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第5回ABEMAトーナメント 予選Eリーグ第一試合

7月9日に、ABEMAトーナメントの予選Eリーグ第一試合が放映されました。羽生世代のレジェンド2人をメンバーに加えたチーム藤井「スリーカード」と、3大会連続で弟弟子を指名し注目の若手をメンバーに加えたチーム渡辺「マンモス」の顔合わせとなりました。チーム藤井はフィッシャールールでも強さを発揮してきた森内俊之九段と初出場の藤井猛九段が、リーダーの5連覇を支えます。チーム渡辺は過去の大会でエース級の活躍を見せてきた近藤誠也七段と昨年度の連勝賞を獲得した初出場の渡辺和史五段が、名人3連覇を果たしたリーダーとともに戦います。

一局目:藤井聡太竜王 vs 渡辺明名人

一局目から両チームともリーダーが登場し、リーダー対決が実現しました。振り駒で先手となった渡辺名人が矢倉に誘導し、藤井竜王は現代調の駒組みを進めます。渡辺名人が角をぶつけて角交換になった辺りでは、両者とも持ち時間を6分前後に増やしています。藤井竜王が先手の飛車を間接的に睨んで△6四角と打つと、渡辺名人も後手の飛車を間接的に睨み▲1八角と打ちます。藤井竜王が飛先の歩を突き捨て先手玉のコビンを開けると、渡辺名人も▲2四歩とぶつけます。藤井竜王は受けずに銀取りに△4五歩と突きますが、渡辺名人も構わず▲2三歩成と飛び込みます。藤井竜王は金で"と金"を取って△2四歩と打ち局面を落ち着かせると、1筋の歩を伸ばして先手の角に圧力を掛けます。銀交換となり、藤井竜王が7筋から仕掛けると、渡辺名人は角取りに▲3五銀と打って角を引かせてから▲4六銀と引いて飛車を金に当てます。藤井竜王は残り2秒まで考えて角取りに△4四金と出て、渡辺名人が▲2三角成と馬を作ると7筋の歩を取り込んで攻め合います。渡辺名人が竜で金を食いちぎって寄せにいくと、藤井竜王は懸命に凌いでから反撃します。両者とも時間に追われる中、渡辺名人は玉を右辺に逃がしてから再び後手玉を攻め、王手竜取りの▲9五角から竜を剥がします。自玉を安全にした渡辺名人は▲8二竜から後手玉に迫り、長手数の即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:0勝 - チーム渡辺:1勝

二局目:森内俊之九段 vs 近藤誠也七段

両チームともポイントゲッターの登場で、意外にも公式戦での対局がない2人の対局が実現しました。先手の森内九段が矢倉に誘導し、近藤七段も従来型のじっくりした駒組みを進めます。森内九段が早囲いから金矢倉に組むと、近藤七段は銀矢倉に組みます。長い序盤戦が続きましたが、近藤七段が5筋と8筋の歩を突き捨ててから△5五角と飛び出すと、森内九段も2筋の歩を突き捨て▲4五歩と反発します。近藤七段が9筋の歩もぶつけると、作戦会議室では藤井猛九段が「将棋自体は(先手が)相当いいですよね」と藤井竜王に話しかけています。森内九段は端を手抜いて角取りに▲5六銀と上がり、角を引かせて▲6六角と上がります。近藤七段は△5四金と上がって中央を固めますが、森内九段は▲5五歩と打って金を引かせてから▲9五歩と手を戻します。近藤七段が△8五歩の継ぎ歩で歩を吊り上げてから△9七歩と垂らすと、森内九段は▲4四歩から攻め掛かります。近藤七段は△8五飛と走って飛車の横利きを守りに利かせますが、森内九段は▲6四歩と打って角のラインを止めがっちり受け止めます。近藤七段は飛車を角と刺し違えますが、森内九段は▲5三歩成から手筋を駆使して後手陣を崩します。森内九段は▲6一飛から竜を作り、▲3七桂~▲4五桂打と継ぎ桂で攻めます。森内九段が後手玉の上部を押さえ込み、銀取りで▲1一竜と回ると、近藤七段は残り3秒まで考えて△9六桂と王手します。作戦会議室では藤井竜王が「上に見えますけど」とつぶやいていますが、森内九段は▲7九玉と下に逃げ、渡辺名人も「おっ、来たかこれ」とつぶやきます。森内九段は少し慌てた様子で、飛車を取らせる代わりに▲9七香~▲9六香と自玉の安全を確保してから即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:1勝 - チーム渡辺:1勝

