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「観る将」が観た第72期王座戦挑戦者決定戦

7月22日に王座戦挑戦者決定トーナメントの決勝が行われました。タイトル獲得通算100期を目指す羽生善治九段と、前期は惜しくも失冠し藤井竜王名人の八冠独占を許した永瀬拓矢九段の顔合わせとなっています。

羽生九段は1回戦から順に佐藤(康)九段、糸谷八段、広瀬九段を降して勝ち上がってきました。永瀬九段は、郷田九段、菅井八段、鈴木九段を倒して決勝に駒を進めました。


永瀬九段は雁木

振り駒で後手となった永瀬九段が角道を止めて雁木に組むと、羽生九段は3筋の歩を突き捨ててから銀を繰り出し、角を6筋に引いて2-3筋を睨みます。永瀬九段は3筋の歩を伸ばし、羽生九段が飛車を3筋に寄せると、4筋の歩を伸ばします。羽生九段が飛車で歩を取ると、永瀬九段は金を前進して受けます。

羽生九段の積極的な動き

羽生九段が3筋に歩を打って銀を追い、4筋の歩を交換して飛車で取ると、永瀬九段は金を5筋に寄ります。羽生九段が3筋の歩を突き捨てて銀を吊り上げ、7筋の歩をぶつけたところで昼休となりました。AIの評価値は永瀬九段の58%とわずかに傾き、各5時間の持ち時間の内、残り時間は羽生九段が3時間18分、永瀬九段は3時間48分となっています。

両者の桂頭攻め

永瀬九段は昼休を挟む38分の熟考で桂を6筋に跳ね、羽生九段が飛車を3筋に寄って銀に当てると、更に27分考えて金を4筋に戻します。羽生九段が6筋の歩を突いて桂に当てると、永瀬九段は3筋の飛頭に歩を打って4筋に追い、更に飛頭に歩を打って飛車を引かせ、3筋の歩を伸ばして桂に当てます。

狙いの角銀両取り

羽生九段は金を6筋に上がって桂打ちに備え、永瀬九段が桂を取ると、飛車で取ります。永瀬九段は8筋の歩を突き捨ててから7筋の歩を取り込み、羽生九段が6筋の桂を取ると、3筋の飛頭を歩で叩いて吊り上げてから、角銀両取りに△7六桂と打ちます。羽生九段は角を7筋に上がってかわし、永瀬九段が銀桂交換してから3筋の飛頭を歩で叩くと、飛車を1つ引いてかわします。

羽生九段の自陣桂に永瀬九段の端銀

永瀬九段は飛車を走り、羽生九段が歩で追い返すと、玉を4筋に上がって自陣を整備します。羽生九段は▲2八桂と打ち、永瀬九段が△1五銀と打つと、37分の熟考で残り50分となり、銀交換に応じます。永瀬九段が角で取って飛車に当てると、羽生九段は歩で飛車を支えます。

羽生九段の逆襲

永瀬九段が銀を4筋に引いて陣形を整えると、羽生九段は2筋の歩を突き捨て、▲2二歩と桂頭を叩きます。永瀬九段が次の84手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は永瀬九段の84%と大きく傾き、残り時間は羽生九段が48分、永瀬九段は54分となっています。

揺れ動く評価値

夕休が明けると、永瀬九段は3筋に桂を跳ねてかわし、羽生九段が2筋に"と金"を作ると、更に桂を2筋に跳ねて飛車に当てます。羽生九段が歩で1筋の角を追うと、永瀬九段は8筋に歩を合わせて角頭を叩きます。羽生九段は玉で取り、永瀬九段が桂で飛車を取ると、歩で角を取り返します。永瀬九段が手堅く9筋の歩を突いて角を打たれる傷を消すと、AIの評価値はほぼ互角に戻ります。

手順前後か

AIは銀を打って後手の飛車を追う手を推奨していますが、羽生九段は自然に成桂を取り、永瀬九段が桂香両取りに△2九飛と打つと、7筋に持ち駒の桂を打って8筋の桂を守ります。AIの評価値は、再び永瀬九段の77%と振れます。永瀬九段は2筋の桂を取って竜を作り、羽生九段が遅ればせながら8筋に銀を打つと、同飛成と食いちぎって空けたスペースに△8六銀と王手で打ち込みます。

慎重な寄せ

この銀はタダですが、取ると竜で金を取られる手が激痛なので、羽生九段は玉を7筋に引きますが、永瀬九段は角金両取りに△7六桂と打ちます。羽生九段が手抜いて後手陣に飛車を打ち込むと、永瀬九段は慎重に17分考えて自玉の不詰みを確認し、金桂交換してから△5七金と打って詰めろを掛けます。羽生九段は持ち時間を使い切るまで考え、飛車で銀を取って王手し、更に桂で王手しますが、永瀬九段が適切に応じると、髪に手を当ててから投了を告げました。

まとめ

本局は羽生九段の積極的な動きに対し、永瀬九段は金銀を繰り出して受け止め、わずかに優勢な局面を築きました。永瀬九段は攻めを急がず自陣の傷を消しながらチャンスを待ち、竜を作ってからは飛車を切って一気に寄せ切りました。AI的には形勢が揺れ動く中終盤となりましたが、永瀬九段は手堅い将棋で劣勢になることなく挑戦権を獲得しました。
対局直後、永瀬九段は「昨年は悔いの残る内容になってしまったので、今期はその点を改善して良い将棋をと思っています」と淡々と話しました。9月4日に開幕する五番勝負が、前期にも増して熱い戦いになることを期待したいと思います。

第72期王座戦挑戦者決定戦 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟
本稿は王座戦における棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza )に従っています。

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