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「観る将」が観た第72回NHK杯トーナメント本戦3回戦 藤井竜王vs佐藤(天)九段

1月15日、NHK杯本戦の藤井聡太竜王と佐藤天彦九段の対局が放映されました。

藤井竜王は本戦からの登場で、2回戦では伊藤(匠)五段を破っています。過去のNHK杯では苦戦しており、これまでの最高成績はベスト16です。佐藤九段も本戦からの登場で、2回戦で三浦九段を降しています。

本局の収録日は公表されていませんが、両者は昨年末から棋王戦挑決トーナメントと挑決二番勝負、順位戦と対局が続いており、観る側からすると2か月強の間に5局目の顔合わせとなります。両者の対戦成績は昨年末の4連戦で藤井竜王の3勝1敗、通算では藤井竜王の6勝1敗となっています。

戦型は矢倉対急戦

振り駒で先手となった佐藤九段が矢倉に構え、藤井竜王は急戦調の駒組みを進めます。藤井竜王が6筋の歩を突き捨て5筋の歩もぶつけると、佐藤九段は▲6七金右と上がって受け止めます。藤井竜王が5筋の歩を取り込み△4四銀と上がると、佐藤九段は2筋の歩を交換して角で取り、▲4六角と引いて桂に当てます。

6筋で向かい合う飛車

藤井竜王が金を上がって桂に紐を付けると、佐藤九段は飛車を6筋に回します。藤井竜王が△5四銀と上がって2枚の銀を並べ、△5五歩と打って位を確保すると、佐藤九段は▲3七桂と跳ねて戦力を整えます。藤井竜王が飛車を6筋に回すと、佐藤九段は7筋の歩を突き捨て、後手の飛車と角の焦点に▲6四歩と突き出します。

中盤の難所で考慮時間を消費

藤井竜王はここで10分の持ち時間を使い切って飛車で歩を取り、更に考慮時間を使って銀取りに△6五桂と跳ねます。佐藤九段は銀を引きますが、藤井竜王は更に考慮時間を重ねて3筋の歩をぶつけます。佐藤九段は飛車取りに▲7五金と出て引かせると、ここで持ち時間を使い切り更に考慮時間を3回使って▲6四歩と再び焦点の歩を放ちます。AIの評価値は藤井竜王の58%とわずかに傾いています。

銀桂交換

藤井竜王が3筋の歩を取り込むと、佐藤九段は▲2五桂とかわします。藤井竜王が△7七歩と金頭を叩くと、佐藤九段は銀で取って桂との交換に応じます。藤井竜王が△5六銀と打って先手陣に圧力を掛けると、佐藤九段は▲2二歩と桂頭を叩きます。藤井竜王は構わず△6七歩と飛頭を叩き、拠点を作ってから2筋の歩を取ります。

佐藤九段の勝負手

佐藤九段は金取りに▲3四桂と打ち、藤井竜王が△3二金とかわすと、再度▲2二歩と叩きます。藤井竜王が桂を跳ねてかわすと、佐藤九段は▲2一歩成と"と金"を作って角に当てます。藤井竜王が角をかわすと、佐藤九段は飛車で銀を食いちぎる勝負手を放ちます。AIの評価値は藤井竜王の73%と大きく傾いています。

佐藤九段の猛攻

佐藤九段が角取りに▲6五桂と跳ねると、藤井竜王は構わず△2五桂と桂を補充します。佐藤九段は角桂交換して▲7四角と王手し、合い駒に桂を使わせてから▲2二"と"と引いて金に当てます。後手玉は急に狭くなり、AIの評価値は佐藤九段の67%と逆転しています。

AIの評価値が乱高下する攻め合い

藤井竜王は金を"と金"を交換してから金取りに△6六桂と打ちますが、AIの評価値は佐藤九段の87%と大きく傾きます。佐藤九段は考慮時間を使い切って▲7七金とかわしますが、藤井竜王も考慮時間を使い切って△8八飛と打ち込みます。難解な終盤戦に突入し、一手指す毎にAIの評価値も乱高下しています。

藤井竜王の攻勢

佐藤九段は銀を引いて詰めろを逃れ、藤井竜王が△8九飛成と王手すると、金を打ってはじきます。佐藤九段が▲6六金と桂を取ると、藤井竜王は空いたスペースに金取りで△7七香と打ちます。佐藤九段が桂で合い駒すると、藤井竜王は8筋の歩をぶつけて攻め駒を足します。佐藤九段は▲8八銀と打って竜を追ってから8筋の歩を取りますが、藤井竜王は香を桂と交換して△7七歩と金頭を叩きます。佐藤九段が銀で取ると、藤井竜王は△9九竜と王手し、香で合い駒させてから△3七歩成と挟撃態勢を作ります。

佐藤九段の反撃

佐藤九段が▲5六角と先手陣に迫る歩を取ると、藤井竜王は△6四桂と跳ねて角に当てます。佐藤九段が▲7四角と出て王手し▲3四歩と垂らして"と金"作りを狙うと、藤井竜王は角取りに△7三歩と打ちます。佐藤九段が飛頭に歩を連打して角の逃げ場所を作ってかわすと、藤井竜王は△5一玉と早逃げします。AIの評価値は藤井竜王の73%と傾いています。

2枚の桂

藤井竜王が角金両取りに△5四桂と打つと、佐藤九段は角を引いてかわします。藤井竜王は歩で先手陣を乱してから"と金"を歩と交換して補充し、佐藤九段が反撃を見据えて▲2五角と出たところで金桂交換します。藤井竜王がもう1枚の桂も銀取りに△5六桂と跳ねると、佐藤九段は▲3三角成と王手で飛び込みます。

潔い投了

藤井竜王は6筋に玉をかわしてから銀桂交換し、△4四銀と上がって馬に当てつつ先手陣への利きを遮断します。後手玉は7-8筋方面に広く、先手陣は金銀を剥がされて薄くなり、攻防共に見込みがなくなった佐藤九段は潔く投了を告げました。

まとめ

本局は6筋で飛車が向かい合う形で難解な中盤戦となり、お互いに時間を使いつつ藤井竜王がわずかにリードを奪ったように見えました。佐藤九段は飛車切りの勝負手から猛攻を仕掛けて逆転しましたが、両者とも考慮時間を使い切った辺りでは一手毎に評価値が大きく揺れ動き、ファンをハラハラさせる展開となりました。最後は藤井竜王が自陣の懐を拡げ、竜と2枚の桂で先手陣を崩して勝利を掴み取りました。
藤井竜王はNHK杯では自身初となるベスト8に進出し、4つある一般棋戦の完全制覇に向け関門をまた1つクリアしました。NHK杯初優勝まであと3勝となりましたので、期待して見守りたいと思います。

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