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少年社中「テンペスト」を観劇した【完全に個人の感想】

某日、池袋サンシャインシティ内にあるサンシャイン劇場にて、少年社中さんの「テンペスト」を観劇した。
少年社中さんの演劇はこれまで観たことがなかったのだが、テンペスト-シェイクスピアという響きに惹かれたミーハー魂と、鈴木拡樹さんや萩谷慧悟さん、そして日替わり出演者の松田凌さんの演技がどうしても見たいという動機のもと此度の観劇を決めるに至った。

⚠️ネタバレ含みます

今回、あまりあらすじを深く読むことはせずに観劇をしたのだが、そのおかげか(もしくは、そのせいか)最初の方は状況がうまく掴めず理解が追いついていなかった。テンペストが劇中劇として取り入れられていることくらいは事前に調べていたのでわかっていたのだが、物語がどういう時点から始まりどのような前提の上進行されていっているのかが飲み込めなかったのだ。

結局、この物語は、実際に舞台を見ていた我々観客も巻き込んだ壮大な内輪揉めの話であったのだと私は理解した。(一つの解釈であり、他の解釈も思いついてはいるものの。)
こういってしまうと棘があるように思われてしまうかもしれないが、私はあくまでも「観客」側としての視点からものを言っている。
どういうことかといえば、我々には「物語」の中に意図的に組み込まれた「観客」として設定されているという立場があり、そして「現実」で少年社中のテンペストのチケットを買った「歓客」としての立場もあるということである。
現実と空想が錯綜した、恐慌状態なのだ。これを怒涛の悪夢と捉えるか、儚い一抹の夢だと捉えるかは人によると思う。「観客」として、前者に感情移入するか、後者に感情移入するかという問題である。

私は、物語の中に没入しがちなので前者としての視点を強く持っている。物語の中に登場する「観客」という視点である。そうすると、お金を払って舞台を見にきたのに、観客席から野次を飛ばす謎の男は現れるしテンペストの話の筋はもう滅茶苦茶になって忙しいしで、まったく快適な時間を過ごすことができない。最終的にさっきまで暴れていた男は舞台上の役者と和解するしで、何も知らない観客からはどう考えても非難轟々なのではなかろうかと思われる。劇を見にきていて、ぐちゃぐちゃにした挙句勝手にそちらで落ち着いてしまうのだからたまったものではない。

ギンによる復讐心…というよりも(演劇を嫌いになりたいという)自傷行為が、今回の物語の真相を炙り出していくわけだし、そもそもこの舞台の焦点はそこにあるのだろう。
だから、私がここで観客があーだこーだというのは少々視点のズレた感想かもしれない。というか、観ている人によってどちらの観客に感情移入するか大きく分かれるであろうそのギミックを褒めたつもりだったのだが、伝わっただろうか?
(確か2022年に観たミュージカル「PIPIN」も観客を巻き込んだギミックを活かした作品であったな、とぼんやり思った。余談。)

こちら私の感想ツイート


次に役者について。
私は鈴木拡樹さん、萩谷慧悟さん、日替わり出演の松田凌さんが気になってこの舞台を観劇したので、その3名についてぽつぽつと話していく。

【ラン役 鈴木拡樹さん】
開演し、登場して直ぐの時には、あまりにも優美で飄々としており、どこか掴めない魅惑的な人物を演じるのかと思った。けれど話が進むにつれてランのどこか抜けているというか適当さがあるというか、純粋無垢でふわふわとしている様子が露わになってきて「ア、アレ〜〜〜?!」となった。けれど、その驚きこそがランに対して抱く感想の正解なのだろうと考えた。見る角度によってランが全然違う姿に見えてくるのだ。
鈴木拡樹さんの演技。表情の移り変わり、強弱のある揺らぎを見せる声色。見ていて、聞いていて楽しく、一瞬たりとも目を離せないし台詞を聞き漏らしたくないと思わされるその力量に脱帽した。
演技をしている鈴木拡樹さんを見るのは2022年の舞台「アルキメデスの大戦」以来のことで、あの時私は鈴木拡樹さんのことを全く意識せずに「櫂、かっこいい……!」とだけ思っていた(それは風貌ではなく、佇まいの話。あの日、私は遠い席からの観劇にも関わらず双眼鏡を忘れるというドジを踏んでいたため。)のだが、今回の「テンペスト」でじっくり演技を見ることで拡樹さんはとても素敵な役者さんなのだなと再認識した。

