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「観る将」が観た第71期王座戦挑決トーナメント 藤井竜王名人2回戦

6月20日に王座戦挑戦者決定トーナメントの2回戦、藤井聡太竜王名人と村田顕弘六段の対局がありました。藤井竜王名人はシードされて挑決トーナメントからの出場で、1回戦では中川八段を降しています。村田(顕)六段は一次予選を4連勝で突破し、二次予選では佐々木(慎)七段と村山七段を破って挑決トーナメントに進出しました。1回戦では木村九段を倒しています。

村田六段は2007年プロ入りの36歳で、デビュー当初は糸谷八段、豊島九段、稲葉八段と並び、関西若手四天王と呼ばれた逸材です。居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーで、詰将棋は作る方も解く方も得意としています。最近は独自に編み出した新戦法「村田システム」で著書も出しています。両者の対戦成績は、藤井竜王名人の3戦3勝です。


村田システム

振り駒で先手となった村田六段が相掛かりに誘導し、飛先の歩を交換してから角道を開けずに早繰り銀を進めます。藤井竜王名人が右桂の活用を図ると、村田六段は3筋の歩を突き捨ててから玉を6筋に寄ります。藤井竜王名人が飛先の歩を交換して下段に引くと、村田六段は5筋の歩を伸ばします。宣言通り村田六段の工夫の出だしとなり、お互いに小刻みに時間を使って指し進めています。

開戦

藤井竜王名人は18分の考慮で7筋の歩を伸ばし、村田六段が14分考えて5筋に金を上がって陣形を整えると、6筋に銀を上がって備えます。村田六段は7筋の歩をぶつけて角道を開け、藤井竜王名人が同歩と応じると、▲3五銀と3筋の歩を取り返します。藤井竜王名人が次の38手目を考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王名人が3時間56分、村田六段が4時間5分となっています。

天王山の角

藤井竜王名人が昼休を挟む48分の長考で7筋の歩を成り捨て、角取りに△8五桂と跳ねると、村田六段は悩ましげな表情で目を閉じて81分長考し、角を6筋に上がってかわします。藤井竜王名人は7筋の金頭を歩で叩き、村田六段が金を8筋に寄ってかわすと、6筋の歩を伸ばして角に当てます。村田六段が角を5筋に引いてかわすと、藤井竜王名人は△5五角と天王山に飛び出します。

藤井竜王名人の連続長考

村田六段が3筋に歩を打って角成を防ぐと、藤井竜王名人は42分の熟考で7筋に飛車を寄せます。村田六段が歩で飛車の利きを止めると、藤井竜王名人は更に51分の長考で△3三金と上がります。村田六段が飛車を5筋に寄って角に当てると、藤井竜王名人が次の52手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は村田六段の59%とわずかに傾いてきました。残り時間も藤井竜王名人が48分、村田六段が1時間55分と1時間以上の差が付いています。

村田六段の踏み込み

夕休が明けると、藤井竜王名人は金を上がって角に紐を付けますが、村田六段は飛車を角と刺し違え、飛金両取りに角を打ち込みます。藤井竜王名人が飛車を8筋にかわすと、村田六段は▲5五角成と金を取って馬を作ります。藤井竜王名人が少し肩を落として先手陣に王手で飛車を打ち込むと、村田六段は5筋に底歩を打って凌ぎます。AIの評価値は村田六段の71%と傾いています。

一直線の攻め合い

藤井竜王名人が竜を作って桂香を拾うと、村田六段も馬で香と桂を取ります。藤井竜王名人は残り17分まで考えて、5筋に香を打って角金を田楽刺しにしますが、村田六段は構わず馬で銀を取って後手玉に迫ります。藤井竜王名人が更に角取りに桂を打つと、村田六段は66分の長考で残り14分となり、落ち着いた手つきで角を上がってかわしつつ後手陣を睨みます。

絶体絶命

藤井竜王名人は香で金を取り、竜を引いて王手を続けますが、村田六段は香の合い駒で防ぎます。藤井竜王名人が金を打って先手玉に迫ると、村田六段は構わず▲7五香と打って詰めろを掛け、ABEMAではこの詰めろを振りほどくのは難しいと解説されています。藤井竜王名人は金で香を取って王手を掛けますが、村田六段は玉を6筋に引いてかわし、AIの評価値は村田六段の94%と大きく傾いています。

藤井竜王名人の勝負手

1分将棋に突入した藤井竜王名人が△6四銀と先手の角の利きに銀を差し出す勝負手を放つと、ABEMA解説の千葉七段が「いやぁー、なん、ですか?」と戸惑いの声を上げます。この手は解説陣もまったく気づいておらず、AIの推奨手にも上がっていませんでしたが、後手玉の退路を作り、詰めろは逃れているようです。残り6分となっていた村田六段も意表を突かれたと思われますが、この銀を取ると自玉が詰まされることを看破し、自陣の銀を上がって受けて踏みとどまります。

両者1分将棋の死闘

藤井竜王名人が再度5筋に香を打って先手陣に迫ると、村田六段も1分将棋に突入し、玉を7筋に早逃げします。藤井竜王名人が更に金で歩を取って迫ると、村田六段は▲5九同銀と金を取ります。この瞬間、ついにAIの評価値は藤井竜王名人の85%と逆転します。

長手数の即詰み

藤井竜王名人は銀で7筋の香を取り、自玉の逃げ道を確保しつつ、先手玉に詰めろを掛けます。村田六段は秒読みに追われて中盤に放たれた7筋の垂れ歩を桂で取りますが、AIは先手玉に23手詰が生じていることを示しています。こうなると藤井竜王名人は逃さず、竜で金を食いちぎって王手します。村田六段は数手指し続けましたが、藤井竜王名人が金で王手したのを見て投了を告げました。

まとめ

本局は村田六段が独自に編み出した戦型で第一人者に挑み、あと一歩のところまで追い詰めました。藤井竜王名人はAIには決して発見できない、人間ならではの勝負手で状況を一変させ、鮮やかな逆転勝ちとなりました。
藤井竜王名人はベスト4に進出し、対局後には「準決勝に進むことができたので、また気持ちを新たに頑張りたいと思います」と話しました。次の準決勝では羽生九段との対戦が決まっており、王将戦七番勝負以来のドリームマッチが熱戦となるよう期待したいと思います。
解説陣が対局前に「普段にも増して気迫が感じられる」と口を揃えた村田六段は、対局後には終盤に1時間超えの長考をして1分将棋になってしまったことを悔やんでいましたが、村田システムの優秀性を証明する一局になったと思います。対局後には「自分が全く見えなかった手を指されていて、藤井七冠に勝つことの大変さを思い知らされました」と無念そうに話しましたが、AI発ではない独自の戦型に磨きをかけ、飛躍を遂げるのを楽しみにしたいと思います。

王座戦は、日本経済新聞社と日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「王座戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)

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