三局目:藤井猛九段 vs 渡辺和史五段

両チームとも初出場の2人が登場し、公式戦を含めても初めての対局が実現しました。後手の藤井九段が四間飛車に振り美濃囲いに構えると、渡辺五段は▲6六角と出てミレニアムを目指します。藤井九段は飛車を2筋に振り直し、動かしていなかった左銀を△4二銀~△5三銀と好所に置きます。藤井九段は更に△6五歩と突いて角を引かせてから△6四銀と前進します。渡辺五段は少し考えて▲3五歩と反発しますが、藤井九段はほとんど時間を使わずに△4三金と上がって隙を見せません。渡辺五段が▲5五歩と取り込むと、藤井九段は飛車を5筋に転回します。作戦会議室では森内九段が「いい感じじゃないですか」とつぶやいています。渡辺五段が▲3六飛と浮くと、藤井九段は△6六歩と突いて相手を悩ませます。作戦会議室では渡辺名人が「考えちゃうよな」とつぶやいています。渡辺五段が1分程考えて歩で取ると、藤井九段は△5五銀と出てから△6七歩と金頭を叩きます。作戦会議室では渡辺名人が「やばいね」とつぶやき、渡辺五段も頭に手をやってから更に1分以上考えて▲7八金と寄ります。藤井九段が気持ちよく△6六銀と前進すると、渡辺五段は▲7五歩と突いて反撃の構えを見せます。藤井九段は飛車を浮いて守りに利かせ、歩で角道を止めます。渡辺五段が銀をぶつけて銀交換となり、藤井九段は△6八銀と放り込んで先手陣を崩します。渡辺五段は飛車取りに▲5五銀と打ちますが、藤井九段は構わず△6七金とガジガジ流で攻め込みます。渡辺五段は▲6二歩と金頭を叩いてから、▲6六飛と相手の金の利きに飛車を差し出す勝負手を放ちます。藤井九段が飛車を取って金取りに△2八飛と打ち込むと、渡辺五段は▲7九金と打って粘ります。渡辺五段は9筋から端攻めし、香を吊り上げてから飛車を取り返します。渡辺五段の猛攻に藤井九段がギリギリの受けを見せ、作戦会議室では藤井竜王と森内九段が何度も「えーっ」と叫んでいます。藤井九段は自玉を安全にしてから先手玉に迫り、必至を掛けて勝ち切りました。
チーム藤井:2勝 - チーム渡辺:1勝

四局目:藤井聡太竜王 vs 渡辺明名人

両チームとも順番通り、一局目に続いてリーダー対決となりました。先手の藤井竜王が相掛かりに誘導し、お互いに飛先の歩を交換します。藤井竜王が飛車取りに▲6六角と上がると、渡辺名人は角を交換します。藤井竜王が雁木に構えると、渡辺名人は銀冠の形を作って対抗します。藤井竜王は2筋の歩を合わせて桂交換し、2分以上考えて▲5八金と寄ります。お互いに手待ちとなりましたが、藤井竜王が▲8九飛と地下鉄飛車を発動し▲8六歩と伸ばすと、渡辺名人は9筋の歩を突き捨ててから7筋の歩をぶつけます。作戦会議室では渡辺五段が「これいい感触」とつぶやいています。藤井竜王が▲8五桂打から2枚の桂を成り込み後手の飛車を2筋に追いやると、渡辺名人は△9八歩と香頭を叩いて反撃します。藤井竜王も金取りに▲7四角と打ちますが、渡辺名人は歩で香を取ります。藤井竜王は馬を作って2枚の成香を寄せていきますが、渡辺名人も△9七香成と成駒を作り△8八歩成と"と金"も作って攻め込みます。藤井竜王が▲5五歩と突いて攻め駒を足すと、渡辺名人は馬取りに△6四香と打ちます。藤井竜王は馬を見捨てて5筋の歩を取り込み▲5三歩成と金を剥がします。一直線の攻め合いとなり、藤井竜王は▲4三金~▲3三金打~▲2二歩と後手玉を受けなしにして下駄を預けます。50秒程時間を残していた渡辺名人は△4八"と"から詰ませにいきますが、藤井竜王は正確にかわして逃げ切りました。
チーム藤井:3勝 - チーム渡辺:1勝

