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「観る将」が観た第48期棋王戦挑決トーナメント敗者復活戦 藤井竜王vs羽生九段

12月8日、棋王戦コナミグループ杯の挑戦者決定トーナメント敗者復活戦、藤井聡太竜王と羽生善治九段の対局がありました。藤井竜王は準決勝で佐藤天彦九段に敗れて敗者復活戦に回り、伊藤(匠)五段を破って勝ち上がっています。羽生九段は決勝で佐藤(天)九段に敗れて敗者復活戦に回っています。本局の勝者は佐藤(天)九段との挑決二番勝負に臨みます。

両者は年明けに始まる王将戦七番勝負での対決が決まっており、本局はその前哨戦としても非常に注目される一局となりました。


戦型は角換わり相腰掛け銀

振り駒で先手となった羽生九段が角換わりに誘導し、藤井竜王は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。藤井竜王が金を上がって玉を6筋に寄せて流行形から離れると、羽生九段は玉を入城させてから飛車を6筋に回します。

序盤の駆け引き

藤井竜王が玉を5筋に戻し、金も引いて流行形に戻すと、羽生九段は銀を引いて銀矢倉を組みます。藤井竜王が4筋に引き、羽生九段が次の51手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が3時間21分、羽生九段が3時間10分となっています。

両者の桂跳ね

昼休が明けるとすぐ、羽生九段は飛車を5筋に回して歩を突き、後手に銀を引かせると、4筋の歩を突き捨て桂を跳ねます。藤井竜王が銀を4筋に上がってかわすと、羽生九段は歩で桂を支えます。藤井竜王も6筋の歩を突き捨て桂を跳ね、羽生九段が銀を6筋に上がってかわすと、歩で桂を支えます。

羽生九段の"と金"

羽生九段は6筋の金頭を歩で叩き、藤井竜王が金を7筋にかわすと、3筋の歩を突き捨ててから飛車を2筋に戻します。藤井竜王が7筋の歩をぶつけると、羽生九段は38分の熟考で2筋の歩を交換します。藤井竜王が7筋の歩を取り込むと、羽生九段は7筋の金頭を歩で叩きます。藤井竜王が42分の熟考で同金と応じると、羽生九段は6筋に"と金"を作ります。AIの評価値は藤井竜王の58%とわずかに傾いてきました。

藤井竜王の桂

藤井竜王は飛先の歩を突き捨ててから4筋の桂を銀で食いちぎり、銀取りに7筋に桂を打ちます。難解な中盤戦となり、AIの評価値は両者の間を揺れています。羽生九段は29分の熟考で4筋の歩を伸ばして銀に当て、取られそうな銀で6筋の桂を食いちぎります。

羽生九段の桂

羽生九段は3筋に桂を打って後手玉の上部を封鎖しますが、藤井竜王は怯まず桂を金取りに8筋に跳ねて攻め掛かります。この手は詰めろになっているようで、羽生九段は金を玉頭にかわして逃れます。後手玉もかなり危険な状態でしたが、藤井竜王は3筋に銀を引いて先手の桂の脅威を緩和します。

羽生九段の罠

羽生九段は残り時間が1時間を切り、後手の飛頭を歩で叩き、飛車取りに角を打ち込みます。藤井竜王が飛車を引くと、羽生九段は"と金"を5筋に寄せます。角がタダで取れる状態になりますが、取れば後手玉が寄せられてしまうので、藤井竜王は3筋の桂を取って自玉の退路を確保します。

羽生九段の苦悩

羽生九段が角を成って王手で迫ると、藤井竜王の残り時間も1時間を切り、玉を2筋に逃がします。羽生九段が「いやぁー」とため息をつきながら金取りに"と金"を寄せると、藤井竜王は金を上がってかわします。羽生九段が銀で王手すると、藤井竜王は玉を1筋にかわします。羽生九段が一手一手苦し気に時間を使い、AIの評価値は藤井竜王の84%と大きく傾いてきました。

飛車を見捨てての寄せ

羽生九段は馬を引き、飛車取りかつ後手玉の周りを睨みますが、藤井竜王は12分の考慮で構わず9筋に桂を成り捨てて王手を掛けます。羽生九段が残り7分まで考えて玉で成桂を取ると、藤井竜王は金頭を歩で叩きます。羽生九段が馬で飛車を取って下駄を預けると、藤井竜王は歩で金を取っての王手から先手玉を追い詰めます。羽生九段は1分将棋になるまで考えて後手玉に詰めろを掛けて形を作りますが、先手玉には即詰みが生じており、藤井竜王が王手を続けると投了を告げました。

まとめ

本局は角換わりの定跡形から、羽生九段が先に仕掛けましたが、藤井竜王もすぐに反発して攻め合いとなりました。感想戦で羽生九段が(AIの評価値を見ている)観戦記者にどこで悪くなったのか確認していたようですが、羽生九段に目立った悪手がないまま、藤井竜王が正確な手順で徐々にリードを拡げていったように見えました。中盤以降、一手間違えれば逆転という局面が何度も現れましたが、藤井竜王は時間を有効に使って最善の指し手を選択し続け勝ち切りました。
藤井竜王は敗者復活戦を勝ち上がり、佐藤天彦九段との挑決二番勝負に挑みます。挑戦権獲得には連勝が必要ですが、藤井竜王なら実現してくれると期待しています。
羽生九段は今期の棋王挑戦はなくなりましたが、王将戦七番勝負で顔を合わせる藤井王将との距離感を測る絶好の機会だったと思います。開幕まで約1か月となり、どのような作戦で藤井王将に挑むのか、注目していきたいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou)に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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