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「観る将」が観た第34期竜王戦2組ランキング戦 藤井二冠決勝

4月16日に行われた竜王戦2組ランキング戦決勝の、藤井二冠と八代七段の対局を観た感想です。

藤井二冠は、阿久津八段、広瀬八段、松尾八段を破って決勝進出となりました。松尾八段との準決勝は、第48回将棋大賞で名局賞特別賞を受賞した、内容の濃い横歩取りの将棋でした。本局は前人未到の、竜王戦ランキング戦での5期連続優勝が懸かる一局となります。

八代七段は朝日杯優勝経験のある実力者で、2020年度は勝率0.739と全棋士中4位の好成績を収めています。今期竜王戦は森内九段、屋敷九段、渡辺名人という実力者を破っての決勝進出となりました。藤井二冠も、渡辺名人に矢倉で勝った将棋を「すごくいい内容だったので、充実されている印象」と話しており、決勝に相応しい好局が期待されます。

振り駒で先手となった藤井二冠は、このところ連採していた相掛かりではなく、相手が得意とする矢倉を選択しました。藤井二冠が早囲いからバランス重視の土居矢倉に駒組みを進めると、八代七段は意表をついて矢倉から穴熊に組み替えます。藤井二冠は機敏に4筋から仕掛け、AIの評価値は早くも60%程度に傾いてきたようです。

八代七段も9筋から反発して香交換しますが、藤井二冠は角交換から敵陣に▲7一角と打ちこみます。この角は相手の飛車の動きを牽制しつつ、最終盤には相手玉の逃げ道を塞ぐ絶好の攻防手となりました。

藤井二冠は更に、歩や香を駆使して穴熊の堅陣を崩しにかかります。▲4三歩成とした藤井二冠は「ONチョコレート」を口にして、糖分補給をしています。これまでほとんど姿勢を変えなかった八代七段でしたが、藤井二冠が席を外すとがっくり項垂れ苦しそうな表情を浮かべます。

AIの評価値は藤井二冠に大きく傾いてきましたが、ABEMA中継では佐々木(大)五段が、まだ全然諦める局面ではないと解説しています。八代七段は△8一香から相手の守りの銀を剥がし、△4六歩から相手の右辺を攻め立てます。

藤井陣は左右から挟撃され、素人目には一手間違えると危ないようにも見えましたが、藤井二冠は△8八歩と王の隣に打たれた歩を手抜いて▲2五歩から寄せに入ります。ここからは藤井二冠がいつもながらに鮮やかな寄せを魅せ、瞬く間に八代陣を受けなしに追い込みます。八代七段は3分の残り時間を全部使って飛車成りからの詰めろを掛けて形を作り、長手数の即詰みに討ち取られたことを確認すると何度か首を傾げて投了を告げました。

本局は、先手の藤井二冠が敢えて相手の最も得意とする戦型で勝負を挑み、八代七段が「やってみたい形の1つ」という趣向を見せました。相手の5三にいる銀が浮き駒になった瞬間を逃さず踏み込んだ藤井二冠が、相手に悪手がないまま徐々に形勢をリードし寄せ切りました。八代七段は感想戦で何度か「どこで悪くしたのかわからなかった」とつぶやいていましたが、このところ藤井二冠に敗れた棋士が異口同音に発するこの言葉は、藤井二冠の底知れぬ強さを端的に示しているような気がします。

この結果、藤井二冠は2組ランキング戦優勝となり、5期連続ランキング戦優勝というとてつもない大記録を更新しました。竜王戦のランキング戦では、デビュー以来負けなしの24連勝です。指す度に記録を作っていく印象のある藤井二冠ですが、公式戦の連勝記録も19となりました。歴代最高記録は自身がデビュー時に作った29連勝ですが、今回の連勝記録がどこまで伸びるのか楽しみになってきました。

竜王戦決勝トーナメントに向け、対局後のインタビューで「ランキング戦に優勝できたことは嬉しいですが、決勝トーナメントで結果を出さなければならないと思っています」と語りました。以前からの謙虚さに変わりはありませんが、自信がにじみ出るような言葉にはファンの期待も膨らみます。10代での竜王奪取を実現するには今期が最後のチャンスとなりますので、是非とも勝ち進んで欲しいと思います。

八代七段は敗れたものの、実力者が揃ってまれにみる激戦区となった今期の2組ランキング戦で、渡辺名人を破っての準優勝は輝かしい成績だと思います。2組からは2名が進出する決勝トーナメントでは、勝ち上がれば再び藤井二冠と対局する可能性もあります。対局後のインタビューで「気持ちを切り替えて頑張りたい」と語っていた通り、もうひと暴れすることを期待したいと思います。

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