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「観る将」が観た第31期銀河戦本戦トーナメントHブロック決勝 藤井銀河vs羽生九段

11月2日に、銀河戦本戦トーナメントHブロック決勝が放映されました。銀河戦の本戦トーナメントは、持ち時間15分(切れたら1手30秒未満、1分の考慮時間10回)の早指し棋戦です。全棋士と女流棋士2人とアマ2人を8つのブロックに分け、各ブロックでパラマス式トーナメントが行われ、各ブロックの最終勝ち残り者と最多勝ち抜き者が決勝トーナメントに進出します。

前期優勝者の藤井聡太銀河は本戦トーナメント決勝からの登場です。羽生善治九段は10回戦から登場し、5人抜きして勝ち上がってきた野月浩貴八段を降して決勝に進出しています。本局の勝者は、最終勝ち残り者として決勝トーナメントに進出します。


戦型は角換わり

振り駒で先手となった藤井銀河が角換わりに誘導し、解説が追い付かない早指しで相腰掛け銀の駒組みが進みます。羽生九段が玉や銀の往復で手待ちすると、藤井銀河は▲8八玉と入城してから▲4五桂と仕掛けます。

羽生九段の反発

羽生九段が△2二銀とかわして歩で桂を取る間に、藤井銀河は3筋の歩を取り込みます。羽生九段は6筋と9筋の歩を突き捨ててから7筋の歩をぶつけ、藤井銀河が6筋の歩を取り込むと、8筋の歩も突き捨ててから7筋の歩を取り込みます。藤井銀河が▲7六同銀と応じると、羽生九段は△7四桂と打って玉頭攻めを続けます。

両者の深い研究

藤井銀河は▲8七金と上がって歩を支え、羽生九段が△9八歩と叩いて香を吊り上げ、△8六桂と跳ねると、▲9六香とかわします。羽生九段は△9八桂成と成り捨て、△8六歩と金頭を叩き、藤井銀河が金を引いてかわすと、△6五角と先手の銀の利きに差し出します。藤井銀河は角銀交換に応じ、▲9九桂と打って玉のコビンに利きを足し、羽生九段が△7六銀と進めて攻めをつなぐと、▲7八角と打って凌ぎます。先手玉は一手間違えれば詰まされてしまいそうですが、両者とも研究範囲なのか形勢はほぼ互角に保たれています。

羽生九段の長考

羽生九段が初めて手を止めて少考し、△9五香と走って歩切れを解消してから△8五桂と跳ねると、藤井銀河も少考して▲5五角と攻防に打ちます。AIの評価値は藤井銀河の88%と傾き、羽生九段はここで持ち時間を使い切り、更に考慮時間を5回使って△9七歩と貴重な1歩を使って王手します。

ギリギリの攻防

藤井銀河は歩を桂で取り、羽生九段が△9七同桂成と桂交換すると、ここで持ち時間を使い切り、慎重に考慮時間を1回使って玉で取ります。羽生九段が更に考慮時間を4回使って△7七銀打と角を取りにいくと、藤井銀河は更に考慮時間を1回使って▲4四香と王手します。AIの評価値は藤井銀河の98%と大きく傾いています。

飛車の利きを止める歩

羽生九段が玉を3筋に引いてかわすと、藤井銀河は考慮時間を1回使って▲8五歩と後手の飛車の利きを止めますが、AIの評価値は羽生九段の68%と大きく振れます。羽生九段は△7三桂と打ち、藤井銀河が考慮時間を2回使って▲9二香成と飛車に当てると、△8五桂と歩を取りつつ王手します。

大きく振れるAIの評価値

藤井銀河は▲9六玉とかわし、羽生九段が△8三飛と浮くと、AIの評価値は藤井銀河の96%と逆転しますが、AIが示す推奨手は後手の銀の利きに桂を打つ、人間には浮かびにくい一手です。藤井銀河は考慮時間を4回使って▲8四歩と飛頭を叩いて吊り上げ、▲9五玉と玉自ら飛車を取りにいきますが、AIの評価値は羽生九段の99%と再び大逆転しています。

羽生九段の角取りと藤井銀河の飛車取り

羽生九段は飛車を7筋にかわし、藤井銀河が▲8四歩と垂らすと、△7三金と垂れ歩を取りにいきます。藤井銀河が▲9六桂と垂れ歩を守ると、羽生九段は△8八銀成と金を取って角に当てます。藤井銀河が▲7五歩と飛頭を叩くと、羽生九段は最後の考慮時間を使って△7五同飛と応じます。

玉の突進

藤井銀河は▲9四玉と上部脱出を図り、羽生九段が△9一歩と成香を叩くと、最後の考慮時間を使って▲9三玉と突進します。AIはここで成銀で角を取る手を推奨していますが、羽生九段が秒読みに追われて△9二歩と成香を取ると、評価値はほぼ互角に戻ります。終盤戦の難解な応酬が続き、もうどちらが勝つのかわからない大熱戦となっています。

藤井銀河の"と金"

藤井銀河は玉で歩を取り、羽生九段が△7八成銀と角を取ると、▲6三歩成と"と金"を作って金に当てます。羽生九段が△7四角と王手すると、藤井銀河は▲8三歩成と2枚目の"と金"を作って防ぎます。羽生九段は△9一歩と王手し玉で取らせてから、△6三角と"と金"を取って詰めろを掛けますが、AIの評価値は藤井銀河の99%とまたも大きく傾いています。

藤井銀河の馬

藤井銀河は▲8二"と"と入って詰めろを逃れ、羽生九段が△6四歩と打って角道を止めて金取りを防ぐと、▲6六角と引いて飛車に当てます。羽生九段が飛車を引いてかわすと、藤井銀河は▲9三角成と自玉の近くに馬を作ります。入玉した先手玉を寄せるのは難しくなり、後手が相入玉を目指すにはあまりにも遠く、羽生九段は潔く投了を告げました。

まとめ

本局は両者の深い研究がぶつかり合い、77手目まで手を止めることなく終盤の入り口に突入しました。羽生九段が先手玉を仕留めるか、藤井銀河が逃げ切るかという戦いとなり、AI的には評価値が乱高下するシーソーゲームとなりました。終始難解な局面が続きましたが、最後は藤井銀河が入玉し、馬を作って安泰にして決着を付けました。
AIが示す推奨手には将棋界が誇る2人でも早指しでは気付けない手が潜んでいましたが、AIの評価値がどうであれ、人間同士が火花を散らして鎬を削る好局だったと思います。

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