見出し画像

第5回 INSEADではイノベーションはどのように教えているのか?(その2)

第4回の投稿でイノベーションの授業での学びを綴っていたのですが、想像以上に長くなってしまいましたので、2回に分けることにしました。これでもだいぶ省略しています。すべての学びを書ききれていないです。とても大きな学びを自分が得ているということに気が付きます。

私の投稿を読んでくださっている方も少ないですから、この投稿は事実上、自分の学びの記録、自分で読み返すための情報、という意味が強いと思います。

例によって、今回も先に結論からお伝えします。この先を知りたい方は、この先をお読みください。Nathan Furr教授は3つの視点を提唱します。これはとても分かりやすいです。①イノベーションを起こす人の行動、②イノベーションを起こすためのプロセスには、どのように進めていくべきか、③イノベーションを起こしやすい組織はどんな組織で、そのためにリーダーは何をすべきなのか、について説明します。

イノベーションを起こす人の行動

まずイノベーションを起こす人は、とにかくアクションが速い、スピードがとにかく速いです。

人類で最初に飛行機を発明したのはライト兄弟です。実は同時期にサミュエルラングレーというかたも飛行機の開発を進めていました。この両者は非常に対照的でした。ラングレーにはヒト・モノ・カネのすべてが揃っていました。一方、ライト兄弟は学歴もない、お金もない、人脈もないところから始まります。これについてはとても有名な話なので色んなところで情報が見つかると思います。この両者は行動が非常に対照的でした。

ラングレー:通算で2回のトライアル
ライト兄弟:毎日5回!!のトライアル

精緻な計画よりも、小さく、高回転で実験を繰り返すことの重要さが分かると思います。Nathan Furr教授もMVP(Minimum Viable Product)を作って、それを顧客にテストしてもらうこと、そしてそれを高速でさらに改良し、テストを繰り返すことの大切さを説明しています。PDCA(Plan, Do,Check,Action)の大切さを聞きますが、イノベーションにおいては、Do-Do-Do-Doというのも聞きます。私も成功している人とそうでない人の1番の差は、行動量の差であり、能力の差ではない、と感じています。

イノベーションを起こすためのプロセス

ここで教授が100回くらい用いた表現が「Job to be done」です。日本語にすれば、「解くべき課題は何か?」です。この言葉は最後の授業まで何度も強調されています。結局のところここがポイントだと思います。

“Any big problem is a big opportunity.”
“No problem, no opportunity, no business. It’s simple.
No one will pay you to solve a non-problem.”

同じように、山口周さんからの著書です。『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』を著した際に、イノベーターとして高く評価されている人々にインタビューを行いましたが、これらのインタビューを通じてわかったのは「そもそもイノベーションを起こそうとしてイノベーションを起こした人はいない」という喜劇的な事実でした。イノベーションが起こるよりも先に、そもそも解くべき課題を見出せていないのです。

そして、その問題の重要度、強度、決定度がとても大事と言います。わかりやすい表現で、特定した課題は「mosquite bite」「shark bite」のいずれか?と問います。蚊に刺されたレベルの課題か?それともサメに噛まれたほどの課題か?ということです。蚊に刺された程度では我慢してしまう人もいるでしょうが、サメに噛まれて我慢する人はいません。確実に病院に、おそらくは救急車で搬送されるでしょう。

そしてサービス、商品を企画する際の注意点としては、ソリューションから始めないということです。新しい商品を企画する際に、どうしてもすでに周りにある技術、商品、アイデアから始めがちです。しかし、出発点は、ソリューションではなく、「Job to be done」なのです。

Jobs to be doneから始まり、まずはMVP(Minimum Viable Product)を制作し、それを検証、テストします。これを繰り返しながら、MAP(Minimum awesome product)、最小限ですごい商品、を作り上げると提唱します。

これを実現した例としては、Rent the Runwayの事例が面白いです。女性は同じ洋服を何度も着たくありません。ある短期間にイベントが重なることはあるでしょう。しかし、高級の洋服を何着も買うほどお金がないわけです。ここに目をつけたのがこのサービスです。高級ブランドやデザイナーズファッションのアイテムをレンタルできるオンラインサービスです。このサービスでは、ドレス、スーツ、アクセサリーなどのアイテムを特定の期間レンタルすることができるため、高価なアイテムを購入せずに特別なイベントや日常のスタイリングを楽しむことができます。Rent the Runwayは、様々なデザイナーやブランドから最新のトレンドや季節に合わせたファッションアイテムを提供しており、サイズやスタイルの選択肢も豊富です。

最初は、小さな実験から始めます。そもそも洋服をレンタルするというニーズはあるのか?洋服を損傷せずに返却してくれるのか?というのが何よりも実験で検証したかったことでした。そこで、小さなレンタル店を仮想的に作り、実験をします。結果は、どちらもYesでした。

次の実験では、オンラインで洋服をレンタルするのか?、写真だけでレンタルを決断するのか?を試します。こちらもほぼほぼYesでした。最終的には、女性のボディサイズに合わせて、2つのサイズを送るので、心配無用とのことです。このように、何度も素早く、実験を繰り返しながら、MVP(Minimu Variable Product)からMAP(Minimum Awesome Product)を目指していきます。

