#30薬剤師の南 第6話-4 青い宇宙 Ⅰ(小説)

 美海ちゃんは人差し指で自分の鼻カニューラを叩き、
「県内の高校で、こんなのを付けてる人間を面倒見れるところが無いから、東京行ってお父さんと一緒に暮らせって、お母さんが最近言い出したの。一年以上あるけど、今から準備しないと間に合わなくなるかもしれないって」

 ということは、彼女は現在中学二年、高校進学のことで揉めているという状況か。

「お父さんは今、東京で働いてるんだっけ?」

「そう。でも、県内で全く無いわけないでしょ? 他の私みたいな子、どうやって生活してるっていうの? みんな東京行ってるわけないんだからさ」

「そっか、ごめんね、そういうことがあったのを知らなくて。美海ちゃんにそういう話をするために、この依吹さんを連れてきたわけじゃないんだ。それで、美海ちゃんは今、どうしたいと思ってるのかな?」

「高校は県内。東京なんて行ったらこれを笑う子が増えるだけ」
 再び美海ちゃんは鼻カニューラを一層強く叩いた。

「それに空気が汚い。息できなくなったら死んじゃう」

 東京でも鼻カニューラを使用している人は大勢いる。そんなことは起こり得ないはずなのだが、彼女の場合はそういう問題ではないのだろう。

「朋夜ちゃんわかる? 付けたくもないのにこんなの付けて周りの子に笑われる気持ち?」

 美海ちゃんは平手で机を叩く。プリントの上に乗せていた彼女のスマホが地面に勢いよく転がり、私の足元に落ちた。私はそれを拾う。

 だが、その画面に映っていたもの――異様としか言えないそれに私は一瞬怯んだ。

「拾うくらい自分でできます」

 彼女は怒りのままスマホを受け取った。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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