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「観る将」が観た第72回NHK杯トーナメント本戦準々決勝 藤井竜王vs中川八段

2月5日、NHK杯本戦の藤井聡太竜王と中川大輔八段の対局が放映されました。

藤井竜王は本戦からの登場で、伊藤(匠)五段と佐藤(天)九段を破ってNHK杯では自身初のベスト8に勝ち上がりました。中川八段は予選を3連勝で勝ち抜け、本戦では屋敷九段、出口六段、久保九段を降して勝ち上がっています。

中川八段は1987年プロ入りの54歳で、趣味の登山で日焼けした精悍な顔とダンディなファッションで知られ、気迫を前面に押し出した力強い棋風の人気棋士です。藤井竜王とは今年度7月に棋王戦挑決トーナメントで初めて顔を合わせ、相掛かりの将棋で敗れています。

戦型は3三金型角換わり

振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導し、中川八段は△3三金型で受けて立ち、3筋の位を取って△3四金と支える前例の少ない形で対抗します。

慎重な駒組みからの仕掛け

藤井竜王は少しずつ時間を使って慎重に駒組みを進め、早くも10分の持ち時間を使い切ると、4筋、3筋、2筋の歩を突き捨てて仕掛けます。中川八段も7筋の歩をぶつけて反発しますが、藤井竜王は構わず3筋の金頭を叩いて位を奪還し、▲4五金と前進して圧力を掛けます。

玉頭攻め

中川八段が7筋の歩を取り込み、銀で取らせて空いた玉頭のスペースを△7七歩と叩くと、藤井竜王は3回目の考慮時間を使って金で取ります。中川八段は4筋の金頭を歩で叩きますが、藤井竜王は3筋の金頭を叩き返します。中川八段が金を2筋にかわすと、藤井竜王は▲4四金と歩を取って前進します。AIの評価値は藤井竜王の65%と少し傾いています。

先手玉に迫る中川八段の馬

ここで中川八段も持ち時間を使い切り、更に考慮時間を1回使って、力強く飛車取りに△4六角と打ちます。藤井竜王は玉頭を歩で叩き、後手玉を5筋に引かせてから、飛車を1筋にかわします。中川八段が△5七角成と馬を作って銀に当てますが、藤井竜王は7筋の桂頭を歩で叩き、銀で取らせてから▲7五歩と銀頭を叩いて自陣の銀頭を守ります。

藤井竜王の攻防の角

藤井竜王が▲4五銀とかわすと、中川八段は考慮時間を2回使って△4八歩と打って先手の飛車の横利きを止めます。藤井竜王は▲6六角と打って馬を引かせ、飛車で4筋の歩を払って馬に当てますが、中川八段は歩で飛車を5筋に追ってから金取りに△6五桂と跳ねます。

馬と角の交換

藤井竜王が銀で桂を食いちぎり▲5五角と出て飛車と馬に当てると、中川八段はやむなく馬と角の交換に応じ、△6四角と打って飛車を追います。中川八段が考慮時間を2回使って飛金両取りに△5五銀と打つと、藤井竜王は飛車を7筋にかわします。

2枚替え

中川八段が金銀交換してから、△3四金と遊んでいた金を活用して銀に当てると、藤井竜王は▲5五銀と打って取られそうな銀に紐を付けつつ角に当てます。中川八段は金で銀を取り、角を取らせる代わりにもう1枚銀を取って2枚替えの駒得となりますが、藤井竜王は金銀両取りに▲5六桂と打ちます。

一瞬のチャンス

中川八段が△5五銀と打って辛抱すると、藤井竜王は▲3七角と打って駒損の回復を図ります。AIの評価値は中川八段の57%と逆転模様ですが、谷川十七世名人が「どういう手があるのか、すぐにはわかりませんが」と解説しています。

駒損の回復

AIによれば、6筋の歩を突き捨ててから銀で桂を食いちぎり、飛車を捕獲しに行く手が有力だったようですが、考慮時間が残り1回となっていた中川八段は△4三金と目障りな歩を払います。藤井竜王が桂で銀を取って駒損を回復し、▲5二銀と腹銀を打って攻め込むと、AIの評価値は藤井竜王の66%と再逆転しています。

藤井竜王の馬

中川八段は最後の考慮時間を使って△4八歩成と"と金"を作って攻め合いますが、藤井竜王は4筋の金頭を叩いて吊り上げ、金取りに▲2三角と打ち込みます。中川八段は銀を打って金を守りますが、藤井竜王は▲4一角成と王手で馬を作って後手玉に迫ります。

電光石火の寄せ

中川八段は"と金"で角を取りにいきますが、藤井竜王は角を取らせる代わりに馬で銀と桂を取ります。中川八段は飛車を引いて馬に当てますが、藤井竜王は▲4五桂と王手します。藤井竜王が▲2二馬と王手を続けると、後手玉には長手数の即詰みが生じているようで、中川八段は投了を告げました。

まとめ

本局は中川八段が前例の少ない戦型を採用し、評価値を落としながらも自分の土俵で戦うことで、藤井竜王に序盤から時間を使わせました。中盤には中川八段にも一瞬のチャンスが訪れましたが、一手30秒の早指しの中では見つけることができず、最後は藤井竜王が馬を作って鮮やかに寄せ切りました。
勝った藤井竜王は、自身初のNHK杯ベスト4に進出しました。今年度は既にJT杯と銀河戦にも優勝しており、NHK杯と朝日杯にも優勝して、一般棋戦完全制覇を期待したいと思います。

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