そしてこのビジネス、会社は2021年10月にNASDAQに上場し、時価総額はおよそ13億ドル(約1469億円)というとてつもないビジネスに成長している。このようなモンスター級のビジネスが、ごくごく最初は、小さなMVPから始まっているのは実に面白い。

イノベーションと組織、リーダーシップ

イノベーションを推進するためにリーダーが担うべき役割がいくつかあります。それらを紹介します。

一つ目は「Chief Experimenter」という役割です。いわゆるCXOになぞらえてこういっているのでしょう。上に述べたように実験を重ねることでより相応しいサービスに近づいていきます。自らが会社内で実験を推奨するためのリーダーシップを発揮しなければなりません。また、社内で実験を推奨するといっても、どういった方向に向けて実験を行っていくのか、方向性(ベクトル、vector)を定めることも必要です。また、社内ベンチャーキャピタリストとしての役割も必要になります。ベンチャーキャピタリストは、スタートアップ企業の検討を進めるための資金を提供するだけではなく、有形無形の様々な支援をしていきます。新規事業に取り組むメンバーに対して、人材紹介、情報紹介、戦略的助言など実に多くの役割を果たします。世の中で最も難しい仕事の一つであります。さらには、ベンチャーキャピタリストは、資金提供をする、予算を配分する時もその金額は適正な金額でなければなりません。過剰な資金を与えてしまうと、無駄遣いに終わってしまうからです。適切な資金を提供し、実験を推奨し、実験が進むごとに次のマイルストーンに向けて必要なリソースを配布する、まさに社内ベンチャーキャピタリストとしての役割を担います。そういった観点より、以下のあるようにNathan Furrきょうじゅは「Innovation Capital」という著書を書いています。

イノベーションを進めるための行動指針と心構え

授業はNathan Furr教授のシンプルな質問から始まります。「イノベーションに挑戦しよう」と言われますが、それには不確実性や失敗が伴います。それでもなお、学校教育ではこれらに対処する方法を教えてはいません。私が大学生だった1990年代や2003年にMBAを取得した頃も、このような教育はありませんでした。不確実性への対応は、ビジネスから一線を画した文脈でしか学べないのかもしれません。

改めて、不確実性というのは、機会と裏表のコインであると言います。ヴェネツィアは、その美しさで知られるイタリアの魅力的な都市です。私もいつかは訪れたいと思っています。ヴェネツィアの美しさは、過去の困難と外国の脅威に耐え抜いた結果です。5世紀に侵略者から逃れた北イタリアの人々がアドリア海のラグーンに避難し、それが都市のユニークな構造の始まりでした。強固な防御施設と軍事力が外敵から守り、海上貿易の成功は経済と文化の発展をもたらしました。ルネサンス期には芸術の中心となり、その歴史が今日のヴェネツィアの美しさを形作っています。

ルーチンを設定し、不確実性を減らすことは良いとされています。ルーチンを決めることで、意思決定の必要が減り、ストレスも軽減されます。トップアスリートやビジネスパーソンがルーチンを重視するのも同じ理由です。服装や常宿、食事の選択を事前に決めておくことは、日常生活をシンプルに保つ上で有効です。

リスク(ストレス)には様々な種類があります。財政的、感情的、社会的、肉体的、知性的、政治的なリスクがそれに該当し、個人によってそれぞれのリスク(ストレス)への耐性は異なります。少々抽象的な話ではありますが、自分にとって苦手な要素を減らし、それに対処しようということです。

Nathan Furr教授に質問しました。まずは何から始めるのか?

今回の講義を受けて、たくさんのことを学びました。イノベーションを起こすために必要な行動特性、進めるためのプロセス、そしてそれを実現するためのリーダーの役割、組織カルチャー、組織体制について理解することができました。
一方でこれらを実現するために自分の組織においてまず何をしたらよいのかを尋ねました。
教授からは、共通言語を作ること、小さな成功例を生み出すこと、とアドバイスを頂きました。共通言語とは自分なりの理解ですが、私がイノベーションで学んだこと全体を示すものと思います。これらについて経営層が理解することが出発点であると思います。そのためにはどうしたら良いかと考えました。教授の著書5冊を読んでくださいというとあまりにも大変です。そこで思いついたのは、ケースメソッドでの学習です。このような時にケースメソッドはとても便利です。多くても20-30ページで状況が記載されています。そしてそこには課題が起きています。それを解決するために、当事者としての決断が求められます。これをまずは会社のメンバーで議論する、そして議論の最後に私が教授から学んだスライド、情報、資料、さらにはこのnoteでの投稿情報を使いながら組織として学んでいきたいと思います。

長い記述になりましたが、しっかりとINSEAD Lead the Future Programの最初の授業の「Fostering Innovatioin in an age of Disruption」についての学びの記録を残すことができました。お読みいただいたみなさん、お付き合いありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?