五局目:藤井猛九段 vs 近藤誠也七段

チーム藤井は藤井九段が後手番を買って出ます。後手の藤井九段が四間飛車に振って美濃囲いに構えると、近藤七段は9筋の位を取らせてからミレニアムを目指します。藤井九段は三局目と同様、飛車を2筋に振り直してから左銀を斜めに前進します。藤井九段が8筋の歩を突いて銀冠を目指すと、近藤七段は飛車を3筋に寄せて後手の角頭を狙います。藤井九段は△7五歩と突いて、▲7五同歩と取らせてから△4二角と引き、△7五銀と前進します。藤井九段が桂取りに△7六歩と打つと、近藤七段は手抜いて▲4六角とぶつけます。作戦会議室では森内九段が「逃げないの?」とつぶやき、渡辺名人が「ひぇー、マジで」と叫びます。藤井九段は角交換に応じてから飛車取りに△4七角と打ち、近藤七段が▲3五飛と銀取りでかわすと、△8六銀と踏み込みます。藤井九段は飛車を7筋に転回して先手陣の金銀を剥がしますが、近藤七段も▲6五桂~▲7三歩と後手玉のコビンを攻め立てます。藤井九段は飛車を浮いてかわしますが、近藤七段は▲7三銀~▲8二角と後手玉を追い込み、金取りに▲5三桂不成と飛び込みます。藤井九段は△7三飛と銀を食いちぎって清算し、△7七銀と攻め合いますが、近藤七段は▲5二飛と打って金を合い駒に使わせてから▲7七銀と清算します。藤井九段は歩で金頭を叩いて下駄を預けますが、近藤七段は▲9五飛から鮮やかに即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:3勝 - チーム渡辺:2勝

六局目:森内俊之九段 vs 渡辺和史五段

両チームとも自然な順番で、またも公式戦では対局のない顔合わせが実現しました。先手の森内九段が矢倉に誘導し、渡辺五段は中住まいに構えます。森内九段が3筋の歩をぶつけると、渡辺五段は4筋の歩を突いて銀の突進を防ぎます。渡辺五段の現代風の駒組みに、森内九段は少しずつ時間を削られています。渡辺五段は△1三角と覗いて角交換し、7筋の歩を突き捨ててから△3九角と打って馬を作ります。渡辺五段が1分半程考えて5筋の歩をぶつけると、森内九段は手厚く▲5七金と備えます。作戦会議室では藤井猛九段が「いやー、大丈夫ですか」、渡辺名人も「おっ、やだねぇ」とつぶやいています。渡辺五段は△8六歩と打って銀を下がらせ、△5四馬と引いて銀に当てます。森内九段は▲4五銀と突いて銀を守りますが、渡辺五段は金銀両取りに△6五桂と跳ねます。明らかに動揺した森内九段は▲5五歩と馬に当てて位置をずらしてから金を逃げますが、渡辺五段は冷静に△5七歩と飛頭を叩いてから銀桂交換します。作戦会議室では藤井竜王が「少し慎重すぎた気が」とつぶやいています。渡辺五段は△7七馬と金を食いちぎり△8六飛と走ります。森内九段は▲9五角と打って竜を作らせ、竜取りにもう1枚▲9八角と打ちます。渡辺五段は残り1秒まで考えて△8一竜と引きますが、森内九段は▲4四歩から銀を取ります。渡辺五段が△8七歩と再び攻撃に転ずると、森内九段は竜を歩で釣り上げて▲7五桂と竜銀両取りに打ちます。渡辺五段が銀を取らせる代わりに角を攻めると、森内九段は銀を犠牲に竜と角を交換します。技の応酬で大熱戦となりましたが、最後は渡辺五段が△7九角から寄せに入り、銀で先手陣の金を剥がして即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:3勝 - チーム渡辺:3勝

