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私の戦い方Vol.8 髙見泰地七段「覚悟は決まっている」

トップ棋士に現在の将棋界とその中でどのように戦っていくかを語っていただく本コーナー。第8回は髙見泰地七段に登場いただいた。  
B級1組に昇級を果たし好スタートを切っている髙見七段。現在の充実ぶりがそのまま表れたような前向きな気持ちのあふれるインタビューとなった。


今回の主役、髙見泰地七段

叡王というタイトル

―本日はよろしくお願いいたします。  
  
「よろしくお願いします」  
  
―まずは現在の将棋界についてお話をうかがいたいと思います。叡王戦では伊藤匠七段が藤井聡太叡王からタイトルを奪取して大きな話題となりました。  

「叡王戦が始まる時点で伊藤さんから見て対戦成績が0勝10敗でしたが、そこから伊藤さんが大きな成長を見せた番勝負だったと思います。第4局で藤井さんが勝ってフルセットになったときは、場数を踏んでいることもあって藤井さん有利かと思いました。しかし、伊藤さんが第5局を勝ちきってタイトル獲得。実力だけでなく気持ちの強さも感じました」  
  
―流れが変わるきっかけのようなものがあったのでしょうか?  
  
「どうなんでしょう。ただ、藤井さんの将棋が最近ちょっと……言葉で表すのは難しいんですが、変化しているような感じはするんです。伊藤さんが先手で角換わりを採用したときに後手の藤井さんが△3三金型にしたり真っ向勝負を避けるような将棋がありました。いままでは全て受けて立っていたのでそういう指し方は意外でした。大舞台で新境地を開拓しにいったのか、伊藤さんの研究の深さを認めたのか、本意はわかりませんが、ちょっと不思議な感じはしました」  
  
―伊藤叡王の将棋についてはいかがでしょうか?AIを使って序盤を深く研究しているように見えます。  
  
「確かに、第9期叡王戦の挑戦者決定戦での永瀬九段との将棋はお互いの研究が深くて、『ここまで定跡なのか』と自分だけではなくて多くの棋士が思ったはずです。そういう細かいところまで知っているうえで後手番では作戦を散らして相手に絞らせないように指しているようにも見えます。本人に聞いてみないとわからないところです」  
  
―一方で藤井竜王・名人は八冠の一角を崩される結果となりました。少し調子を落とされている印象でしょうか。  
  
「どうなんですかね。自分はこれまで盤側や副立ち合いなどを通じて藤井さんの将棋を近くで見て勉強してきました。自分が見てきた藤井さんの将棋というのは、そうですね、何というか……、非常に強いということは間違いない。それがいまどうなのか、ちょっと難しいですけど、いろいろ成長のために苦労してるのかなと思うところはあります。私はこれまで藤井さんの神がかった将棋をたくさん見ているので、ここからまたもう一つギアを上げたら手が付けられなくなるのではないかと思っています。本当に追いつかない、届かないところにいってしまうという危機感があるので、日々将棋を勉強しています」  
  
―もし、いま髙見七段が藤井竜王・名人と番勝負で戦うとしたらどう戦いますか?  
  
「公式戦では一度も勝ったことがありません。しかも直近になればなるほど惨敗を喫しているので、力の差が開いているのかなと思ったりもするんですが、やっぱり序盤をうまく乗り切るしかないのかなと思います。自分の場合、序盤は先手だったらちょいよしくらいで乗り切って、後手番はひたすら付いていく、というスタンスなので、それで戦っていくしかないかなと思っています」  
  
―藤井竜王・名人と伊藤叡王といえば、髙見七段とはアベマトーナメントで同じチームで戦ったことがありました。  
  
「もう3年も前になりますね。藤井リーダーは当然ながら強すぎでしたし、伊藤さんも新四段とは思えない活躍をしてくれました。その頃、私は矢倉をよく指していたんですが、彼らは相掛かりを指していました。それで自分は単純なので、この二人は強いし、強い人がやるんだったらいい戦法なのかなと思って相掛かりを始めたんです。そのおかげでいまでは相掛かりは自分の主力戦法になったんですけど、彼らはもう角換わりにシフトしてしまったので、一抹の不安と寂しさを感じています(笑)」  
  
―叡王のタイトルが藤井竜王・名人から伊藤叡王に移ったことで、チーム最年少プラス1は全員が叡王を獲得することになりました。  
  
「そうですね。叡王戦は発足時から常に新しい風を吹かせてくれている棋戦で、多くの棋士にいい刺激を与えていると思います。6年前にタイトル戦に昇格したことで、私も改めていい刺激をいただいたと思うんですが、伊藤さんも今回のタイトル獲得を励みにして、さらにキャリアを積み重ねていくでしょう」  


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藤井竜王・名人の将棋は理想

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