ボランティアと「ソーヤー効果」

先日読んだ本の中で興味を引かれたのが、タイトルにもある「ソーヤー効果」。「トム・ソーヤーの冒険」のエピソードに由来する心理現象ですが、これを知った時に以前から心に引っかかっていた有償ボランティアに関する問題と結びついたので、まとめておきます。

目次
1.ソーヤー効果とは
2.ソーヤー効果のダークサイド
3.ボランティアへの報酬

1.ソーヤー効果とは

「ソーヤー効果」は「トム・ソーヤーの冒険」の下記のエピソードから生まれました。

ある日、トムがおばさんから壁のペンキ塗りを頼まれました。最初、トムは嫌々ペンキ塗りをしていたのですが、友達が通りがかった時にそれがさも楽しく素晴らしいことをやっているように振る舞ったのです。それを見た友達は「ぜひ自分にもペンキ塗りをやらせてほしい」とトムに懇願し、ペンキ塗りをさせてもらえるならとおもちゃや食べ物等の対価も差し出しました。結果として、トムはペンキ塗りをやらなくてもよくなった上に、友達から対価まで得たのです。

このトムの行動によってペンキ塗りが、”しなくてはならない”仕事というものから"しなくてもいいのにする"遊びへと変わっています。このように、動機づけによって、ある行動が仕事にも遊びにも変わることを「ソーヤー効果」といいます。

2.ソーヤー効果のダークサイド

「ソーヤー効果」には二面性があり、トム・ソーヤーのように「仕事が遊びに変わる」のではなく「遊びが仕事へと変わる」こともあります。動機づけの推移について書かれた「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」では「報酬が与えられることによって、遊びが仕事へと変わる」ことを指摘しています。(以下、引用)

報酬は行動に対して奇妙な作用を及ぼすのだ。興味深い仕事を、決まりきった退屈な仕事に変えてしまう。遊びを仕事に変えてしまう場合もある。よって、報酬によって内発的動機づけが下がると、成果や創造性や、高潔なふるまいでさえも、まるでドミノ倒しのようになるおそれがある。

本書で紹介されているのは、献血の例。献血するグループを3つに分け、1つ目のグループには献血は任意で献血しても無償だと伝え、2つ目のグループには献血したものには謝礼金(約7ドル)が支払われると伝え、3つ目のグループには謝礼金(約7ドル)は支払われるがそれはそのまま全額小児がんの慈善事業に寄付されると伝えられました。結果として、1つ目のグループと3つ目のグループは、約半数の人が献血をしましたが、2つ目の報酬が支払われるグループは3割の人しか献血しませんでした。この現象を本書では「金銭的報酬が利他的な行動を抑え、善行を積みたいという自発的な欲求を阻んだ」と結論づけています。

3.ボランティアへの報酬

これはそっくりそのまま、ボランティアにも当てはまると思います。ボランティアをしている人たちはまさに「良いことをしている自分」ということが報酬になるのであって、それを「金目的でやっている」とは思われたくないんです。ボランティアとは自発的に取り組むもの、自分の内部から湧き上がる動機によって行うものであって、報酬といった外的な動機づけによって行われるものではないと思います。「有償ボランティア」という言葉がありますが、これに「ボランティア」という言葉がつくとすごく違和感があります。本書でも触れられていますが、報酬が支払われるということは「その仕事はつまらない・好ましくないというメッセージを送っていること」と同じ意味。その仕事が楽しいものであれば報酬を支払うことはなく人は集まってくるからです。「有償ボランティア」というのも、「ボランティアを集めたいんだけど全然集まらないから報酬を出せば誰かやってくれるだろう」という短絡的な考えからきているものも多分にあるのではないのかと思います。これだとアルバイトと何が違うのか分かりません。もし人を集めたいのなら、考えるべきは報酬を与えるという安易なものではなく、人の内発的動機(良いことをしているという自己肯定感や成長欲求など)をくすぐる対価を示すことだと思います。