【ゲーム感想】初代しかやったことがない人間が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイしたら

 先日、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、というゲームをクリアした。Nintendo Switchのゲームで、2017年に発売された超人気作品だ。今さらと思う人もいるかもしれないが、まあとにかく私は最近クリアした。
 ゼルダシリーズをプレイするのは、ファミコンの『ゼルダの伝説』(1986年発売)以来であった。そう、いわゆる初代――ラスボスを倒すと「今からもう一つの旅が始まります」と言われて、強制的にすべてのアイテムを奪われてスタート地点に戻され、高難易度の2週目に突入するという例のあのゲームである。
 中古で買ったので当時としてもすでに「昔のゲーム」という扱いで、他に持っている友だちもいなかったのだが、それでも夢中になってプレイしたものだ(しかし、残念ながら自力で2週目クリアまではいけなかった)。
 
 そんなわけで、私がゼルダシリーズをプレイするのは実に20年ぶりである。
 時代はファミリーコンピューターからNintendo Switchへと移り変わっていた。コントローラーのボタン数が数倍になり、キャラクターたちは当たり前のように3Dの肉体を手に入れ、映画みたいに美しい映像がポンポンと流れ、便利なオートセーブ機能が備わった。だから、かつて遊んだ『ゼルダの伝説』とは別物だろうと考えつつ、私はソフトを起動したのだ。
 しかし、私を出迎えてくれた世界は「別物」ではなかった。
 そこは、たしかにハイラルだった。
 
「懐かしい……」
 
 チュートリアルの最中、私は真っ先にそう感じたのだ。画面に映るリンクはドット絵ではなく3Dだし、ファミコンとは大きく異なる複雑なボタン操作に四苦八苦させられたにもかかわらず、私は懐かしいと感じたのだ。
 私がかつてプレイした『ゼルダの伝説』が、たしかにそこに受け継がれていたから。
 
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(ブレワイ)はもう5年以上も前のゲームなので、内容の紹介はそこらじゅうで書かれている。だから私は、プレイしていて「懐かしい……」と思ったポイントを中心に書いていこうと思う。
 
◆懐かしポイント
①初代と共通する登場人物たち
 主人公のリンク、ヒロインのゼルダ、ラスボスのガノン、そしてリンクを導いてくれるおばあちゃんインパ。その名を聞くだけで「あ……こいつらのこと知ってる……」と胸が高鳴った。もちろん、名前は同じでもストーリーが異なるので、リンクはリンクでも別の世界線のリンク、あるいは異なる時代に生きた別のリンクということになるのだと思う。
 ちなみに、初代では水の中からビームを撃ちまくってくる敵だったゾーラ族は、本作では味方である。ゾーラ族が敵になるか味方になるか、その運命ははたしてどこで分岐したのか。これについては初代以外の過去作をプレイしていないので情報が足りない。いろいろ調べてみようと思う。
 その他、聞き覚えのある地名もいくつか登場していて、際限なくワクワクすることができた。
 
②どこにでも行ける
 初代『ゼルダの伝説』では、レベル1から9までのダンジョンが存在したのだが、ラストダンジョン以外はクリアする順番を指定されていなかった。また、アイテムがないと行けない特殊な場所以外は、序盤からどこへでも歩いていくことができた。
『ブレワイ』では、それがさらに極端である。チュートリアルが終わったらいきなりラストダンジョンに突撃することも可能なのだ。もちろん体力や装備が貧弱な状態では、丸焼きにされて終わるだけであるが……驚くべき自由度の高さである。この自由度のおかげで、私自身がリンクとなって世界を旅しているような――何にも縛られずに野を駆け、山を登り、川を泳いでいるかのような感覚があった。
 
③主人公リンクはタフにはなるが、腕力が強くなったりはしない
 初代ゼルダにおいては、ゲームを進めていくと「ハートの器」というアイテムが手に入り、リンクのライフが増えていく。それによって打たれ強くなるわけだが、強化できる要素はそれだけだ。攻撃力や防御力は武器と防具で伸ばしていくしかない。これは、レベルアップによってステータスが上昇していくドラクエなどとはまったく違うところである。
『ブレワイ』もその点は似通っていた。強化できるステータスは「ライフ」と「がんばりゲージ」だけだ。後者が伸びると長く走ったり泳いだりできるようになる。ライフの親戚みたいなものである。
 ライフ(ハート)が増えれば、素っ裸のときに槍で突かれても、斧で殴られても、炎で焼かれても(一撃では)死ななくなる。ハートは肉とか果物とか、手作りの料理とかを食べれば回復する。原理は分からないが、リンクの肉体の代わりにハートが犠牲になってくれているのだろうと勝手に解釈した。また、回復アイテム(食べ物)を消化するのがあまりにも速すぎるが、これもきっと一瞬にしてハートに変換されているのだろう。
 
