#32薬剤師の南 第6話-6 青い宇宙 Ⅰ(小説)

 仕事を全て終え玄関まで移動すると、見送りに来たお母様と三人で現在の美海ちゃんについての話をすることになった。

「すいません、お聞きしたいことがあって、先ほど高江洲さんがお帰りになる前に美海ちゃんが――」
 と話を切り出したのは當真さん。美海ちゃんに会話が聞こえない場所で話を聞こうとしたのだろう。

 お母様の話では、美海ちゃんの言うように彼女を受け入れることができる高校が県内にないわけではないが、どの学校もこの自宅からは遠く、本人の通学の負担を考えれば高校の近所に引っ越さなければならない。しかし、

「小さいころから今までのかなりの時間をこの家の中で過ごして、家の外にも居場所が作れない――本人が一番辛いというのはわかっていますが、私ももう相当参ってしまっていて、これから先も一人で面倒を見きれる自信がないんです。親戚もあちこちに散らばっているので頼るに頼れなくて……」

 それゆえお母様が考えている最善の解決法は、東京に単身赴任をしている美海ちゃんの父親のもとで三人で暮らすという方法。東京であれば美海ちゃんの受け入れが可能な高校の数も増え、電車での通学も距離次第ではできなくはないという。そのためお母様は最初からこの提案を通すために美海ちゃんに「県内で受け入れができる学校はない」と言ってしまったということだ。

「こちらのせいで、お二人に失礼があって申し訳ありません」

 そう言って力なく頭を下げるお母様は、私の眼には本当に痛々しく映っていた。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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