※また、これは拡樹さんには全く関係のない余談なのだが、パンフレットで拡樹さんは「自分には才能がないということに気づくという才能がある」と言っていた。そんなことはないだろうと思いつつ、個人的にその言い回しに覚えがあって記憶を辿ってみた。多分2022年の舞台「CROSS ROAD〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ」だ。あれもパガニーニという天才ヴァイオリニストを題材にした物語だった。パガニーニは悪魔と契約して超絶技巧を手にするのだが、その前に彼は師に「自分に才能がないことに気づくという才能がある」と評され、自身でもそのように理解していたのである。
今回のテンペストも天才の存在があったし、天才という問題が絡むと矢張りそのような経緯となってしまうのは必然なのかもしれない。拡樹さんに才能がないなんて、本人はそう言っても私はそうは思わない__というのは私の価値観、エゴの押し付けだろうか。恐らく拡樹さんは努力の人で、自身の能力を伸ばして叩き上げることに注力した結果、あのような繊細で人を引き込む力のある演技ができるようになったのかな、と想像した。
拡樹さんについて全く詳しくない人間がこうして言うことがそもそも筋違い、お門違いかもしれないが……とにかく拡樹さんは凄い役者さんだなと思う。

最後に、ギンに演劇を教わり、「中身が空っぽ」だと評されてもそれに対して「あんたが演劇を教えてくれた、それが今の俺に詰まってる」と言い返したランの強さ。ランには演劇に対しての愛と情熱があると思った。

【ゲキ役 萩谷慧悟さん】
もう風貌が………儚い………頭のてっぺんから足の先まで白に包まれたゲキという存在。
美しいその存在が、爆音の中流麗な線を描くようにしてキレのあるダンスをする様には猛烈に感動したし目を奪われた。
矢張り萩ちゃん、ダンススキル良良良!!こういうところに7ORDERの息吹を感じます、と勝手ににっこり。
萩ちゃんの声色が、穏やかで優しいゲキというキャラクターに非常にマッチしていて良かった。ゲキがランの前に現れて、「君も僕と同じなんだね」と囁いたシーンには思わずゾクッとしてしまった。ゲキとランが共鳴した瞬間というか、天才同士の接近を感じたというか。その一言を聞いた瞬間、どこかから物語が加速していくスイッチがかちりと押されたような予感を覚えて。台詞ひとつであそこまで高揚することもなかなかないように思う。表現力があるってこういうことなのかな。

ゲキって、劇団の誰もがその才能を認め依存してしまうくらいの天才だったようだけど、それがしがらみとなってゲキ自身身動きが取れなくなってしまっていたというのは皮肉だなあと感じた。その反面、そういったしがらみが無く天才は天才でもより純粋無垢、どこまでも自由に飛んでいくことのできそうなランの存在は対比になっていて凄いなと思う。
いや、もしかしたらそのまま行けばゲキのような存在になっていたであろうランを、ゲキ自らプロデュース(憑依)して道を正してあげたからこそ生まれた対比かもしれない。ゲキの人に対する優しさと、演劇に対する愛が生んだ奇跡とも言える。

萩ちゃんの演技を初めて見たのはディスグーニーの2022年の舞台「リトルファンダンゴ」で、あれは今でも好きな物語の一つだ。そこでも萩ちゃんの演技が良いなと感じていたし、また機会があればぜひ見たいと思っていたので今回素敵な役を演じる萩ちゃんを見れて良かったなと思う。


【サコン役 松田凌さん】
松田凌さん……演技好きなんですよね……
今回は日替わり出演ということで、あまり出番は多く無かったけれど。少ない中でもインパクトを残して去っていったのは流石だなあと感じた。
物語終盤、サコンの遺書を読み上げるシーンで、ただ真っ直ぐにギンを見つめながら「劇団に戻って来れば良い」と告げる姿は真摯で、演劇に対する愛に溢れており涙腺にグッときてしまった。人の心をなぞるような演技が上手な人だなあって思います。

また、アドリブパート(だと思うんだけど、アドリブだよな?)は見ていて本当に笑いが止まらなかった。笑いすぎて何が起こったのかあまり詳細には覚えていないのだが、箇条書きで二個ほど。

・ランに顔を思いっきり近づけるサコン(「近え…………」って言ってたの誰だろう、ランかな?滅茶苦茶笑ってしまった)
・円陣を組もうとしたけど矢張りやめて列陣にしたサコン(「お客様の前じゃこんな一列に並ぶなんてしないからな!」といったサコンだったが、それに対して「カテコとかありますよ」と突っ込まれ「そうだったな……」となるサコン。落ち着いて!)

劇団内で起きている問題と、シェイクスピアのテンペストが複雑に絡まり合い引き合いながら進行していく展開は観ていて面白く、話が進めば進むほど引き込まれていった。少年社中さんの作品で、今後気になるものがあればまた是非観てみたいなと感じた。

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