④ライネル
 初代『ゼルダの伝説』で、(ダンジョンではない)地上世界において最強の存在といえば「ライネル」であった。ライネルは下半身が馬、上半身が人、頭が獅子という化け物だ。主に険しい山の上などを歩き回っており、強力なビームを連発してくる厄介な敵である(初代『ゼルダの伝説』の敵はやたらとビームを撃ってくるのだ)。当時の私は、ライネルに何度も何度も殺された。
 
 あれから20年以上。『ブレワイ』をプレイしはじめた私は、ゾーラの里でとある噂を耳にする。
「雷獣山には『ライネル』がいる」と。
 その名を聞いたとたん、私の脳裏には小学生時代の記憶がよみがえった。
 ライネルは強いが、出現地域が限られているので序盤は戦闘を避けることができる。だから小学生時代の私も、戦わずに済むときには戦わない方針でいたのだが……一度だけ、序盤の段階でライネルに挑んだことがあった。ライフもアイテムも貧弱であったにもかかわらず、小学生なりに戦い方を工夫することで、なんとか仕留めた。
 そんなことをしても誰かが褒めてくれるわけではないのに。あえて強敵に挑んだのだ。
 あのときの興奮は、今でもはっきりと覚えている。
 
 だから、『ブレワイ』でも同じことをやってみた。ストーリー上は、「ライネルに見つからないようにしながらアイテムを集める」というミッションであり、ライネルと戦う必要はなかった。にもかかわらず、私はあえてライネルに真正面から勝負を挑んだ。
 今作のライネルはビームを撃ってこないが、遠距離からは矢や炎を放ってくるし、近接武器も強力だった。下半身が馬なので動きも速い。
 あまりにも強力すぎる敵だった。何度もボコボコにされ、瞬く間にリンクの死体の山ができあがった。
 しかし、最後には討ち取った。
 別に誰かが褒めてくれるわけではないのだが。小学生だったあの頃のように、小さな満足感が胸を満たした。
 
◆もちろん懐かしいだけじゃない
①仲間たちの存在
 初代では、リンクは孤独だった。四方八方からビームでボコボコにされようと、首がたくさんあるデカい竜が立ちはだかろうと、迷いの森で無限ループにはまろうと、ずっと一人だった。
 対して『ブレワイ』では、ストーリーを進めていくとかつての戦友の特殊能力を受け継ぐことができる。たった一人で剣、弓、爆弾を駆使して戦うしかなかったあの頃のリンクとは違って、友と力を合わせて困難に立ち向かうことができるわけだ。
 それから、馬に乗って駆けまわることもできる。中ボス戦では仲間と直接協力して戦うこともある。孤独なリンクしか知らなかった私にとっては、それだけで感動だった。
 
②下手でもクリアできる
 私はゲームがとても下手である。ゆえに、初代『ゼルダの伝説』ではかなりの苦戦を強いられた。
 特に大変だったポイントは、初代は回復アイテムが1つしか持てない点だ。最上位の回復アイテムでも2回使うとなくなってしまうので、ダンジョン内での回復は2回だけである。あとは、敵のドロップアイテムで雀の涙程度の回復ができることもあるが、きわめて限定的であることに変わりはない。
 ゲームが下手な者を待っているのは死だけである。慈悲はない。
 一方『ブレワイ』では、回復アイテムである食べ物をいくらでも持つことができる。もちろん無限ではないのだろうが、プレイ中に上限に達することはなかったので、体感的には「いくらでも」と言って差し支えなかろう。リンクは常にリンゴ数百個、キノコ数百個を持ったまま、野山を元気いっぱい駆けまわることができるのである。
 これはゲームが下手な私にとって素晴らしい仕様であった。極端な話、食べ物を合計1000個、あるいは2000個、いや3000個と所持した状態でラスボスに突っこみ、死にかけるたびに回復していけばいつかは勝てるのだ(敵は回復しないので、ダメージが確実に蓄積していく。ガノンから見たら理不尽この上ないだろうが、勝てばいいのだ)。とても親切なゲームである。
 
 気になるのは「数千個のアイテムをどのようにしてポーチに入れているのか」であるが……これはきっと、失われた古代文明の技術か、森の精霊の力が関係しているのだと思う(リンクは古代文明の力で離れた場所へワープしたり、精霊のダンスの力でポーチの容量を増やしたりできるので、ポーチが四次元ポケットになっていてもおかしなことは何もない)。
 なお、難易度の高い追加コンテンツも用意されているので、物足りない人も安心である。
 
◆まとめ
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は素晴らしいゲームだった。懐かしさと新しさ、そして果てしない自由な冒険を私にプレゼントしてくれた。これを機にもっといろいろなゲームで冒険してみたいと思わせてくれる、不思議な力がそこにあった。
 続編の『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』を楽しみに待ちたいと思う。そして今度は、小学生時代にできなかったことをしたいと――同じようにゼルダの伝説で遊んでいる誰かと話して感動を共有してみたいと、そう思っている。