を読み慣れていない人にはややハードルが高いかも。ページ数も400以上あるしね。
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