七局目:藤井聡太竜王 vs 近藤誠也七段

両チームの6人が全員1勝1敗となり、あらためて三番勝負となりました。先手の近藤七段が角換わりに誘いましたが、藤井竜王は角道を止めて雁木に構えます。近藤七段も雁木に構えると、藤井竜王は△5五歩と突いて先手の銀を引かせます。近藤七段が▲5六歩とぶつけて反発すると、藤井竜王は△7五歩とぶつけます。近藤七段が5筋の歩を取り込むと、藤井竜王は1分程考えて7筋の歩を取り込み△7四飛と寄ります。近藤七段が4筋の歩を突き捨ててから▲2四歩と伸ばすと、藤井竜王は角で取って角交換します。近藤七段が香取りに▲8二角と打ち込むと、藤井竜王は7筋の歩を成り捨て金で取らせて△8八角と打ち込みます。お互いに香を取り合って、近藤七段が銀取りに▲6五香と打つと、藤井竜王は取ると王手飛車があるので銀香交換を甘受します。近藤七段が馬で後手の飛車を追うと、藤井竜王は飛車を見捨てて△5七歩と金頭を叩きます。近藤七段が金で歩を払うと、藤井竜王は香で竜に紐を付けます。近藤七段が飛馬交換はせずに▲7四歩と桂頭を叩くと、作戦会議室では渡辺名人が「行った!」と叫びます。藤井竜王はやむを得ず飛車で取りますが、近藤七段は銀で飛車を捕獲し飛銀交換に成功します。近藤七段が▲7一馬~▲6一飛と後手玉に迫ると、時間に追われた藤井竜王は銀取りに△4六香と打って天を仰ぎます。作戦会議室では渡辺名人が「なんか今日はちょっと調子悪いね」と相手を気遣っています。1分近く時間を残していた近藤七段は慎重に30秒程考えて▲5四桂から寄せにいき、藤井竜王が詰めろを掛けて下駄を預けると即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:3勝 - チーム渡辺:4勝

八局目:森内俊之九段 vs 渡辺明名人

カド番となったチーム藤井は、相手を渡辺名人と読んで森内九段に託します。先手の森内九段がまたも矢倉に誘導し、渡辺名人も受けて立ちます。森内九段は早囲いから金矢倉に組むと、渡辺名人は銀矢倉に組みます。渡辺名人が飛車を6筋に寄せて△8四角と覗くと、森内九段は4筋から仕掛けて▲4五桂と跳ねます。渡辺名人が△4四銀とかわすと、森内九段は飛先の歩を交換します。渡辺名人が30秒程考えて△6五桂と跳ねると、森内九段は▲4八角とかわします。渡辺名人が9筋から端攻めすると、森内九段は2筋の継ぎ歩攻めで歩を吊り上げてから1筋の歩も突き捨て、▲2四歩と垂らします。渡辺名人が1分程考えて△3一玉と早逃げすると、森内九段は角取りに▲7五銀と出ます。渡辺名人が△7七歩と金頭を叩いて桂交換してから△9五角と出ると、森内九段は▲6四歩と打って後手の飛車のラインを止めます。渡辺名人は△6五桂~△7七歩と先手陣に楔を打ち、△4五銀と桂を補充します。森内九段は▲4五銀と取りますが、渡辺名人は更に銀取りに△3三桂と跳ねます。森内九段は香を走って銀を取らせる代わりに▲9五香と角を取りますが、渡辺名人が△9五同香と取ると先手陣はかなり危険な状態に見えます。森内九段は▲6五金と上がって上部脱出を目指しますが、両者時間に追われる中、渡辺名人は慎重に先手玉を下段に落として即詰みに討ち取りました。
チーム藤井:3勝 - チーム渡辺:5勝

第一試合の結果

チーム渡辺は、リーダーの渡辺名人が一局目にリーダー対決を制し、決着局にも勝って貫録を示しました。リーダーからの信頼が厚い近藤七段も、タイスコアで迎えた七局目に相手のリーダを倒してチームの勝利に大きく貢献しました。初出場の渡辺(和)五段も貴重な白星を挙げて、大きな戦力となることを示しました。過去の大会では目立った活躍のなかった渡辺名人がこの試合の様に本来の実力を発揮すれば、予選突破はもちろん優勝候補の一角として勝ち上がっていくことが期待できます。
チーム藤井は、過去の大会で抜群の勝率を誇っていた藤井竜王と森内九段が、ともに1勝2敗と振るわず無念の敗戦となりました。初出場の藤井猛九段はこの大会のために用意した秘策を披露し、今後の試合での作戦が注目されます。久し振りのフィッシャールールで波に乗れなかった藤井竜王と森内九段が本来の調子に戻れば、予選突破は十分に可能と思います。

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